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2002年版「日経連・労働問題研究委員会報告」
に対する金属労協見解

2002年1月15日 金属労協(IMF−JC)

 金属労協(IMF−JC)は、2001年9月・第40回定期大会の「労使合意による社会的合意形成の取り組み」(特別報告)でも提起したとおり、いま日本が「大きな時代の転換期」にあることは十分に認識している。また、そうした認識があるからこそ、これまでの成果配分の取り組みに加えて、損失分配型・負担シェアリング的な考え方の必要性について、組合員のみならず経営側にも課題として投げかけたものである。しかし、今次「労問研報告」は、政労使関係にふれているにも関わらず、あまりにも従来型の主張であり、経営側の一方的な主張にのみ終始していると言わざるを得ない。また、全体的に課題の提起に止まっており、経済・社会構造の改革に対して、経営側として役割と責任をどのように果たしていくのか、主体性に欠けていると指摘しておきたい。報告にもあるように、課題解決に向けた労使の責任は重大である。それだけに労使の信頼に基づき、更なる労使関係を構築しなければならない。
 以下、今次労問研報告の主要な主張点について、金属労協としての見解を附しておくこととする。

1.グローバル化への対応と構造改革の断行
日経連は本年の「労問研報告」において、「日本経済の10年にわたる長期の停滞は、かつてない経済・社会の基盤を揺るがす環境激変への対応が遅れたためである。」この危機的な状況を乗り越えるためには、「官・民・労がそれぞれの役割を明確に分担し、民間主導の経済を実現することが重要である。」としている。
金属労協は、労働組合の立場から、すでに経済・社会の構造改革の必要性を認識し、「新しい経済・社会システムづくり」(94年9月)を提起すると同時に、自らも国際競争にさらされる輸出型産業の集合体として、産業・企業の生産性の向上に積極的に協力をしてきている。そうした立場からすると、現下の危機的状況は改革の先送りによってもたらされたものであるが、一方で経営者自身のこれまでの対応についても猛省を促しておきたい。不良債権の最終的処理を含めて構造改革は、指摘のとおり喫緊かつ不可避となっていることは事実である。しかし、一方で、これ以上の雇用問題の悪化を防ぐことも重大課題であり、デフレスパイラル阻止と合わせ、政府には的確な経済・社会の運営と柔軟な施策の展開を強く望みたい。
 また、日本経済の課題として日経連は、「生産性向上を基軸とした構造改革の断行」を提起したうえで、明確な経済運営の目標や立国の基本方針として、国際競争力のある創造的科学技術立国の再構築を掲げ、「モノづくりを基軸に高付加価値産業を結集した立国を目指すべき」としている。これは小泉改革の基本方針や改革工程表において全く欠落していた部分であり、的確な指摘とうけとめる。第三次産業への産業・就業構造の変化はあるにしても、ものづくり・製造業はわが国の基幹産業として、また、雇用吸収力の高い産業として今後とも中心的役割を担っていかなければならない。
しかし、企業経営課題から以降の主張は、「雇用を維持し、雇用不安を解消することが政労使の急務であり、安易な雇用調整は許されるべきではない。」としているものの、「企業の発展のためには、多様な雇用形態・人材の組み合わせによって、最小の人件費コストで最大の効率をあげることが重要である。」また、従業員に対しては「職業能力向上の必要」をことさらに強調。「雇用確保のためには、高生産性分野に人と資本を集中させるべき」とも主張。「様々な施策は、生産性向上の範囲内で行われなければならない」とまとめている。
こうした日経連の主張は、「企業経営の中でもっとも重要なのは人材」、「人間の顔をした市場経済」の言葉とは裏腹に、勤労者を労働力とのみ見なした主張である。こうした主張に固執するならば、産業・企業の永続的な発展をとても望むことはできない。また、規制の撤廃により「資本」の移動はあるとしても、高付加価値分野への「労働」移動の困難性は経営側も承知しているはずであり、その真意を問い直したい。文字通り、人間尊重・長期的視野に立った経営理念を堅持すべきである。

2.雇用形態の多様化・柔軟なワークシェアリングの導入
 今次報告において、日経連はこの問題を大きく取り上げている。「ワークシェアリングにはいろいろな捉え方が可能であるが、わが国では雇用形態の多様化の一環として位置付けるべき」とし、「第1に緊急避難措置としての活用」、「第2に中長期観点からの導入も検討すべき」と主張。「労働時間を短縮し、それに応じた賃金を縮減することによって、雇用の維持ないし新たな雇用機会の創出が期待できよう」としている。また、「時間あたり給与の考え方」や、「雇用・賃金・労働時間を多様かつ適切に配分する」として提起している。
 金属労協も、完全失業率が昨年11月に5.45%を記録、製造業を中心に就業者数が更に減少するなど、雇用問題が一層深刻の度を増す中で、その解決策として「ワークシェアリング」が政労使の取り組み課題となっていることは十分に承知をしている。しかし、諸外国の事例を見ても、この取り組みが万能の施策でないことは明らかであり、その導入には多くの問題点が存在していることを留意しておかなければならない。例えば、中長期的に雇用形態の多様化を図るのであれば、均等待遇、ワークルールなどの検討課題があり、広く社会的な合意が不可欠である。単にコストダウン一辺倒であれば、不安定雇用が増大することになり、賛成することはできない。もちろんワークシェアリングの名を借りた、労働時間短縮を伴わない賃金・労働条件の切り下げがなされるのであれば容認できない。
一方、金属労協傘下の企業連・単組でも雇用や労働条件に関わる問題が提案されるなど、産業・企業によっては雇用問題への対応が差し迫った状況となっている。金属労協としてもこうした状況を踏まえ、今後、連合・日経連の検討経緯も注視しつつ、2月中(中間まとめ)を目途に、別途検討をつめていくこととする。

3.労働市場改革の推進
 日経連は、「多様な雇用形態を可能とし、雇用適応能力の高い社会を構築する」ための条件として、「@移動性、A柔軟性、B専門性、C多様性」の4つをあげ、「外部労働市場の改革が必要」としている。また、そのためには人材派遣、職業紹介事業、有期雇用契約などの規制改革によって「選択肢を多様化すべき」とし、「外国人の本格的導入を検討しなければならない時期にきている」としている。
 金属労協としては日経連のこうした主張は、コスト論的な観点に立ったアメリカ的発想に基づくものであり、日本のものづくり・製造業の根本的な基盤の喪失に繋がりかねないものと考える。日本製造業の強みは、生産現場における技術・技能の継承・育成を基盤とした、技術革新への適応力の高さにあり、今後とも長期安定雇用を基本とし、高付加価値製品を創造し、国際競争力を保持していかなければならない。外国人労働者についても、同様の観点から安易な導入は避けるべきであり、慎重に検討をしていく必要がある。ましてや、産業別最低賃金を廃止すべきとの主張は、中央最低賃金審議会を中心とした制度確立のこれまでの経緯を一方的に無視した、許し難い主張と云わざるを得ない。

4.今次交渉における基本的な考え方
 日経連は、総額人件費抑制の主張を本年更に強めており、「これ以上の賃金の引き上げは論外である。場合によってはベア見送りにとどまらず、定昇の凍結・見直しや、さらには緊急避難的なワークシェアリングも含め、これまでにない施策にも思い切って踏み込む」ことを主張。「今次交渉においては、雇用の維持確保と総額人件費の抑制をめざして労使の真剣な取り組みが求められる」としている。
 金属労協として日経連のこうした一連の主張は、デフレスパイラルの阻止や需要不足への具体的対応など、マクロ課題に対する経営側としての責任ある対応を示しておらず、経営側の役割と責任の履行という観点からして全く遺憾と言わざるを得ない。賃金引き上げは、産業・企業の収益状況等を踏まえ、純ベアとして要求するものである。また、定昇の凍結・見直しについてふれているが、これは労働契約の一方的な破棄につながる主張であり、労使の信頼関係と生産性向上への意欲を喪失させる愚挙である。経営者団体として、傘下個別経営に対する真摯な指導対応を求めておきたい。

                                        以 上