金属労協 2024〜2025年度 運動方針

1.はじめに

 「活動と組織の改革」の実現目標を2024年度(2023年9月~)と置き、「新しい金属労協のあるべき姿」を念頭に活動を進めてきた。
 この間、連合の金属部門連絡会議議長・事務局長会議において金属労協としての考え方を明らかにするとともに、連合との間で意見交換を行ってきたところである。
 2023年10月からの連合の次年度運動方針の中で、組織体制についても検証し必要に応じた見直しが提起されることから、引き続き、金属産業の産業政策・労働政策に関する取り組みをいかにして連合の活動と連携させていくのかという視点で議論を深めていくこととする。
 なお、連合と金属労協との組織のあり方の論議の進捗状況ならびに組織財政検討プロジェクト答申を踏まえ、金属労協の2024~2025年度運動方針は現行組織体制をベースとして策定することとする。

2.基本的な考え方

 金属産業は日本の基幹産業であり、金属労協としてもその自覚のもとに役割と責任を果たすべく活動を行ってきた。今後も金属産業にはわが国の成長を牽引していくことが期待されているものと考えており、私たちは金属産業の発展に資する労働運動を展開していかなければならない。
 金属労協は2024年5月に結成60周年を迎えることとなる。
 この節目の年をさらなる飛躍へと繋げるべく、インダストリオールの仲間との連携を深めるとともに、5産別の強固な連帯により、金属産業で働く仲間の幸せを求め、力強い活動を推進していく。

<国際労働運動>

  • 国際連帯の重要性が増す中にあって、ドイツ、北欧、韓国、アジア太平洋地域の組織との緊密な連携を図るとともに、インダストリオールの活動における金属労協のプレゼンス向上に向けて取り組む。
  • 国内外を問わず、サプライチェーン全体で人権を遵守することが企業に求められている。金属労協として、企業の人権デュー・ディリジェンスへの労働組合の参画を推進していく。併せて、政策対応などにも取り組む。
  • 日系企業の海外事業体における労使紛争がアジア地域を中心に依然として発生している。金属労協として、当該地域のインダストリオール加盟組織からの紛争解決に向けた支援要請を受けており、その解決に向けてインダストリオール本部、地域事務所、当該産別・労連・単組と連携を図る。
  • 国内外における労使を対象とした建設的な労使関係構築に向けた取り組みを継続することにより、労使双方の信頼関係を深めるとともに建設的な労使関係の構築に繋げていく。

<人材育成>

  • 労働組合の最大の武器は「人」であり、次代の労働運動を担う組合役員の育成は最重要課題の一つである。今年で54回を迎える労働リーダーシップコースの実施にあたっては、講師と連携し時代のニーズに合ったプログラムへの改善と内容の充実を図る。
  • 産別横断的なネットワークを活かした産別・単組役職員の知見を拡げる勉強会の開催や、スキルアップに資する専門的な課題ごとのセミナー等を開催する。なお、実施に当たってはWebも活用しながら、多くの方に参加してもらえる取り組みとしていく。
  • 企業活動のグローバル化に伴い、労働組合としてもグローバルな視野で労働運動を推進できる人材が求められていることから、国際労働研修プログラム等を通じた人材育成に努める。

<金属産業政策>

  • 大変革にある産業の競争力強化に向け、「民間・ものづくり・金属」の観点を踏まえた金属産業政策を策定するとともに、実現に向けて積極的に要請活動を展開する。

<金属共闘>

  • 2023年闘争はJC共闘により、組合員の生活を守るとともに、日本経済の下支えをする観点からも、一定程度労使の社会的責任を果たすことができたと考える。この取り組みを一過性のものとせず、継続することが重要である。
  • 金属労協はこれまでも賃金・労働条件の向上と企業の持続的発展の実現のために、産業を支える「人への投資」の重要性を訴え、JC共闘を進めてきた。
  • 次年度以降の闘争においてもこの基本的な考え方をベースとするとともに、人材獲得競争が激化する中にあって、金属産業の魅力の向上と日本の基幹産業である金属産業にふさわしい賃金水準の確立に向け、闘争のけん引役を果たすべく取り組んでいく。

<地方活動の展開>

  • 金属産業の持続的発展のためには、生産拠点が実際に存在し、従業員の生活の場でもある地元の活性化を促すことが重要であることから、引き続き、地方ブロックおよび都道府県単位での活動を支援していく。

<新しい金属労協のあるべき姿>

  • 「新しい金属労協のあるべき姿」の具体化に向け、引き続き、連合との議論を行う中で前進を図っていく。

<財政>

  • 「新しい金属労協のあるべき姿」を視野に入れつつも、連合との調整には一定程度の期間を要することが見込まれることから、当面の間、活動の効率化、予算の効率的な執行、財政基金積立金から一般会計への繰り入れにより活動を行っていく。
  • 引き続き、各種活動の効率化やスクラップ・アンド・ビルドを行っていくが、同時に、運動の持続性も念頭に置いた事務局体制の整備を進める。
  • なお、当面の間、インダストリオール会費が増加することが見込まれることから、財政の安定化に向け、組織改革推進会議等における議論を行っていく。

<結成60周年>

  • 1964年5月に現在の金属労協の前身である国際金属労連日本協議会が発足してから、2024年5月で結成60周年を迎える。
  • 結成60周年を機に、あらためてこの間の歴史を振り返るとともに、次の10年に向けた活動につなげるべく、各種機関会議等において60周年記念行事等に関する検討を行うとともに実施していく。

3.運動をとりまく情勢

3.1 国内情勢

(1)経済情勢

 2022年度のわが国の実質GDP成長率は1.4%となった。個人消費、設備投資を中心に内需が堅調な一方、輸入物価の上昇により外需は前年比マイナスとなった。2023年度の実質GDP成長率予測は、7月時点の政府見通しは1.3%、日銀見通しは1.3%、民間調査機関の予測の平均は1.2%となっている。
 鉱工業出荷は、足元で持ち直しの動きが見られる。設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)は、増加傾向で推移している。
 経済活動の動向を敏感に観察できる人々に対するアンケート調査である「景気ウォッチャー調査」は、好不況の境目である50を上回っている。
 輸出金額は、増加幅が鈍化しつつも前年比プラスが続いている。原油価格の下落により輸入金額が減少していることを受け、貿易収支の赤字は縮小している。
 消費者物価上昇率(総合)は、食品価格を中心に大幅な上昇が続いており、2023年6月は3.3%となった。2023年1月以降、政府の「電気・ガス価格激変緩和対策事業」などが上昇率を押し下げているものの、10月に終了する予定となっている。2023年度の上昇率見通し(生鮮を除く総合)は、2.6%(2023年7月時点の民間調査機関の予測の平均)となっている。
 完全失業率は、低水準で横ばいとなっており、2023年6月は2.5%となっている。有効求人倍率も足元で横ばいとなっており、2023年6月は1.30倍となった。
 企業業績について、日銀短観によると、売上高はほとんどの産業で増収の予想となっている。経常利益は、欧米の中央銀行の利上げによる海外経済の減速を見込み、減益予想の業種が多くなっているものの、自動車産業を中心に回復のきざしが見られる。

(2)政治情勢

 2023年5月8日、政府は新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけを、それまでの「2類相当」から季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行した。それにより、感染症法に基づく、陽性者及び濃厚接触者の外出自粛や感染症対策は求められなくなった。
 先進7か国首脳会議(G7サミット)が5月19~21日に広島市で開催された。サミットでは、ロシアによるウクライナ侵攻を、国際社会の基本的な規範、規則および原則に違反する脅威と捉え、G7として国際秩序の堅持に向けた結束強化を表明した。また、経済的強靭性および経済安全保障については、デリスキング(リスク軽減)およびサプライチェーンの多様化が必要であることを強調した。
 2023年5月には、エネルギー安定供給と経済成長を同時に実現する観点から、「GX推進法」と「GX脱炭素電源法」が成立した。これに基づき、10年間で20兆円規模となる新しい国債「GX経済移行債」を2023年度から発行し、民間資金と合わせて150兆円超の脱炭素投資を進める。また、原子力発電所の運転期間は、事実上60年超の運転が可能となる。原発を活用して電力の安定供給や脱炭素社会の実現につなげることを「国の責務」と明確に位置づけた。
 2023年6月に確認した「経済財政運営と改革の基本方針2023」では、30年ぶりとなる高い水準の賃上げや企業部門における高い投資意欲など、足下での前向きな動きを更に力強く拡大することをめざした。具体的には、「三位一体の労働市場改革を通じた構造的賃上げの実現や、これによる分厚い中間層の形成」を第一に掲げ、人への投資・グリーン・経済安全保障など、市場や競争に任せるだけでは過少投資となりやすい分野における官民連携投資の拡大による持続的な成長の実現や、こども・子育て政策の抜本強化、戦略的外交・安全保障の展開、経済・財政一体改革の着実な推進、に取り組むこととした。

3.2 国際情勢

 国際社会が歴史的な転換期に差しかかっている中、南半球を中心とする新興・途上国である「グローバルサウス」の存在感が高まっている。グローバルサウスに明確な定義はないものの、インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカなどが代表的な国々として見られている。これらの国々は、欧米と中ロの対立には中立的な姿勢を保ちつつ、食料やエネルギー、気候変動などの課題に対して、自国の経済的利益を優先した動きで国際社会での発言力を強めている。一方先進国では、グローバルサウスとの協調を図るため、中国の経済を切り離す「デカップリング」といった分断を図るやり方ではなく、「デリスキング(リスク軽減)」により、関係を維持していく考えを打ち出している。

(1)経済情勢

 世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰が落ち着いてきたことを受け、2023年のGDP成長率の見通しは2.7%と緩やかな回復を維持すると見られている。
 米国は、2023年成長率見通しは1.6%となっている。2022年3月以降、FRBはインフレ抑制のために利上げを続けており、製造業を中心に景気を下押ししている。
 ユーロ圏は、2023年の成長率見通しは0.9%となっている。天然ガスの供給不安は後退し、価格も落ち着いてきたものの、基調的な物価上昇圧力は根強く、個人消費を下押ししている。
 中国は、ゼロコロナ政策の解除により持ち直しており、2023年の成長率見通しは5.4%となっている。
 東南アジアでは、スマートフォンやパソコンなどへの需要が世界的に低迷していることを受け、輸出が減少している一方、海外からの観光客が増加し、景気は回復傾向を維持している。一方、欧米の金融引き締めが経済の下押し圧力となることが懸念されている。

(2)政治情勢

 2022年2月24日以降、ロシアがウクライナに侵攻を開始して1年が経過した。国連難民高等弁務官事務所の発表によると、2023年2月までに、ウクライナでは少なくとも市民7,199人が死亡し、国外へ避難する人は800万人を超えている。
 2022年11月、米中間選挙が行われ、上院選では与党・民主党が多数派を維持した。一方、下院選では野党・共和党が過半数の議席を獲得したことで4年ぶりに多数派となり、政権と下院多数派が異なるねじれ議会となった。
 2023年6月、欧州委員会は、EU初となる経済安全保障戦略を発表した。戦略では、中国との関係について、リスク低減を図りつつ、関係を維持していくデリスキングを打ち出した。
 2022年10月、中国で5年に一度開催される最重要会議である第20回中国共産党大会が開催され、習近平総書記は異例の3期目続投を決めた。政治報告では、「中国式現代化」という考えを強調し、米欧モデルとは異なる発展モデルを追求する方針を打ち出した。台湾統一については、平和統一の実現に向け「最大の努力を尽くす」としつつ、外部からの干渉や台湾独立勢力に対しては「決して武力行使の放棄を約束しない」と5年前になかった表現で言葉を強めた。

4.運動方針

4.1 国際連帯・国内外での建設的労使関係構築に向けた活動

国際連帯活動

(1)目的
  • アジア地域における国際労働運動のリード役として金属労協がその運動をめざすべき方向へ導くべく、引き続き、インダストリオール台での発言力・影響力の維持・向上を図る。加えて、各国の労働・社会情勢に関する情報や、先進事例を収集し、国内情勢における課題解決にもつなげていく。さらに、海外友誼組織との国際連帯活動を通じて、組合間ネットワークの維持・強化ならびに国際労働情勢等の情報収集に努める。
  • また、国際連帯活動の推進に資すべく、国内連帯、国内関係組織との定期的な交流・情報交換を進める。
(2)課題・背景など
  • 金属労協が加盟する国際産別組織インダストリオールは、2025年にオーストラリアで開催が予定されている第4回世界大会に向けて、今後の活動の方向性等を確認するための中間政策会議を2023年6月に南アフリカ・ケープタウンで開催した。
  • 米中対立による世界情勢の変化、ミャンマー国軍によるクーデター、ロシアのウクライナ侵攻など、世界各国における民主主義が脅威に晒され労働基本権が侵害されている。さらには、DX・GXといった技術革新・グリーン化政策への対応の要請、COVID-19からの回復に伴う世界的な市場・労働環境の変化が生じている。こうした中で、インダストリオールらしい、より産業横断的な公正な移行を中心とする政策の実現、グローバルでの労働基本権の確保、社会的不平等の解消、女性や青年の参画向上の実現に向けた活動が求められる。金属労協としてもこうした活動への適切な対応による公正な労働基準の確保、その実現に向けた建設的労使関係の確立が国内外の労使において期待されている。
(3)具体的な運動
  • 2025年に開催されるインダストリオール世界大会に向けては、2023年6月に南アフリカで開催された中間政策会議での議論も踏まえ、主要加盟組織との連携を強化し、各種取り組みや議論へ主体的に参画する。リーダーシップにおいては、副会長・アジア太平洋地域共同議長、女性代理執行委員を引き続き務める。加えて、本部書記次長、東南アジア地域事務所長の派遣組織としての役割と責任を果たす。
  • 国際的な産業課題については、国内活動と連携しつつ、インダストリオールの活動に積極的に対応し、JLCとも連携を図り、インダストリオールやその加盟組織に対する働きかけを行う。
  • 「日韓金属労組定期協議」については両組織で確認した2026年までの実施の枠組みにて執り行い、以降の実施方法についての検討も行う。また、「日独金属労組定期協議」については、2023年10月のIGメタル大会以降の受け入れに向けて準備を行う。「中国金属工会との交流」は、再開に向けて調整する。「北欧産業労連との定期協議」については、2025年の受け入れに向けて調整を行う。
  • 男女共同参画では、第4次「男女共同参画推進中期目標・行動計画」に沿った活動を推進する。男女共同参画推進連絡会議において、年1回実施の男女共同参画推進集会・研修会実施に向けた検討を進める。また、各産別主催の研修・講演会等への他産別の参加に関する調整を行う。
  • 青年活動については、インダストリオールの取り組みを注視しながら対応を図る。
  • JLCとの連携を通じて、インダストリオール活動への積極参画を進める。特にアジア加盟組織との強固な関係を築くために、定期的な意見交換やアジアの関係労組のリーダー招聘などの活動を実施する。
  • 連合・GUF・JILAF・ILO駐日事務所や各省庁、駐日大使館といった関係組織との協議・連携の場をもつ。その他の組織・団体についても、活動領域に応じて参加、連携を行う(JP-MIRAI等)。

人権デュー・ディリジェンス

(1)目的
  • 特別なステークホルダーである労働組合の参画のもと、企業が人権デュー・ディリジェンスを適切に実施することにより、グローバル・バリューチェーン全体での労働基本権を含む人権侵害撲滅と企業の持続可能性確保をめざす。
(2)課題・背景など
  • 「人権」がクローズアップされている。海外の一部地域における人権抑圧だけでなく、企業の国内外におけるバリューチェーンでの人権侵害も焦点になっている。欧米を中心に義務化・法制化が進められている人権デュー・ディリジェンスについては、企業の実施を働きかけるため、日本政府が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、進展が加速することが想定される。労働組合は特別なステークホルダーとして、国内外で連携を取りながら、グローバル・バリューチェーン全体での労働基本権を含む人権侵害撲滅と企業の持続可能性確保に向けた参画が求められている。
  • 多国籍企業労組ネットワークや、それを通じて構築された現地事業体における建設的な労使関係は、グローバルな人権デュー・ディリジェンスの取り組みの基盤となる。
  • 同時に、適切に人権デュー・ディリジェンスを実施することは、企業における建設的な労使関係を築く上で欠かせない結社の自由・団結権、団体交渉権の確保につながる。
  • 日本政府の「ガイドライン」には、法的拘束力はなく、また、労働組合を単にステークホルダーの一つと位置付けているなど課題がある。
  • 人権デュー・ディリジェンスにおいて最低限守るべき人権の中でも、労働に関する基本的権利を定めたILO中核的労働基準の10条約について、日本は2条約が未批准である。これは日本の人権遵守体制・制度の未整備を示すものであり、国際社会の信頼を損ねることにもつながる。
(3)具体的な運動
  • 金属労協「人権デュー・ディリジェンスにおける対応のポイント」を活用し、引き続き組織内外での理解の促進を図るとともに、人権デュー・ディリジェンスを実施するためのプロセスの設計段階から労働組合として参画すべく取り組む。
  • 人権デュー・ディリジェンスのプロセスへの参画として労働組合が取り組むべきバリューチェーン上の人権状況の掌握や、人権侵害が発生している場合の苦情処理・救済につなげる観点からも、多国籍企業労組ネットワークの構築等に取り組む。
  • 政府ガイドラインの課題の是正や、年限を設定した上でのガイドライン実効性の検証、実効性に疑義がある場合の義務化・法制化等、政策的な対応も進める。
  • ILO「中核的労働基準」の中で111号(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)、155号(職業上の安全及び健康に関する条約)について、政府に対し早期の批准を求める。

多国籍企業労組ネットワーク構築

(1)目的
  • 海外事業体における建設的な労使関係の構築に向けて、海外労組と日本の労組とのネットワーク構築の推進と労使の理解促進を求める。特に、日系企業が多く進出するアジア各国において、現地労使の理解促進と現地労組の育成を図る。
  • また、それを将来におけるインダストリオールが推進するGFA(グローバル枠組み協定)の締結に向けた必要条件として推進する。
  • 個別企業の労使紛争案件については、現地組織や地域事務所との連携を強化する。特に、オンラインでの活動も活発化させ、複雑になりかねない情報の動きに素早くかつ適切な対応を図る。
(2)課題・背景など
  • 金属産業のグローバル化が進んで久しいが、今なお海外現地事業体における労使による対立、経営側による労働基本権の侵害が報告されている。金属労協としても産別・単組と連携し、解決に至る活動を推進してきた。引き続き、金属労協に対しては、個別の紛争案件への適切な対応とともに、めざすべき海外事業体における建設的な労使関係の構築が期待される。
  • また、海外労組も世代交代によりリーダーシップが不安定化するなど、活動の持続性にかかる課題や属人的な問題なども散見される。さらに、グローバル化の一層の進展、産業の急速な変革等を背景に、海外を拠点とする現地日系企業における労使紛争も目立ち始めており、建設的な労使関係の構築は急務となっている。
  • 一方で、産別・単組における国際活動の推進も一定の枠内での活動にとどまってしまっている現実もある。よって、国際労働運動をこれまで推進してきた金属労協による活動の一層の後押しの期待は高まり続けている。
(3)具体的な運動
  • タイ・インドネシアにおける労使ワークショップについては、より現地労使の理解が深まることをめざして、特に会社側の参画向上と理解を促進させる新たな枠組みを検討する。開催に向けた過程においても、現地産別との連携の強化および建設的な労使関係構築への理解促進を並行して進め、日本の産別・単組役員の傍聴出席としての参加者も積極的に募る。
  • 労使紛争への支援要請に対して、タイ、インドネシアの組織とは一定程度ネットワークを確立しつつある。引き続きWebも活用して適切な情報が入るネットワークの拡充を図る。これにより、産別・単組およびその労組ネットワークを通じた問題の早期捕捉、迅速な解決を支援し、中核的労働基準の遵守につなげる。
  • 産別とも連携しながら、具体的な活動の取り組み事例を収集し、産別・単組が実践に一歩踏み出せるような資料の整備や必要に応じた個別企業労使における活動支援を行う。
  • 産別の国際委員会等にて、労使紛争や中核的労働基準遵守(人権デュー・ディリジェンス)に係る講演等に対応する。

国際人材育成

(1)目的
  • 幅広いメンバーが国際労働人材として広く活動できるよう、基礎的な素養を身に着けるべく教育活動を継続的に実施する。また、活動の助け・即戦力となる人材の育成に資する国際労働組合・労働運動情報を組織の資産とすべく、効率的な情報の整理と蓄積・活用をめざす。
(2)課題・背景など
  • 建設的な労使関係の構築を一層推進するにあたっては、金属労協・産別のみならず、単組の役員まで届く活動を展開し、国際労働運動を推進できる人材を継続的に維持ないし裾野を拡大していくことが基盤整備として求められる。
(3)具体的な運動
  • 国際労働運動を担う人材を育成することを狙いに、日系企業の進出が多い東南アジアを中心に現地の労使関係の大枠をつかめるプログラム(現地関係省庁、経営者団体、労働組合等を訪問・議論)を継続して実施する。
  • 海外の組織、労使紛争の過去経緯等を収集したJCMPediaを継続整備し産別と連携して、積極的に活用する。

日本の労使への建設的労使関係構築の理解促進

(1)目的
  • 加盟産別・単組の労使双方が、中核的労働基準も含めた人権の確保や建設的労使関係構築の重要性に関する理解を深め、進出先の現地労使における日頃からの円滑なコミュニケーションの確保を図る。あわせて、現地労組とのネットワーク構築実現に向けたバックアップを推進する。
(2)課題・背景など
  • バリューチェーン全体にわたり、中核的労働基準も含めた人権の確保が企業に求められている。その実効性ある取り組み推進に向けて、建設的な労使関係構築の重要性に対する日本の労使の理解促進は、金属労協のめざす海外現地事業体における活動推進の基盤として期待される。
(3)具体的な運動
  • 「海外における建設的な労使関係の構築に向けた国内労使セミナー」をWeb/対面のどちらかを適宜選択しながら、また時宜を得たテーマを設定して継続的に開催する。

4.2 次世代の加盟産別・単組の活動を担う役員の育成とスキルアップを支援するための活動

(1)目的
  • 金属労協のネットワークを活かして、産別活動に資する時宜に応じたテーマのセミナー、勉強会を参加しやすく効果的な形態で開催し、産別・単組の役職員のスキルアップに貢献する。
  • 労働リーダーシップコースでは、産別や単組の枠を超えた人材交流を通し、大きな時代の変革期に対応できる人材育成、産業社会の発展に寄与するため、基礎的教育を行う。
(2)課題・背景など
  • 次世代リーダーの育成は、組織の発展・強化にとって最も重要な課題であり、産別・単組においても様々な教育活動が行われている。産別・単組ではカバーしきれないテーマを取り上げるなど、金属労協の特色を活かした教育・研修を実施することが求められている。
  • また、人材育成は新しい金属労協において主体的に取り組む活動の一つであり、これまで実施してきた各種研修会については、内容や開催方法などについて整理していく必要がある。
  • 労働リーダーシップコースは多くの労働組合リーダーを輩出するとともに、産別・単組の枠を超えて人と人とをつなぐ交流の場として高く評価されている。新型コロナウイルス感染症拡大により2021年度は開催を延期したが、2022年度以降、感染症対策に万全を期し、ほぼ通常通りに開催することができた。時代が求める労働組合のあり方を見据えながら、プログラムの改善や内容の充実など引き続き検討する必要がある。
(3)具体的な運動
  • 金属労協の労働政策、産業政策に関わる、タイムリーなテーマを取り上げ、Web研修会を実施する。
  • 労働リーダーシップコースの目的や教育方針を堅持しつつ、引き続き感染症防止対策に留意して開催する。また、時代のニーズに応じたプログラムの改善や内容の充実を検討する。
  • 人材育成のあり方や具体的な活動について議論する場を設置する。

4.3 金属産業政策~産業横断特定テーマに関する金属産業政策立案・実現

(1)目的
  • DX、GXなどの大変革において、産業の競争力強化に向け、金属産業の労働組合の立場から積極的に対応する。技術変化への対応に際しては、社会的対話と労使協議を重ねる中で、新たに必要となるスキルの習得・向上に向け教育訓練を拡充し、急激な変化が雇用に悪影響を与えないための対策、いわゆる「公正な移行」を実現していく。
  • 優越的地位の濫用規制と下請法の強化、中小企業の生産性向上などにより、バリューチェーンにおける付加価値の創出・適正配分に寄与する。
(2)課題・背景など
  • 新型コロナ対応の経験を通じて、わが国におけるDXへの対応の遅れが浮き彫りとなっていることに加え、経済安全保障、2050年カーボンニュートラルの実現など、金属産業は大変革の中にある。
  • 2023年には、「民間・ものづくり・金属」の観点から、人材の確保・育成、カーボンニュートラル、適正取引の各政策からなる「2023年産業政策要求」を策定し、要請活動を展開した。
  • 産業政策要求では、政策の実現力を一層高めていくため、重点化と項目の絞り込みを行ってきたが、民間・ものづくり・金属産業に働く者の観点から、引き続き重点化と項目の絞り込みを行っていく必要がある。
(3)具体的な運動
  • 要請項目については、わが国金属産業の命運を決するDX、GX、適正取引などから重点化する課題を検討し、「産業政策要求」を策定する。実現に向けて、要請活動を展開する。
  • 産業政策の策定に際しては、産別のみならず単組からの幅広い情報提供、提案を募り、意見集約を図るため、産業政策中央討論集会を実施する。
  • 産業政策の素案策定の段階では、専門委員会のほか、より少人数で政策担当者意見交換会を実施するなど、加盟産別との連携を強化するとともに、政策課題に関する学習会を実施し、策定作業、要請活動などに活かす。
  • 政治顧問との連携を強化し、政策実現に向けて協力を進める。組織内の理解促進を図るため、政策レポート、リーフレット等を作成する。
  • 当該年の要請項目の如何に関わらず、政策課題に関する各府省等の担当窓口と定期的な意見交換・情報交換の場を設ける。

4.4 労働政策

金属共闘

(1)目的
  • 日本の基幹産業にふさわしい賃金水準の確立および賃金の底上げ・格差是正をめざし、生産性運動三原則に基づく、「成果の公正な分配」「実質賃金の維持・向上」「人への投資」を追求する。
  • 心身の健康を維持し、家庭生活や地域活動、社会貢献、自己啓発など個人のための生活時間を確保して生活の豊かさを追求するとともに、生産性の向上を図る観点からも 働き方の見直しをすすめる。
  • 同じ職場で働く仲間として、同一価値労働同一賃金を基本に、非正規雇用で働く労働者の賃金・労働諸条件の改善を実現する。
(2)課題・背景など
  • DX、GXなどの大変革に積極的に対応し、金属産業の成長力を高め、競争力を強化するための人材の確保・定着が喫緊の課題となっている。産業・企業の魅力を高めるため、継続的な賃上げによる「人への投資」をさらに強化していく必要がある。
  • 生産年齢人口の減少が続き、コロナ禍から社会の正常化が進む中、人材獲得競争が激化しており、多様な人材が最大限能力を発揮することができる職場環境を整備することが必要となっている。
(3)具体的な運動
  • 生活の安定と向上、現場力・競争力の強化、経済の持続的成長を達成するため、継続的な賃上げによる「人への投資」を追求していく。
  • 企業内最低賃金協定と特定最低賃金に対する組織内外の理解を促進するため、企業内および産業全体に果たす役割を整理し、教宣資料を作成する。
  • 初任給や地域別最低賃金の動向等を踏まえ、企業内最低賃金協定の中期目標について検証し、必要に応じて見直しを行う。
  • 生計費や賃金水準の動向等を踏まえ、「JCミニマム(35歳)」の水準の見直しを検討する。
  • 労働諸条件の改善に向けて、統一取り組み項目の設定など項目を重点化しつつ、共闘効果を高めるように検討する。
  • 闘争を取りまく環境と課題と各産別の闘争方針を共有し、JC共闘を強化するため、「闘争推進集会」を開催する。
  • 経済情勢や経営側の主張に対する金属労協の考え方等を「交渉参考資料」として取りまとめる。
  • JC共闘内における闘争情報の共有や社会への発信について、多様な手法の活用を検討する。
  • 賃金の底上げ・格差是正、適正な労働時間の実現を前進させるため、個別賃金水準の実態調査と労働時間の実態調査を継続する。大手労組の主要な労働条件を共有するため、「労働諸条件一覧」についても、引き続き取りまとめる。
  • JC共闘と連合の部門別共闘との一体化を模索し、連合本部との連携をさらに強化する。
  • JC共闘の一層の強化を図り、金属労協のあるべき姿の検討材料とするため、JC共闘の歴史的経過と要求の考え方等を振り返り、整理する。

特定最低賃金

(1)目的
  • 特定最低賃金を通じて企業内最低賃金を波及させることによって、未組織労働者なども含めた金属産業で働く者全体の賃金の底上げ・格差是正を図る。
  • 特定最低賃金を金属産業の労働の価値にふさわしい水準に引き上げることによって、産業の魅力を高め、人材を確保することで産業の競争力を高めるという好循環サイクルを構築する。
(2)課題・背景など
  • バリューチェーン全体の持続的な発展を図るため、特定最低賃金を通じて、産業全体の賃金の底上げ・格差是正と公正競争の確保を図る必要がある。
  • 地域別最低賃金の積極的な引き上げや使用者側の特定最低賃金廃止論により、地域別最低賃金と特定最低賃金の水準が接近・逆転し、特定最低賃金の金額改正ができない事態が生じている。
(3)具体的な運動
  • 都道府県別に設定されているすべての金属産業の特定最低賃金について、金額改正の取り組みを行う。新設についても積極的に取り組む。
  • 地域別最低賃金との水準差を維持・拡大するため、地域別最低賃金の引き上げ額以上の特定最低賃金の引き上げを継続的に実現していく。
  • 産別本部の最低賃金担当者による「最低賃金意見交換会」を適宜開催し、産別間の情報共有と地域の取り組みを支援する方針の立案、教宣資料の作成を行う。
  • 特定最低賃金の課題と取り組み方針を共有するため、地域の最低賃金担当者の参加の下、「最低賃金連絡会議」を開催する。
  • 重点的に取り組む必要がある地域では、地方連合会と連携して、産別本部と地域の最低賃金担当者と情報交換・意見交換を行う機会を設ける。
  • 組織内外に対して、特定最低賃金の意義・役割への理解を促すための働き掛けを行う。
  • 具体的な取り組みについては、「特定最低賃金の取り組み方針」を策定する。状況の変化に対応し、適宜、「特定最低賃金の金額改正・新設に臨む確認事項」を示す。
  • 特定最低賃金の中期的な課題については、継続的に検討を進める。

4.5 地方活動の展開

(1)目的
  • 地方ブロックおよび都道府県単位での活動の場をつくり、金属労協の方針の周知や理解促進、および意見交換・経験交流を活発化させ、地方連合会で金属部門として労働政策や産業政策の推進に力を発揮できるようにする。
  • 生産拠点が実際に存在し、従業員の生活の場でもある地元の活性化を促すことにより、基幹産業たる金属産業の持続的な発展を図る。
  • 地域再生・活性化のために、金属・ものづくり産業の職場を代表する金属労協加盟の産別・単組の声を政策決定に反映させる。
(2)課題・背景など
  • 地方連合会の政策への盛り込みを主眼とする「地方における産業政策課題」を策定し、地方組織の利用に供してきた。
  • 各地域での最低賃金や「地方における産業政策課題」に関する研修会については、Web開催も含めて提案し、実施地域も増えてきている。
  • 「地方政策実現に向けた取り組みの進め方」を紹介するなど、わかりやすさ、取り組みやすさの強化を図ってきたが、都道府県ごとの取り組みには差が見られるため、理解促進活動を強化する必要がある。
  • 組織改革推進会議の議論により、金属労協の地方組織を将来的には地方連合会の産業別活動センターに移行していくという方向性が示された。これまで、地方連合会での金属部門に関する調査を行うとともに、今後のあり方について議論を進めてきた。組織全体のあり方議論と合わせ、引き続き地方ブロックおいても議論を行う必要がある。
(3)具体的な運動
  • 地方ブロックおよび各都道府県の活動内容に関する情報交換と共有化をはかるために、地方ブロック代表者会議を年2回開催する。
  • 「民間・ものづくり・金属」の立場から「地方における産業政策課題」を策定し、地方での政策活動に寄与するとともに、ものづくりの魅力を子どもたちに伝える「ものづくり教室」の開催など、労働組合としての活動の実施を促す。
  • 「最低賃金」や「地方における産業政策課題」に関する研修会について、各地域での開催を促す。また、開催が困難な地域に向けては、金属労協主催でWebでの学習会開催を検討する。

4.6 電子メディアに特化した情報発信

(1)目的
  • 金属労協の方針や活動を周知し、加盟産別・単組の金属労協の取り組みに関する理解を深める。
  • インダストリオールはじめ諸外国労組の活動や、国際的な課題、さらには時宜に応じたテーマに関する取り組みや論考を紹介し、加盟産別・単組の活動に活かす。
  • 春闘情報などを組織外に発信し、金属労協の社会的役割を果たす。
(2)課題・背景など
  • 金属労協から主に産別・単組に向けた情報発信ツールとして機関紙を年4回、機関誌を年2回発行してきた。また、ホームページを活用して、春闘情報やインダストリオールニュースなどをタイムリーに発信している。
  • デジタル技術の進化により、即時性、双方向性のある多様な情報発信ツールが活用される時代となり、組織改革推進会議の議論においても、紙媒体から電子メディアを中心とした情報発信への変更が求められている。
(3)具体的な運動
  • 情報発信については、内容、目的、対象を明確にし、より効果的に行えるよう、紙媒体から電子媒体への移行やソーシャルメディアの活用も含め、構成産別の意見も集約しつつ検討し、今後のあり方を取りまとめて実行に移す。
  • 当面は従来通り機関紙は年4回、機関誌は年2回紙媒体で発行するが、上記の検討結果に基づき順次対応していく。

4.7 新しい金属労協のあるべき姿の実現に向けて

(1)目的
  • 「新しい金属労協のあるべき姿」の実現に向けた取り組みを行う。
(2)課題・背景など
  • 第51回定期大会での「組織運営検討委員会答申」において、会費引き下げに伴う活動内容、財政のより詳細な検討、一層の業務の効率化などにより財政基盤の確立を図るための具体案が示された。
  • 2015年度から「組織財政検討プロジェクトチーム」を発足させ、支出削減を含む財政対策の検討を中心に具体的な対応策を提起し、対応できるものから随時実行に移してきた。
  • その後、「組織財政検討プロジェクトチーム」では組織と活動のあり方に焦点を当て、未来志向でこれからの金属労協の姿を議論し、第59回定期大会において「2020年組織財政検討プロジェクト答申」として「新しい金属労協のあるべき姿」に関する提起が行われた。
(3)具体的な運動
  • 連合は、2023年10月からの連合の次年度運動方針の中で、組織体制についても検証し必要に応じた見直しを提起する予定である。金属労協は「新しい金属労協のあるべき姿」を念頭に置きつつ、「連合部門別共闘会議とJC共闘との連携強化」ならびに「連合の政策と金属労協の産業政策とをいかにして融合させていくのか」という観点で連合との話し合いを継続していく。
  • なお、取り組みに当たっては、連合の組織検討プロセスを注視するとともに、担当部局との連携をさらに深めていく。

4.8 単年度収支均衡に向けた財政運営

(1)目的
  • 健全な財政運営により、持続可能な組織とする。
  • 金属労協に求められる役割に沿って、活動を効率的に実施できるような予算措置を講ずる。
(2)課題・背景など
  • 金属労協の財政は、2013年度以降財政基金積立金からの繰り入れで対応してきたが、組織財政検討プロジェクトの答申に基づく支出削減策などにより、繰入額は減少してきている。2020年度・21年度はコロナ禍による海外出張の制限などにより、単年度収支が黒字となったが、これは特殊事情によるものであり、基調としての単年度収支均衡には至っていない。
  • 金属労協の支出の約半分を占めるインダストリオール会費については、スイスの物価上昇に合わせた調整による増額や円安傾向などにより、財政に深刻な影響を与えており、今後の財政運営の抜本的な見直しに向けた議論が必要となっている。
(3)具体的な運動
  • 単年度収支均衡に向けて、引き続き支出削減・効率化に努める。
  • 中期的な財政運営のあり方について、組織改革推進会議を中心に検討を行う。