2010年闘争推進集会

金属労協議長 西原浩一郎

生活不安、将来不安を
払拭するために
5つの産別の
スクラムのもとで
進めていきたい


 今回の経労委報告では、これまで、そして今日日本がおかれた格差・雇用・デフレといった問題について、何が理由でこの状況にいたったのか、そしてこれをいかにして労使が克服していくのか、といった視点での認識・考え方が極めて不十分な発信しかされていない。今の雇用をめぐる問題、あるいは様々な生活をめぐる課題、このことに対して政労使がそれぞれの役割や責任の中でどのような行動をしていくかが問われている。にもかかわらずそのような状況においても、経営側では考え方の転換がなされていないことについて極めて不満だ。相変わらず賃金を含めた総額人件費の抑制姿勢は変わっていない。日本経団連側からはこの主張の中で必ずしも定期昇給分を割ることを推進しているわけではないというような話もあったが、経労委報告からはその部分に踏み込もうとする姿勢が垣間見えると言わざるを得ない。そのような状況の下では、日本の賃金決定あるいは労働条件決定に、その波及力から重要な役割と責任を負っている金属労協として、我々の果たすべき役割は大きい。

 大きなマクロの視点から、デフレの問題と雇用の問題への対応が労使、特に経済団体である日本経団連とナショナルセンターである連合には問われている。
 日本経済はこれまでグローバル化の進展あるいは新興国の台頭による国際競争の激化にともなった企業へのコスト削減圧力などを背景にして、雇用調整あるいは賃金抑制、非正規労働者の拡大などが行われてきたが、デフレ圧力が長期間継続する中で、今現在低所得層の増加や賃金・時間外労働手当・一時金の低下などによって消費不振に拍車をかけ、結果としての商品の低価格化が進むというまさにデフレ進行の局面にある。今この状況の中では、やはり政労使、特に労使の役割として将来への雇用不安や生活不安をいかにして払拭するのかということが問われている。様々な政策努力を通して将来不安を払拭することも重要だが、労使が雇用と生活を守り将来不安を最大限払拭するために、この闘争を通じていかなるメッセージを職場と地域・社会に発信するのかが問われている。今雇用あるいは現行の労働水準を低下させることは間違いなく社会不安につながりデフレスパイラルをさらに加速させることになるということをまずは認識すべきだ。
 また、雇用の問題については、過去最悪の雇用情勢が継続している中で、日本経団連との労使会議において労使で若年者の雇用安定に関する共同声明を確認した。今春卒業予定の高卒・大卒の就職内定率が大幅に低下する、ある意味で第二のロストジェネレーションを作りかねないという状況に直面する中で、労使として雇用の安定が我が国経済社会の安定と発展の基礎であるという認識のもとで、若年者の就業機会の拡大と円滑な就労促進に向けた対策を速やかに講じていこうということだ。具体論での我々労使の取り組みについてはまた別途取り組みが展開されると思う。

 また、日本経団連との論議の中で、経営側から内需重視と言われるけれどもやはり外需も必要だといった話があった。そこで私は、確かに外需を取り込み、経済をしっかり活性化させていかなければ当然日本という国は成り立たないが、余りにも外需依存に頼らざるを得ない経済構造を作ったことにより国内において配分が歪められてしまった家計や消費、また地域といった部分へのバランスを取り返したい。我々は内外需バランスのとれた経済成長を目指していると申し上げた。
 またもう一つの観点として、国際競争力強化という視点の下にいわゆる雇用調整あるいは賃金抑制等々の労働側に対する配分構造が偏っている。これからも日本が海外と闘っていくためには、雇用が崩れ消費も低迷している、そういった状況の日本をベースにして本当に海外で闘っていけるのか、しかも、政府の成長戦略においてもアジアの内需を取り込むということが鮮明になっている中で、国内事業というものをどう位置づけるのか、どう維持強化していくのか、我々としてはそこに向き合って論議をしていかなければならない。日本における生産性・品質・イノベーション・技術革新、あるいは様々な技術・技能の継承そしてチームワークといった、トータルとしての日本の事業における強みをどう守るのか。しかもその源泉は「人」にしかない。「人」をコストとして見なすのではなく、あくまでも投資として見るべきだ。今まさに問われているのは、全ての経営政策の中でも最上位の概念に、「人」への投資というものを基軸におき、そのことがこれからの金属産業をはじめとする日本が世界の荒波の中で生きていくベースになるのではないかと思う。

 いずれにしても今回金属労協としては、まさに後のない要求を組んで、その必達に向けて取り組む交渉になると認識している。賃金項目では、生活を実質的に守っていくという観点から、今回方針として賃金構造維持分の確保・制度の完全実施ということを明記した。定期昇給と昇格昇給を含めて制度的な部分の担保はもとより、水準においても現行水準を守りきる、ということを全JC傘下の単組における必達目標・至上命題とする。職場の中で懸命に生産性向上に取り組みながら技術・技能を磨き、そこで習熟した能力・技能というものをしっかりと受け止めなければならない。そしてライフサイクルとの関係も踏まえながら、働く者にとって何よりも大切な、生活の基盤となる月例賃金のベースであり、まさに人事処遇制度の根幹となる定期昇給制度はなんとしても守りきらなければならない。必達目標というのは、まさにそういう意味だ。また当然のことながら、それぞれ格差是正の観点あるいは自社の賃金体系上のゆがみやひずみの是正、あるいは昨年秋リーマンショック以降の大変な状況の中でこれだけ努力協力をしてきた職場に対し、それに報いこれからの意欲活力を喚起する観点からの賃金改善に取り組み労組についてもきちんと支えていく。金属労協の影響力は大きい。我々自身が今次連合春闘をしっかりと支え先導していくという役割をJC5産別がスクラムを組んで達成していきたい。

 そして生活を守るための一時金の取り組みやワーク・ライフ・バランスの問題、長時間労働や割増率の問題等々、働き方に関わる様々な課題について改善していくための取り組みも強力に進めていかなければならない。
 また中小企業は極めて厳しい状況が続いているが、産業全体あるいは経済全体で見た付加価値の構成配分という観点からも中小企業労組へのサポートを全産別がしっかりとしていかなければならない。特にワーク・ライフ・バランスの部分についてはどうしても置き去りになる傾向がある。ここについては逆に今だからこそ進める、また構造的にこれまでワーク・ライフ・バランスを進めるにあたって阻害していた課題について果敢にチャレンジする姿勢が重要だ。

 また、今回連合が打ち出した「全ての労働者を対象とする」とした取り組みの一つの大きなキーポイントとして、企業内最低賃金の締結拡大・適用範囲の拡大、そして水準の向上をお願いしたい。この取り組みは、企業内最低賃金が波及する法定最低賃金、特に産業別最低賃金への波及を考えれば極めて重要だ。法定産業別最低賃金については、公正競争の観点からもあるいは産業レベルでの労働条件的な下支えという観点からも重要だ。今後における職種別の賃金水準形成また労働市場の形成、またその中における均等・均衡待遇の確保といった観点でも、それを下支えする産業別最低賃金や地域別最低賃金、またそのベースとなる企業内最低賃金協定の取り組みが必ず重要になる。

 非正規労働者については、今回金属労協として、処遇改善や「公正」のあり方を追求する中でそれぞれの状況に応じて課題解決に向けて努力していこうとクローズアップして記載した。
 そして個々の企業が将来展望をいかにして切り開くのか、その際に非正規の方への対応も含めた働き方や雇用のあり方はどうあるべきなのか、要求・交渉に入る前段で職場との討議の中で、どのような課題設定のもとに交渉に臨むのかが極めて問われている。金属労協はそういった観点について多くの情報発信や産別間での共有する認識あわせを進めてきた。いかなる形でマクロとミクロをつないで努力していくのかを皆さんとともに見いだしていく交渉にしたい。

 今次闘争は金属労協にとって大きな歴史的転換点になる。要求水準云々の問題ではなく、そこで話し合われる課題、労使で論議する内容、そしてなにを共有化できて何が対立するのかをしっかり見極めながら金属労協としての取り組みを5つの産別のスクラムのもとで進めていきたい。簡単な交渉ではない。であるが故にその計画・結果に責任を持って全員の力でこの闘争を成し遂げよう。