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2002年闘争をとりまく情勢

(2001年12月3日)

 わが国経済は2000年夏以降、悪化の一途をたどり、2001年4〜6月期には名目GDP成長率が実に△1.9%の大幅マイナス成長となりました。一方、経済活動全体の物価水準を表すGDPデフレーターは同じく4〜6月期に△1.1%となっており、デフレ(持続的な物価の下落)が、生産と需要の縮小をもたらす、デフレスパイラルへの突入が懸念されています。2001年の3月と8月には量的金融緩和が実施され、年央の景気指標では、それによる効果も一部出てきていましたが、9月11日にアメリカで同時多発テロが発生し、10月にはテロの首謀者ウサマ=ビンラーディンとこれを保護するタリバンへの攻撃が開始されるなど、世界情勢はまさに激動しており、わが国経済はきわめて緊迫した状況となっています。 こうしたなかで2001年7月、完全失業率が統計開始以来はじめて5%台に突入しました。これまでも減少が続いていた常雇はもとより、拡大していた臨時雇用についても、減少に転ずる状況となっています。

1.2002年闘争をとりまく経済情勢
2.金属産業における賃金・労働時間の状況
3.金属産業の動向
4.国際経済情勢
5.国際労働運動の動向

*文中の「図表」はgifデータです。

1.2002年闘争をとりまく経済情勢

1.マクロ経済の動向
2.量的金融緩和政策と同時多発テロ
3.個人消費の動向
4.設備投資
5.わが国における貿易収支の動向と双子の赤字懸念
6.対中国投資および対中国貿易
7.企業収益の動向と勤労者に対する配分
8.物価の動向
9.雇用の動向

1.マクロ経済の動向

1.わが国の名目GDP成長率は、2000年度に△0.6%となり、98年度(△1.1%)、99年度(△0.2%)に続いて3年連続のマイナス成長となりました。
四半期ごとに見ると、2000年4〜6月期以降は、10〜12月期にわずかながら前年比プラス成長(0.1%)となったのを除けば、一貫してマイナス成長が続いており、2001年4〜6月期には△1.9%になっています。△1.9%というマイナス幅は、統計開始以来、98年の10〜12月期に次ぐ2番目に大きいものです。
内外需別に△1.9%の内訳(寄与度)を見ると、内需△0.8%、外需△1.2%となっており、マイナス幅の半分以上が外需要因によるものとなっています。
日本経済全体の物価水準を表すGDPデフレーターの上昇率は、2000年度に△1.5%となり、これも3年連続のマイナスとなっています。四半期ごとでは、98年4〜6月期以来、13四半期連続でマイナスが続いています。しかしながらマイナス幅は、2000年4〜6月期に△1.8%だったのが、2001年4〜6月期には△1.1%とやや縮小しています。
実質のGDP成長率は、2000年度に1.0%となり、99年度(1.4%)に続いて2年連続のプラス成長となりましたが、2001年4〜6月期には前年比△0.8%となり、10四半期ぶりにマイナス成長に転じています。

2.2001年4〜6月期の名目GDP成長率(前年比)について、需要項目別に見てみると、
○個人消費は△1.1%で、5四半期連続のマイナス成長となった。マイナス幅は2000年10〜12月期の△0.4%、2001年1〜3月期の△0.9%に比べても拡大傾向にある。
○住宅投資は△8.8%となり、2四半期連続の大幅マイナスとなった。
○設備投資は2.5%のプラス成長となったが、2000年10〜12月期の5.3%、2001年1〜3月期の2.8%に比べて、プラス幅が縮小した。
○公的需要は△0.1%で、全体に対する影響は軽微に止まった。
○輸出は△3.0%で、99年7〜9月期以来のマイナス成長となった。輸入は9.0%となっており、大幅な伸びが続いている。このため外需(輸出−輸入)は、△71.4%の大幅減となった。しかしながら輸入の伸び率も、2000年10〜12月期の15.4%、2001年1〜3月期の13.2%に比べれば鈍化している。(図表1)

3.2001年11月9日に発表された政府経済見通しの見直し試算によれば、2001年度の名目GDP成長率は△2.3%とされており、4年連続の名目マイナス成長ということになります。内外需の寄与度(△2.3%の内訳)は、内需△1.6%、外需△0.7%となっており、すでに発表されている2001年4〜6月期の実績に比べて、内需の落ち込みがより激しくなるという見通しになっています。なかでも民需は、すべての項目について前年割れが予測されており、とくに住宅投資は△8.0%、設備投資は△5.1%で、いずれも98年度以来の落ち込み幅が想定されています。(図表2)
なお実質GDP成長率は△0.9%ですから、GDPデフレーターは△1.4%ということになります。従って、デフレは足許(2001年4〜6月期の△1.1%)よりも進行するという予測になっています。

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2.量的金融緩和政策と同時多発テロ

1.2001年3月19日、日銀は、
○金融市場調節の主たる操作目標を、これまでの無担保コールレート(オーバーナイト物)から、日本銀行当座預金残高に変更する。
○新しい金融調節方式は、消費者物価指数(全国、除く生鮮食品)の前年比上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで、継続する。
○当面、日銀当座預金残高を4兆円から1兆円程度積み増して5兆円程度に増額する。
○日銀当座預金を円滑に供給するため、長期国債の買い入れを増額する。
ことを決定しました。これによって、
○マネタリーベースの前年比伸び率は、最近の約3%(2月)から、半年後には7%程度に高まるものと見込まれる。
ことを明らかにしました。
続いて2001年8月14日には、日銀は、日銀当座預金残高を5兆円程度から6兆円程度に増額させる一層の量的金融緩和に踏み切りました。さらに9月11日の同時多発テロ発生により、翌12日には「潤沢な流動性供給を含め、万全を期していく」方針を示し、日銀当座預金残高を8兆円を上回る水準まで拡大させるとともに、9月18日には政策委員会が、「6兆円を上回る」ことを目標にすることを決定しました。

2.2001年3月以降の量的金融緩和政策により、マネタリーベースの増加率は着実に高まっており、2001年7〜9月期には前年比10.4%、10月には14.3%に達しています。ある一定の名目GDP成長率を達成するために必要なマネタリーベースの増加率を計算する「マッカラム・ルール」によれば、2%程度の名目成長を達成するためには、12%程度のマネタリーベースが必要ということになりますが、現状では、ほぼこれに近い水準が確保されているといえます。(図表3)
やや不安材料としては、日銀がいつでも(政策委員会での決定なしに)「量的金融引き締め」に転換できるようになっていることです。すなわち、
○9月11日の同時多発テロ直後、日銀は日銀当座預金残高を8兆円以上に拡大させたが、18日の政策委員会では、「6兆円を上回る」ことが確認されただけだった。11月時点では9兆円台の残高が維持されているが、日銀はいつでもこれを6兆円そこそこの水準まで削減できる。
○3月の量的金融緩和のときは、マネタリーベースの目標値を7%と明示されていたが、8月、9月の政策変更の時には、マネタリーベースの目標値に触れていない。現在は14%台の増加率となっているが、目標に拘束されていないので、日銀はいつでもこれを鈍化させることができる。
 ということです。実際に9月18日の政策委員会後の記者会見では、速水総裁に対して、日銀が金融引き締めに転じたのではないかという観点からの質問が相次ぎました。日銀には、このような疑念を引き起こさない、まっとうな金融政策運営が求められるところとなっています。

3.量的金融緩和政策に対しては、いくらマネタリーベースを拡大しても、企業からの資金需要がなく、また銀行自体も不良債権に縛られて身動きがとれないため、銀行の貸出が増加せず、従って景気にも寄与しないのではないか、との批判があります。
 しかしながら、銀行による設備資金のための新規の貸出は、タイムラグはあるもののマネタリーベースの動向に沿った動きをしています。例えば、
○99年末から2000年初にかけて行われたマネーサプライの大幅拡大を受けて、設備資金新規貸出金(国内銀行・銀行勘定)は、2000年7〜9月期には前年比10.3%の2桁拡大となった。
○その後、マネタリーベース増加率が大幅に鈍化すると、これを受けて、新規貸出の増加率も2001年1〜3月期には6.5%まで鈍化した。
○2001年3月以降の量的金融緩和政策によってマネタリーベースが拡大すると、4〜6月期には新規貸出は再び12.0%の大幅拡大となっている。
というような動きが見られます。量的金融緩和政策が銀行の貸出増加を直接促していることは明らかです。(図表4)

4.東京株式市場・日経平均株価は、小泉内閣成立時には14,000円台だったのが、その後じりじりと値を下げ、7月には日本経済の生命線といわれた12,000円を下回って、まさに株価底割れの様相を呈しました。9月はじめには10,000円ぎりぎりの水準となり、大台割れ必至と見られていましたが、11日には同時多発テロが発生し、翌12日には一気に9,610円10銭まで下落しました。
ニューヨーク株式市場は17日に再開されましたが、これに先立って取引が行われた東京市場では、ニューヨーク市場再開による暴落懸念から、9,504円41銭まで下落しました。しかしながら、ニューヨーク市場は7.13%と予想の範囲内の下落に止まったことから、最悪の事態が回避されたものとして受け止められ、日経平均株価も底値感が形成されたことにより、株価は反発、11月には10,000円台を確保している状況にあります。

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3.個人消費の動向

1.総務省「家計調査」全国勤労者世帯における消費支出(名目)の動向を見ると、2000年12月から2001年3月にかけて、4カ月連続で前年実績を上回ることとなりました。4カ月連続のプラスは、98年以降では初めてのことです。平均消費性向も同じく4カ月連続で前年を上回りました。
しかしながら2001年4月には、一転して前年比△5.0%の大幅マイナスとなりました。その後、5月△3.2%、6月△4.0%、7月△1.5%と総じてマイナス幅が縮小していましたが、8月には△1.7%、9月には△2.3%と再びマイナス幅が拡大する状況となっています。
平均消費性向は7月、8月には、2カ月連続で前年よりも上昇(7月+2.0ポイント、8月+0.5ポイント)していましたが、9月には再び1.5ポイント低下してしまいました。(図表5)

2.勤労者世帯のうち、製造業で働く勤労者の世帯について見ると、2001年4〜9月期には、消費支出が前年比△3.4%となっており、勤労者世帯全体(△3.0%)に比べてマイナス幅が大きい状況となっています。平均消費性向でも、製造業世帯は前年に比べ-1.3ポイントとなっており、勤労者世帯全体(-1.1ポイント)に比べて低下幅がより大きくなっています。製造業世帯では、とくに家計を切り詰めている状況にあることがわかります。
なお9月の製造業世帯では、可処分所得の大幅マイナス(△2.5%)にもかかわらず、消費支出のマイナスは△0.6%と小幅に止まり、この結果、平均消費性向は1.7ポイント上昇しています。(図表6)

3.販売統計では、小売業販売額が2000年1〜3月期に前年比0.8%となり、一時プラスに転じました。しかしながら、4〜6月期には△1.7%と再びマイナスに転じ、その後7月△2.7%、8月△3.8%、9月△2.5%と推移しています。
家庭用機械器具小売業、自動車小売業は、前年比プラスで推移してきましたが、家庭用機械器具小売業については、2001年4月以降、家電リサイクル法施行の影響などから前年割れが続いており、とくに8月には△12.2%、9月には△9.7%と大幅減となっています。これに対して、自動車小売業は6月(△1.5%)、9月(△0.3%)には前年割れとなりましたが、基調としては底固い動きを示しています。
大型小売店販売額(既存店)は、2000年7〜9月期に△5.3%となっていましたが、その後、10〜12月期△4.9%、2001年1〜3月期△3.4%、4〜6月期△2.9%、7〜9月期2.4%と期を追うに従ってマイナス幅が縮小し、とりわけ9月には△0.7%となっています。
このうち百貨店は、2001年4〜6月期に前年比プラス(0.4%)となりました。7〜9月期には△0.1%とごくわずかながら前年割れとなりましたが、9月には2.8%の大幅増を記録しました。スーパーは、2001年4〜6月期に△5.3%、7〜9月期に△4.1%と依然として大幅マイナスが続いています。しかしながらマイナス幅は縮小傾向にあり、9月には△3.3%となっています。
コンビニエンス・ストアの販売額(既存店)は、2001年1〜3月期△1.7%、4〜6月期△0.8%とマイナス幅が縮小していましたが、7〜9月期には△2.5%と再びマイナス幅が拡大しました。しかしながら、8月に△4.2%の大幅マイナスであったのに対し、9月には△2.6%でやや改善しています。(図表7)

4.博報堂生活総合研究所が行っている「消費意欲指数」調査によると、2001年10月の消費意欲指数は調査開始以来最低だった9月の50.6をさらに下回り、49.7となっています。しかしながら男女別に見ると、女性については54.3と回復傾向が見られ、99年、2000年の同月の水準に近づいている状況にあります。

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4.設備投資の動向

1.設備投資の先行指標である機械受注統計(船舶・電力を除く民需)は、2000年1〜3月期から10〜12月期にかけて、前年比2桁の大幅拡大が続いていましたが、その後2001年1〜3月期に4.6%、4〜6月期に0.8%と急激に鈍化し、7〜9月期には△10.5%の2桁マイナスに陥りました。しかしながら月ごとでは、8月に△13.4%だったのが、9月には△11.8%と若干ではありますが、マイナス幅が縮小しています。
9月の受注額を機種別に見ると、原子力原動機、火水力原動機、電子計算機、電子応用装置、鉄道車両、道路車両が前年比プラスとなっており、内燃機関、発電機、通信機、風水力機械、冷凍機械、建設機械、船舶などもマイナス幅が縮小していますが、電気計測器、半導体製造装置、運搬機械、産業用ロボット、合成樹脂加工機械、繊維機械、鉱山機械、工作機械などでは大幅なマイナスが続いています。

2.2001年9月調査の日銀「短観」によれば、2001年度下期計画の設備投資額は、製造業で前年比△12.1%となっています。前回(6月時点)の調査に比べて、1.1ポイント下方修正されていることになります。
 金属産業の各産業別に見ると、電気機械が△27.3%(前回調査に比べて-7.3ポイント)、鉄鋼が△13.7%(同-21.1ポイント)になっているのが、前年に比べてマイナス幅が大きく、また前回調査からの下方修正の幅も大きくなっています。
一方、一般機械は△10.4%、金属製品は△7.6%、精密機械は△6.3%、自動車は△6.1%、「その他輸送用機械」は△3.9%となっていますが、前年割れではあるものの、前回調査に比べれば、むしろ上方修正されています。さらに、非鉄金属は8.3%、造船・重機は16.9%と前年比でプラスになっており、とくに造船・重機では前回調査に比べて7.2ポイント上方修正されています。(図表8)

3.2001年3月からの量的金融緩和により、マネタリーベースの拡大が行われていますが、マネタリーベースの拡大は、銀行の貸出を通じて設備投資にも強い影響を与えています。マネタリーベースの推移と機械受注額の動向を長期的に見てみると、タイムラグを生じながらも、ほぼ同様の動きを見せていることがわかります。マネタリーベースの拡大は、設備資金の新規貸出とともに、機械受注統計によっても、実体経済への効果が立証されているといえます。(図表9)

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5.わが国における貿易収支の動向と双子の赤字懸念

1.わが国の貿易収支は、2001年に入って以降、急速に黒字幅が縮小しています。2001年1〜9月期の貿易黒字は約5兆円に止まり、前年同期の8兆6千億円に比べて3兆6千億円、約4割も減少しています。貿易黒字は、すでに99年、2000年と2年連続で減少していますが、この2年間にわたる減少幅(あわせて3兆3千億円)を上回る減少が、1〜9月期だけですでに生じています。
こうした貿易黒字の減少は、輸入が前年比8.2%と拡大している一方で、輸出が△3.1%とマイナスになっているためです。輸出減少のなかでの輸入拡大は、プラザ合意後の87年以来、実に14年ぶりのこととなります。

2.このような貿易構造の大きな変化は、生産拠点の海外移転による部分が大きいと指摘されていますが、その根底にはマクロ的な要因が作用しているものと考えられます。
GDP統計の考え方からすれば、政府赤字と貿易赤字とは、
   国内貯蓄超過=政府赤字+貿易黒字
 という関係にあるので、政府赤字の拡大は、
○貿易黒字の縮小(貿易赤字の発生・拡大)
または、
○貯蓄超過の拡大=民需(個人消費、設備投資、住宅投資)の縮小
を招くことになります。政府赤字が貿易赤字を発生させるといういわゆる「双子の赤字」は、80年代のアメリカにおいて大きな問題になったことは記憶に新しいところですが、今般の貿易黒字の激減は、先進国中最悪の政府赤字を抱えるわが国においても、現実のものになる可能性を示唆するものといえます。
 ちなみにこれまでの状況を見てみると、わが国のGDP統計上の貯蓄投資バランスは、99年度までしか発表されていませんが、
○98年度には、政府赤字は97年度に比べて39兆円拡大したが、企業は、12兆円の投資超過から23兆円の貯蓄超過(差し引き35兆円)に転じた。
○99年度には、政府赤字は前年に比べ20兆円縮小したが、企業の貯蓄超過も23兆円縮小した。
ことから見ると、少なくとも98、99年度については、政府赤字拡大は主に企業の貯蓄超過(=投資縮小)で吸収する状況となっていたことがわかります。(図表10)

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6.対中国投資および対中国貿易

1.中国は2001年11月、いよいよWTOに加盟しましたが、低廉な生産コスト、巨大な将来市場に加え、生産技術や製品の品質が急速に向上してきていること、IT分野でのめざましい人材供給が見られることなどから、中国が21世紀における「世界の工場」として、巨大な存在感を示すようになってきています。
丸紅経済研究所の集計によれば、99年の時点ですでにカメラ、電話機、エアコンが世界シェアで過半数を占めており、時計、モーターバイク、テレビ、冷蔵庫、粗鋼も、世界シェアトップに位置する状況となっています。グローバル経済下にあって、中国との関わり方如何が、貿易立国たるわが国の死命を制する状況にあるといっても過言ではありません。

2.グローバル市場において中国の存在感が増しているなか、わが国企業の対中国直接投資は減少傾向となっています。製造業の直接投資額は、95年度には3,368億円を記録していましたが、その後、ほぼ年を追って減少傾向をたどり、99年度には603億円と95年度のわずか17.9%に止まる状況となっています。投資件数でも、95年度の675件に対し、99年度にはわずか59件に激減しています。2000年度には、それぞれ840億円、86件に若干回復したものの、これは電機産業の投資額が357億円に達し、99年度の約5倍、ピークだった95年度(904億円)のほぼ4割の水準に回復していることによるものであり、電機産業以外の製造業では、投資額は2000年度も引き続き減少しています。(図表11)
わが国企業の対中国ビジネスについては、これまでの競争相手であった欧米系企業に加えて、現地資本企業が急速に力をつけてきているため、品質、サービス、コストの面で日系企業が現地資本企業に太刀打ちできない分野が出てきていること、日本企業が中国に直接投資する目的が明確でなかったため、中国の実情に応じたビジネスが展開できない企業が見られること、そうしたことなどから日系企業が優秀な人材を採用しにくくなっていること、などの問題点が指摘されています。直接投資額の減少傾向は、そういった指摘を裏づけるデータのひとつであり、製造業生産拠点の日本国内における一層の強化、再活性化が不可欠となっています。

3.わが国の貿易収支は、前述のとおり2001年1〜9月期に輸出が前年比△3.1%、輸入が8.2%となっていますが、対中国貿易だけを取り出してみると、輸出が20.2%、輸入が21.0%となっています。輸入の伸び率のほうが若干高いものの、輸出も健闘していることがわかります。対中国貿易は、かつては輸入の伸び率のほうが圧倒的に高かったのですが、その後は輸出入の伸び率が比較的、均衡する傾向が見られるようになっています。
 こうした傾向は、「機械機器」の対中国貿易についても見られます。機械機器は、97年までは中国への輸出に比べて、中国からの輸入の伸び率が圧倒的に高かったのが、98年比以降は状況が変化してきています。2000年には輸出が26.3%に対し、輸入が32.1%、2001年1〜9月期には輸出が22.4%に対し、輸入が32.3%となっています。依然として中国からの輸入の伸び率のほうが高いのは事実ですが、輸出も大幅な伸びを示しています。中国の経済発展がわが国の国内産業をたたきのめすのではなく、ともに補完しあい、共存する経済関係の構築を今後ともめざしていかなければならない状況にあります。(図表12)

4.金属産業が生産している輸出品目のうち、主要27品目について、「日本から世界全体への輸出品の単価」と「中国から日本への輸出品の単価」を算出し、日中の輸出単価の格差とその変化を、95年と2000年について見てみると、つぎのようになります。
○日中の単価の格差が大きく(2倍以上)、95年から2000年にかけてその差がさらに拡大しているものは27品目中7品目ある。単価の格差は、この場合は基本的には品質・性能の格差を示しているので、こうした品目は引き続き強い競争力を持っているといえる。
○日中の単価差は大きいものの、その差が縮小しているものは13品目ある。このうちわが国から世界への輸出が増加しているものは11品目、うち7品目は10%以上増加しており、こうした品目は引き続き競争力を保持しているといえる。
○単価差がほとんどない、あるいは逆転している品目は7品目あるが、このうち6品目は、わが国からの輸出が拡大(うち3品目は10%以上)しており、わが国におけるコスト削減努力により、競争力を確保している可能性がある。
という状況になっています。(図表13)

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7.企業収益の動向と勤労者に対する配分

1.2001年9月調査の日銀「短観」によれば、2001年度の収益予測は、売上高が全産業で△0.6%、製造業で△2.2%の減収となっています。前回(6月時点)調査に比べて、それぞれ全産業が1.4ポイント、製造業が3.0ポイントの大幅下方修正となりました。営業利益は全産業で△3.4%、製造業△13.6%の減益見通しで、これもそれぞれ10.3ポイント、19.1ポイントの大幅下方修正となっています。
このため売上高営業利益率は、全産業が2000年度の実績を0.09ポイント下回る3.03%、製造業が同じく2000年度の実績を0.48ポイント下回る3.60%となっています。しかしながらそれでも、98年度(全産業2.51%、製造業2.86%)、99年度(全産業2.94%、製造業3.54%)よりは高い水準となっています。(図表14)

2.金属産業の収益状況を業種ごとに見てみると、売上高は9業種(鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械、電気機械、造船・重機、自動車、その他輸送用機械、精密機械)のうち、自動車(プラス1.0%)を除く全業種で減収予測となっており、なかでも電気機械(△8.0%)、鉄鋼(△5.9%)の減収幅が大きくなっています。6月時点の調査では、9業種中6業種が増収見通しとなっていましたので、まさに様変わりの状況といえます。
 営業利益では、9業種のうち6業種が減益予測(6月時点では3業種が減益予測)ですが、売上高と同様、電気機械(△58.6%)、鉄鋼(△37.5%)の減益幅が大きくなっています。
これに対して、造船・重機は42.7%、「その他輸送用機械」は29.4%、自動車は17.4%の増益予測です。
こうしたことから売上高営業利益率は、電気機械が2000年度実績に比べて2.36ポイント低下の1.93%、鉄鋼も1.65ポイント低下の3.24%となっていますが、一方で、造船・重機は前年に比べて+0.88ポイントの2.72%、「その他輸送用機械」も前年に比べ+0.74ポイントで3.05%、自動車は+0.56ポイントで3.96%となっています。
 鉄鋼、非鉄金属、金属製品、一般機械については、2000年度に比べれば低下しているものの、99年度との比較では、これを上回っている状況にあります。(図表15)

3.このような収益動向のなかで、勤労者への配分も低下傾向が続いています。
 同じく日銀「短観」で、98年度の人件費実績と2001年度の人件費予測(2001年9月時点)とを比べてみると、全産業の人件費はこの間、99年度に前年比△3.0%、2000年度に△0.4%減少しており、2001年度も△0.5%の減少予測となっているため、2001年度の人件費は、98年度に比べて3.9%も減少することになります。一方、売上高は98年度と2001年度とはほぼ同水準であり、このため売上高人件費比率は、98年度の11.46%から2001年度には11.00%へ、0.46ポイント低下することになります。
製造業の人件費の減少幅は、この3年間で3.8%となっていますが、売上高のほうは2.6%の増加となっているため、売上高人件費比率は15.08%から14.13%へ、0.95ポイント低下することになります。製造業の低下幅は、全産業の2倍以上に達していることになります。
 金属産業でもほぼ同様の傾向にあり、同じく98年度実績と2001年度の予測とを比べてみると、人件費は造船・重機で△20.8%、鉄鋼が△16.7%の大幅マイナスとなっており、以下、非鉄金属が△9.3%、「その他輸送用機械」が△8.9%、一般機械が△4.7%、精密機械が△2.8%などとなっています。
このため売上高人件費比率は、精密機械が20.65%から18.59%に低下(-2.06ポイント)するのをはじめ、以下、造船・重機-1.63ポイント、金属製品-1.22ポイント、鉄鋼-1.12ポイント、一般機械-1.04ポイント、非鉄金属-0.94ポイント、電気機械-0.63ポイント、自動車-0.60ポイントと、すべての業種で低下しており、多くの業種で低下幅が製造業平均よりも大きくなっています。(図表15)

4.わが国のGDPベースの労働分配率(就業者1人あたり名目GDP/雇用者1人あたり名目雇用者報酬)は、2000年度には66.1%となりました。前年に比べて0.6ポイント上昇したものの、90年度以降の11年間では、96年度の65.9%、99年度の65.5%に次いで3番目に低い水準となっています。
 一般的に、労働分配率は景気回復期には低下し、景気後退期には上昇するといわれています。しかしながら、短期的にはそのような動きも見られるものの、90年代を通じて見れば、名目GDP成長率が次第に鈍化・マイナス傾向をたどっているにもかかわらず、労働分配率のほうも低下傾向となっています。
 これは、賃金(労働コスト)の下方硬直性がすでに失われ、経済の落ち込みに伴って、経済の落ち込み幅以上に人件費が抑制されているという事実を如実に示すものといえます。(図表16)

5.金属産業に関して、労働コストの付加価値創出力(労働コスト1単位あたりの名目GDP=名目GDP/雇用者報酬)を国際比較してみると、日本は労働コストの1.60倍の付加価値を創出していることになり、イタリア1.58倍、スウェーデン1.51倍、アメリカ1.44倍、ドイツ1.29倍、イギリス1.15倍を凌駕し、主要先進国中最高となっていることがわかります。
  しかしながら新興工業国では、中国2.25倍、中華民国2.13倍、韓国2.08倍となっており、これら諸国の労働コストの付加価値創出力は、日本をはじめ主要先進国を大きく上回っている状況にあります。(図表17)
なおこの指標については、分子に自営業者の創出した付加価値が含まれ、分母に自営業者に対する配分が含まれていないため、自営業者の比率の高い国では、低い国に比べて数値が大きく出てしまうという欠点があります。この影響を排除するためには、分子を就業者数、分母を雇用者数で除すことが必要になります。新興工業国の就業者数・雇用者数のデータは未入手ですが、主要先進国についてこの作業を行うと、日本1.53倍、アメリカ1.43倍、イタリア1.39倍、ドイツ1.25倍となります。(図表18)

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8.物価の動向

1.わが国の消費者物価上昇率(前年比)は、99年9月以降、26カ月連続でマイナスとなっています。99年度、2000年度の上昇率はともに△0.5%でしたが、2001年3月以降は一貫して△0.7〜△0.8%で推移しており、2001年4〜10月期では前年比上昇率が△0.8%となっています。(図表19)
一方、国内卸売物価上昇率は、98年度(△2.1%)、99年度(△1.0%)と2年間にわたってマイナスが続いていましたが、2000年度には、0.0%といったん落ち着きを見せました。しかしながら、2000年10月以降は再び前年比マイナスに転じており、2001年4〜10月期では△0.9%となっています。マイナス幅は月を追って拡大しており、2001年9月、10月には△1.1%に達しています。

2.消費者物価の動向を、2001年4〜9月の6カ月間について、財・サービス分類別に見てみると、まず財では、耐久消費財が前年比△7.1%に達しており、価格低下の激烈さが際立つ状況となっています。耐久消費財以外の財では、半耐久消費財が△1.6%、非耐久消費財が△0.5%となっており、その中身は、農水畜産物が△0.2%(ただし生鮮食品はプラス0.4%、コメは△3.8%)、食料工業製品が△0.9%、いわゆる「ユニクロ現象」の象徴である繊維製品でも、△2.4%というマイナス幅に止まっており、耐久消費財の価格低下に比べれば小さなものといえます。
サービス価格はほぼ前年比横ばい(△0.1%)となっていますが、医療・福祉関連サービス、教育関連サービスが、前年を上回って推移している一方、運輸・通信関連サービスは△3.2%とマイナス幅が大きくなっています。

3.国内卸売物価の動向を製品ごとに見ると、ほぼ消費者物価と同様の動きとなっています。2001年4〜10月期における前年比上昇率は、食料品が0.1%とほとんど横ばいとなっており、繊維製品も△1.1%に止まっていますが、これに対して、電気機器は△5.1%、鉄鋼△2.8%、輸送用機器△2.2%、精密機器△1.7%と、金属産業とくに電気機器のマイナス幅が大きくなっています。
最近の動向を見ても、輸送用機械についてはマイナス幅がやや縮小傾向(2001年5月△2.4%→10月△1.9)となっていますが、鉄鋼では月を追うごとにマイナス幅が拡大(10月△3.6%)しており、電気機器も10月に△5.2%と、目立った改善が見られない状況にあります。

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9.雇用の動向

1.完全失業率は、98年度4.3%、99年度4.7%、2000年度4.7%と高水準が続いていましたが、さらに2001年7月には5.02%、9月には5.30%と既往最悪を更新しています。一方、有効求人倍率は、99年度の0.49倍から、2000年12月には0.66倍まで回復しましたが、2001年に入って以降再び悪化し、2001年8月0.59倍、9月0.57倍になっています。(図表20)

2.2001年版の労働経済白書では、2001年1〜3月期におけるわが国の需要不足失業率と構造的・摩擦的失業率(潜在的失業率程度の成長が確保された場合でも存在する失業率)の推計を行っていますが、2001年1〜3月期の需要不足失業率は0.98%と前年同期の1.21%からやや回復していると推計しているのに対し、構造的・摩擦的失業率は3.77%と、前年同期の3.59%から0.18ポイント上昇しています。その後、景気の一層の悪化に伴い、需要不足失業率がさらに拡大していることが、失業率5%超えをもたらしているものと考えられます。(図表21)

3.2000年9月の男子・完全失業率(原数値)を「年齢階級別」にみてみると、15〜24歳が12.4%、25〜34歳が5.5%、35歳〜44歳が3.5%、45〜54歳が3.6%、55〜59歳が4.4%となっています。失業率が顕著に上昇する前の97暦年の数値と比較すると、15〜24歳の若年層および45〜54歳の中高年層の悪化が目立ちます。(図表22)

4.失業期間が1年以上の割合は、2000年8月の25.8%から2001年8月には27.4%へと悪化しています。男子のみでは32.0%となっており、年齢階級別にみると、15〜24歳が19.0%、25〜34歳36.2%、35〜44歳34.5%、45〜54歳36.4%、55〜64歳35.7%となっています。2000年8月に比べて2001年8月には45〜54歳で特に悪化していることがわかります。(図表23)

5.雇用者数は、全産業ベースで、98、99年と2年連続でマイナスが続いていましたが、2000年には前年比プラスに転じ、2001年に入ってからも増加が続いていました。しかし、9月には5,344万人、前年に比べ53万人の減少となりました。一方、製造業では、98年以降減少が続いており、2001年2月に一旦増加に転じたものの、6月以降は再び減少が続き、9月には1,162万人と、前年に比べ53万人の減少となりました。金属産業においても、2001年2月には回復をみせましたが、7月以降は再び減少し、9月には590万人、前年比29万人のマイナスになっています。(図表24)

6.雇用形態別に雇用者数の増加率を見ると、常雇は、98、99、2000年と減少が続いていましたが、2000年9月以降は増加が続き、2001年4月には0.9%にまで回復したものの、8月には△0.2%、9月△1.1%と再び減少しています。一方、臨時・日雇は2001年1月に前年比7.6%増となるなど伸びが続いていましたが、9月には女子が△1.1%へとマイナスに転じ、男女計では0.0%となっています。(図表25)
 
7.労働力調査特別調査で雇用形態別に雇用者数の変化をみると、90年2月調査時点で、典型労働者(正規の職員・従業員)3,488万人(雇用者数の74.4%)、非典型労働者(パート、アルバイト、派遣、嘱託、その他)881万人(同18.8%)であったのに対して、2001年には、典型労働者3,640万人(同68.1%)、非典型労働者1,360万人(同25.5%)と、非典型労働者の割合が7.1ポイント拡大しています。特に女子では、90年には典型労働者1,050万人(同59.5%)、非典型労働者646万人(同36.6%)に対して、2001年には典型労働者1,083万人(同50.4%)、非典型労働者994万人(同46.2%)と、非典型労働者が9.6ポイント増加しています。増加数では、典型労働者が33万人増に対し、非典型労働者は348万人増と10倍にも達しています。(図表26)

8.わが国の就業者全体に占める金属産業で働く就業者の比率は、第1次石油ショックののち、90年代はじめまで、20年近くにわたって11%程度を維持してきました。しかしながら93年以降、年を追って低下する状況となり、99年には9.4%となっています。(GDPベースの就業者数のため、労働力調査のデータとは異なる)
一般的に、経済が発展するとサービス経済化が進み、就業者全体に占める第二次産業に働く就業者の比率が低下します。しかしながら金属産業に関しては、第二次産業の一部ではありますが、経済の発展に伴って、就業者の比率が必然的に低下するわけではありません。前記のとおり、わが国では20年近く11%程度を保持していましたし、旧西ドイツでも、80年代前半にいったん17%台に低下したのが、後半には18%台に盛り返しています。イタリアでは70年代にはむしろ上昇傾向にありました。90年代のアメリカでも、IT関連雇用が爆発的に拡大したにもかかわらず、金属産業で働く就業者はほぼ一定の比率を保っていました。
このように見ていくと、金属産業の就業者比率の方向性は、その国の経済の力強さのバロメーターである、といえるのではないでしょうか。わが国の金属産業に働く就業者の比率は、急速に低下していますが、これこそがまさにわが国の「失われた10年」を象徴的に示すものであるといえます。わが国の基幹産業たる金属産業の衰退は、わが国そのものの衰退に直結するとの観点に立って、国内における生産基盤の強化を図っていかなければなりません。(図表27)

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2.金属産業における賃金・労働時間の状況

1.金属産業の賃金水準
2.労働時間の状況

1.金属産業の賃金水準

(1) 賃金構造基本統計調査にみる産業別賃金比較

1.厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から連合が算出したデータによれば、性・学歴・年齢・勤続を同一とした場合の所定内賃金水準(2000年)は、産業計を100として、製造業は95.1となり、99年の95.0とほぼ同水準になっています。金属産業では、鉄鋼業94.7、非鉄金属製造業96.2、金属製品製造業94.8、一般機械器具製造業95.9、電気機械器具製造業96.8、輸送用機械器具製造業97.5、精密機械器具製造業95.8となっており、いずれも産業計を下回っています。以上の金属7産業の数値を単純平均すると96.0となり全産業平均を下回っていますが、99年の95.4からはわずかに改善しています。(図表28)

2.2000年の「男子高卒」の所定内賃金について、年齢・勤続構成を同一条件として比較してみると、産業計100に対して、製造業は95.9(99年96.0)、金属産業は95.7(同95.4)と99年とほぼ同水準となっています。一時金は、製造業98.3(同100.6)、金属産業96.5(同100.4)と大幅に低下しており、この結果、年間賃金では、製造業96.4(同97.0)、金属産業95.9(同96.6)と、99年に比べて全産業に対する比率が低下しています。一方、「男子大卒」の年間賃金は、製造業96.0(同96.2)、金属産業96.3(同96.1)と、99年とほぼ同程度の比率になっています。(図表29)

3.2000年の高卒標準者の年齢ポイント別賃金(35歳)をみると、全産業を100として、製造業95.2(99年95.0)、鉄鋼業94.2(同93.7)、非鉄金属製造業92.7(同92.3)、金属製品製造業93.5(同94.4)、一般機械器具製造業93.7(同93.4)、電気機械器具製造業96.4(同95.5)、輸送用機械器具製造業97.2(同96.8)、精密機械器具製造業96.7(同94.6)となっており、格差はやや縮小しています。金額でみると、産業計318,600円に対して、製造業303,300円、鉄鋼業300,200円、非鉄金属製造業295,300円、金属製品製造業298,000円、一般機械器具製造業298,500円、電気機械器具製造業307,100円、輸送用機械器具製造業309,900円、精密機械器具製造業308,000円となっており、全産業との格差は8,700円〜23,300円におよんでいます。(図表30)

(2) 標準生計費

2001年度における全国平均の標準生計費(月あたり・非消費支出込み)は、35歳290,700円、30歳225,500円となっています。なお、34歳から35歳への1歳あたりの増加額は、9,500円となっています。これに対して、東京の標準生計費は、35歳311,000円、30歳255,300円となっており、全国平均よりも35歳で20,300円、30歳で29,800円高くなっています。
金属労協の集計対象A組合(組合員1,000人以上)では309,816円、B組合(300〜999人)では278,132円、C組合(300人未満)では265,290円となっており、B組合、C組合平均では全国平均の標準生計費に達していない状況にあります。(図表31)

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2.労働時間の状況

(1) 金属労協集計対象A組合における総実労働時間の状況

 金属労協集計対象A組合における労働時間の制度と実態の状況をみると、2001年度の所定労働時間は1,901時間になっており、2000年度の1,905時間からわずかながら減少しています。一方、2000年度の総実労働時間は1,980時間となり、89年度の時短5カ年計画がはじまって以来最も短い水準となった98年度1,957時間から2年連続で拡大してきています。
 2000年度の労働時間の内訳をみると、年間所定内実労働時間は1,778時間となり、99年度の1,787時間から減少しています。一方で、時間外実労働時間は202時間となり、99年度の176時間から26時間増加しています。(図表32)

(2) 毎月勤労統計から推計した労働時間の状況

 厚生労働省・毎月勤労統計から推計した製造業の・生産労働者の2001年度の年間総実労働時間は1,973時間となっており、2000年の2,000時間からは減少していますが、戦後最短であった98年の1,956時間からは17時間増加しています。また、所定外労働時間は183時間となり、2000年の195時間からは減少しているものの、同様に98年の149時間を34時間上回っています。金属産業全体では、総実労働時間1,999時間となり、2000年2,037時間を下回っていますが、98年の1,985に比べて14時間上回っています。所定外労働時間をみると216時間となり、98年の190時間を26時間上回る高水準になっています。
産業別にみると、鉄鋼業1,999時間、非鉄金属製造業2,023時間、電線・ケーブル製造業1,981時間、金属製品製造業2,033時間、一般機械器具製造業2,063時間、電気機械器具製造業1,923時間、輸送用機械器具製造業2,054時間、自動車・同付属部品製造業2,052時間、造船製造・修理業2,086時間、精密機械器具製造業1,957時間となりました。(図表33)

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3.金属産業の動向

1.電機産業
2.自動車産業
3.機械金属産業
4.鉄鋼産業
5.造船重機産業
6.電線産業
7.非鉄金属産業

1.電機産業
 
電機産業全体の動向としては、2000年には分野によりプラスが見られるという状況にありましたが、2001年は世界的なIT不況などのあおりを受け、大幅なマイナス傾向となっています。
半導体市場においては、世界ベースでの景気悪化の影響を受け、厳しい落込みが続いています。半導体集積回路は、2000年10〜12月期から出荷額の伸びが急速に鈍化し始め、2001年4〜6月期には前年比△30.3%の減少となっています。また、在庫率は大幅に上昇しており、半導体価格も下落しています。
コンピューター関連機器は、ウェイトの大きいパソコンが、生産量は前年並みの水準を維持しているものの、単価の下落により生産額が減少傾向となっています。周辺装置では、外部記憶装置が前年を上回る伸びを維持しているものの、入出力装置は単価の下落などから引き続き低調な動きが続いています。汎用コンピューターは、2000年末に一時的に前年を上回ったものの、減少傾向にあります。端末装置も、1〜3月期以降、減少傾向となっています。
通信機器においては、10月より第3世代携帯電話サービスが開始さましたが、若者層への普及が一巡したこともあって、携帯電話の需要は落ち込んでいます。通信機器全体の生産額は、4〜6月は前年比10.4%増となりましたが、7月には同△0.7%の減少となっています。設備投資関連の生産は、搬送装置が、アメリカ向け輸出の減少により一進一退の状況となっています。電子交換機は、ISDNに関連した需要や市内通話サービスへの新規参入に伴う設備投資が一巡したことから、4月は前年を上回りましたが、5月以降は急激に減少しています。
家電の国内出荷(台数ベース)は、総じて減少傾向にあります。AV家電をみると、品目ごとにばらつきがあるものの、総じてみると減少しています。品目別では、カラーテレビは、家電リサイクル法施行前の駆け込み需要の影響で1〜3月期は3.8%増と増加したものの、その後は反動減に加え、それまで好調であったBSデジタル放送対応型のハイビジョンテレビの伸び悩みもあって7〜9月期は前年比△8.6%となっています。VTRは大幅な減少傾向にあります。ビデオカメラはデジタルカメラの需要が一巡し4〜6月期前年比△8.4%、7〜9月期同△19.5%となっています。CD・MDプレーヤーは一進一退で推移しています。DVDは減少傾向にあります。
白物家電をみると、特に家電リサイクル法施行前の駆け込み需要により、洗濯機、冷蔵庫が1〜3月期に大幅に増加し、4月も堅調な動きをみせていましたが、6月より反動減となり、洗濯機は7〜9月期前年比△13.0%、冷蔵庫は7〜9月期前年比△12.9%となっています。また、電子レンジは低価格化と買い換え需要が重なり、2000年末より増加傾向にあるものの、伸びは鈍化しています。エアコンは堅調に推移しています。
家電の輸出(金額ベース)は、減少傾向にあります。AV家電では、デジタルスチルカメラなどの映像機器が増加傾向を堅持していたものの、全体では4月は減少に転じ、9月には総じてマイナスとなっています。地域別では、EU向け、アメリカ向け輸出の景気が弱い状態となっていることから減少しています。
家電の輸入(金額ベース)は、中国からの輸入が引き続き増加していますが、全世界ベースからみると減少傾向にあります。
重電分野については、重電機器合計の生産金額をみると、4月より減少傾向にあり、4〜8月は前年比△10.9%と落ち込んでいます。

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2.自動車産業

 自動車産業においては、国内販売(新車新規登録・届出台数)の実績が僅かではあるものの2000年を下回る状況となっており、アメリカを中心とした世界的景気停滞により完成車輸出がアメリカ・ヨーロッパを中心に減少しているため、生産が低調に推移しており、暦年・年度ともに2001年は、1,000万台割れの可能性が高まっています。また、アメリカ同時多発テロの影響による世界的な景気後退懸念に加え、国内でも不況感が鮮明になってきており、2002年下期の収益見通しは厳しさを増しています。
自動車全体の国内販売(新車新規登録・届出台数)は、2001年4〜6月期前年比△0.7%、7〜9月同0.1%増と減少と増加をくり返しながら推移しています。車種別にみると、普通乗用車はモデルチェンジをした車の需要が一巡したことなどから、前年を下回っています。小型乗用車は新型車及びモデルチェンジをした車が好調であることから、4〜6月期前年比4.9%増、7〜9月同6.7%増と、増加傾向にあります。普通トラックは、2000年5月に一部で初回車検期間が1年延長され、車検期間延長による購入増加の反動から5月、6月は減少に転じましたが、その後7〜9月期前年比6.7%増となったものの、10月には減少しています。小型トラックは、2000年好調であったモデルチェンジをした車の反動から、5月以降は減少傾向にあり、7〜9月期前年比△11.5%となっています。軽乗用車は新規格車の投入以降の需要が一巡して減少傾向にありましたが、10月に入り、各社の新車投入効果等もあり、前年並みを維持する可能性もあります。軽トラックは新規格車の投入以降の需要が一巡し、減少傾向にあります。
自動車の輸出(完成車台数ベース)は、1〜9月で前年比△7.6%、4〜9月で同△7.8%と減少しています。仕向地別にみると、アメリカ向けは新車販売台数の減少、現地生産の拡大などから減少しています。欧州向けはユーロ安の影響、現地生産の拡大などから減少しています。アジア向け、中東向け前年を若干上回る傾向にあります。自動車部品の輸出(日本自動車工業会々員11社分、ドルベース)は、海外生産用、OEM用とも前年を下回っています。

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3.機械金属産業

一般機械の生産は、総じて減少に転じています。機械受注(原動機・産業機械・工作機械・半導体製造装置のみ、金額ベース、前年同期(月)比)をみると、原動機が増加に転じているものの、産業機械、工作機械の伸びも鈍化に加え、半導体製造装置が減少しており、全体では4〜6月期前年比△9.3%、7〜9月同△2.2%と緩やかな減少傾向にあります。
 産業機械の受注は、4〜6月期前年比8.8%増、7月は前年比△20.6%、8月同6.0%増と一進一退で推移しています。内需は、非製造業向けでは電力業の一時的な需要が集中したことから増加していることに加え、製造業向けにおいて電気機械等の業種で増加がみられたことから、4〜6月期前年比3.6%増となりましたが、その後減少に転じています。外需は、プラント案件が一時的に集中したことから増加しており、機種別ではプラスチック加工機械等は低調でしたが、ボイラ・原動機等が増加したため、4〜6月期前年比33.4%、8月は93.7%増となっています。地域別ではアジアが減少傾向にありますが、アメリカ向けは増加しています。
 工作機械の受注は、4〜6月期前年比△11.8%、7月前年比△21.3%、8月同△25.9%と、このところ月を追って受注環境は厳しさを増しています。内需は、IT関連投資の急速な衰えに加え、ウェイトの高い一般機械向けや電気機械向けの伸びが鈍化していることから4月より減少に転じており、このところ弱含んでいます。外需においても、4〜6月期前年比△9.1%と6四半期ぶりにマイナスとなりました。アメリカの景気停滞によりアメリカ向けの減少傾向がみらますが、ヨーロッパ向けは堅調を維持しています。
 建設機械の出荷は、建設不況に加え、世界経済の悪化から内外需ともに低迷しており、全体では4〜6月期前年比△13.9%、7月同△16.1%、8月同△15.3%となっています。内需は、全体で減少が続いており、外需においては、ウェイトの高い北米・中南米向け、欧州向けの大幅な減少が続いており、主要機種別にみると、トラクタ、掘削機械、建設用クレーンの減少が続いています。
ベアリングの受注は、内外需ともに減少しており4〜6月期前年比△11.3%となり、7〜9月期では同△14.2%と予測されています。

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4.鉄鋼産業

鉄鋼需要は、内需が急速に落ち込み厳しさを増しています。2001年の春先までは輸出の大幅な減少にもかかわらず、内需が比較的堅調さを維持してきました。しかし、4月以降は、建設関連需要の大幅な減退に加え、製造業からの受注も先細り傾向を強め、需要総崩れの様相を呈しています。内需の足元の動向では、建設は公共土木の減少に加え、非住宅の建築の不振から前年比で2桁の減少が避けられません。また、製造業では、唯一堅調な造船を除き、自動車、電機、産業機械などは、輸出の減少やIT関連需要の急減から前年水準を割り込む動きとなっています。
一方輸出は、アメリカでは高炉大手2社が破産申請するなかで、通商法201条にもとづくセーフガード発動に向けた動きが強まっており依然として厳しい環境が続いています。足元では電炉メーカーが市況対策から輸出成約をすすめていることを加えても、前年水準を大幅に下回るものとみられます。
足元の需要は急速に悪化しており、本年度下半期では、需要規模のさらに一段の縮小を余儀なくされる見通となっています。
需要の低迷と在庫の積み上がりによって、最近の鋼材市況は、条鋼類・鋼板類ともにかつてない低水準にまで落ち込んでいます。今回の在庫調整局面では、条鋼類に比べて鋼板類の価格の落ち込み幅が大きくなっています。総合各社の2001年度上期での鋼材販売単価(単独)は、前年度に比べて1,800〜6,400円も下落しており、各社の経営内容が日々悪化していることを示しています。2000年度の総合5社単純平均の鋼材販売単価(単独)は、55,000円でした。1991年当時は85,000円でしたから、この10年間に30,000円、35%も下落したことになります。5社計鋼材販売数量を少なめに6千万トンと置くと、この10年間の減収額は1兆8千億円の巨額に達します。
2001年度の粗鋼生産は、4〜6月期2,638万トン、7〜9月期2,583万トンと走っており、上期計では5,221万トン、年率では1億400万トンペースの高水準となりました。9月中間決算発表時の総合各社の需要見通しでは、2001年度の粗鋼生産は9,900万トン程度となっています。それをそのまま受け止めれば、下期は全国粗鋼ベースで4,600〜4,700万トン程度となり、上期とは対照的な生産水準となります。経済産業省の生産計画ヒヤリングでは10〜12月期の生産水準は2,466万トンとされており、そこまでの減産が実際にできたと仮定しても、2001年度の粗鋼生産を9,900万トン程度に止めるためには、2002年1〜3月の生産水準は2,200万トンまで落とす必要があります。
2002年度、2003年度の粗鋼生産は、日本経済の実質経済成長率を2002年度△0.5%、2003年度1.1%とし、内需の減少に見合った生産水準とすること、価格重視の観点から在庫調整をきちんと実施すること、さらに輸出も需要に見合ったものにすること等を全て実行すると想定した上で、9,000万トン程度ときわめて厳しい見通しとなっています。

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5.造船重機産業

2001年度上期までの情勢では、造船、プラント、宇宙、鉄道車輌が好調となっています。
2001年度上期の新造船受注量(建造許可ベース)は、ばら積み船、コンテナ船、タンカーを中心に、前年同期比22.5%増の680万総トンとなり、船価も若干上昇しました。この傾向が続くと、今年度も昨年度に引き続き1,000万総トンを越え、1,300万総トンに達することも予想されています。
2000年、2,079万総トンもの大量受注をした韓国は、低船価受注に対する欧州のWTO提訴への動き等があり、また、中国では、急速な市場経済化の進展への対応等により、それぞれ上期の受注量が減っています。
2000年度のエンジニアリング産業の受注高は、国内が対前年度比2.7%増、海外が同23.1%増と海外需要の増加が大きく、合計で5.9%増の11兆6.927億円となりました。2001年度以降の受注見通しも、国内が弱含み、海外が伸張という傾向が続くと見通されています。2001年度上期のプラント輸出契約は、化学・石油化学プラントが大きく伸び、合計で141.2%増の1,199億円となりました。
2000年度の航空機生産額は、防衛需要の一時的回復により、対前年度比5.1%増の10,250億円が見込まれています。2001年度は、「部品」と「発動機」の増加があるものの、「航空機」及び「装備品」の減少により、合計で前年度比5.4%減の9,696億円の見通しとなっています。うち輸出は、2000年度が、対前年度比△5.0%の2,748億円の見込み、2001年度が、同17.6%増の3,231億円の見通しとなっています。受注は、2000年度(見込)が0.8%増の9,814億円の見込み、2001年度が、△5.8%の9,241億円の見通しとなっています。今後アメリカ同時多発テロの需要・開発への影響が懸念されます。
2000年度の宇宙産業売上高(機器)は、対前年度比3.2%減の3,356億円となりました。2001年度は、H2A2号機の打ち上げに伴う飛翔体、地上施設の回復が予想されることから、9.4%増の3,672億円が予想されています。
 2001年度上期の鉄道車両生産(貨車換算量数)は、このところ増加基調にある輸出が横這いだったもののJR向けが大きく増え、合計で、60.0%増の11,950両となりました。新幹線、LTR(ライト・レール・トランジット)等内外プロジェクトの推進に期待がかかります。

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6.電線産業

 日本電線工業会の「平成13年度電線需要改訂見通し」によると、総じて需要が減少すると予測しており、とりわけ世界のIT不況の影響で主力の電気機械、建設・電販部門の不振が顕著となっています。銅電線の受注量は内外需要合計で83万2,000トン、前年度比△10.1%、出荷量で内外需要合計84万1,000トン、前年度比△10.2%の見通しとなり、この出荷量の水準は、1977年度以来の低水準となっており、大変厳しい見通しとなっています。
 通信部門においては、2001年度のNTTの設備投資は、大幅に圧縮され、東西会社合わせて1兆円を割り込む見込みとなっています。メタルケーブルは光化もあいまって減少が続き、1万9,000トンと前年度比△9.1%の見通しとなっています。
電力部門においては、電力需要が東京電力等が7月の猛暑によりピークを更新しましたが、電力供給力には余力があり、経営効率化の促進もあいまって、電力会社の設備投資は抑制が続けられています。2001年度の銅電線の見通しは、8万5,000トン、前年度比△10.4%となっています。
電気機械部門では、世界のIT関連不況に伴い電子通信分野が急減していることや、海外生産シフトの影響、個人消費の伸び悩みによる家電等の不振など、総じて電機部門は厳しく、20万6,000トン、前年度比△14.3%と予測されています。
 建設・電販部門は、首都圏の大型再開発プロジェクトが2001年度末から多少寄与することが予想されますが、関連の深い投資項目である民間設備投資、民間住宅投資、公共投資ともにマイナスが予測されるため、電線銅量では36万トン、前年度比△8.7%と見込まれています。
 輸出部門においては、アメリカ、東南アジアの景気が厳しさを増していることに加え、生産の現地化、ローカルメーカーの成長、世界のメーカーとの競合など、輸出環境は厳しく、電線銅量で3万7,000トン、前年度比△23.1%の見通しとなっています。
 2000年度の光ケーブルの需要においては、国内需要の8割以上を持つ公衆通信、とりわけ、NTT、各電力会社、新興キャリアが中心となって牽引し、前年度比62.8%増の15,263kmCと、初めての10,000kmCを大幅に上回る予測となりました。2005年度は加入者系のインフラ整備に加え、新たな需要としてFTTHが本格的に動き始めることに加え、地域情報化、データトラフィック増加によるインフラ増強が活況を呈し、2000年度から2005年度年平均伸び率13.0%増の17,300kmCと、今年度をさらに上回る需要が続くと予測されています。しかしながら、光ケーブル価格の下落が顕著となっています。 

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7.非鉄金属産業

非鉄金属産業においては、為替は前年同期と比べて円安で増収要因となりましたが、世界的なIT関連需要の大幅な減退にともなう電子材料や伸銅品が落ち込んだ上、地金の国際価格の低下や販売不振などにより、非鉄製錬各社では軒並み減収となりました。また、IT不況による電子材料の需要不振、業績悪化に対応して、非鉄製錬大手8社は2001年度設備投資計画を修正し、当初計画の合計810億円に比べると100億円強の圧縮となっています。
 非鉄金属の生産動向(製錬所)をみると、金、銅、亜鉛については増加と減少を繰り返しながら推移していますが、銀、鉛については落ち込みが激しく、全体として減少傾向となっています。アルミニウム圧延品や伸銅品などの生産は軒並み減少しており、8月の前年比をみると、伸銅品は△18.4%、アルミニウム圧延品は△5.8%の減少となっています。
 非鉄ベースメタルと金、銀の中間期決算期中の建値平均は、低調に推移しており、トンあたりで、銅が233,000円、鉛が94,000円、亜鉛が150,000円となっています。鉛は前年同期比をやや上回りましたが、銅、亜鉛は同△10%前後の大幅なマイナスとなっています。

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4.国際経済情勢

1.アメリカ
2.ヨーロッパ
3.東アジア
4.東南アジア

1.アメリカ

 アメリカでは、厳しい景気調整局面が続いていたところへ、同時多発テロが追い討ちとなって、9月には景気が急失速し、今後の先行きは不透明となっています。個人消費は、所得税減税による可処分所得の伸びにくらべ低い伸びにとどまっており、消費者信頼感は大幅に低下しています。住宅投資が頭打ちとなっていることに加え、企業収益の悪化により設備投資は大幅に減少していることから、内需の伸びは鈍化しています。
 実質経済成長率は、91年3月以来、史上最長の景気拡大期が続いていましたが、2000年後半から景気減速が鮮明となり、2001年1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期同1.2%のあと、7〜9月期は△0.7%となっています。(図表34)
鉱工業生産指数の伸び率は、2001年1〜3月期前年比0.3%の後、4〜6月期同△2.2%、8月には前年比△0.8%となるなど、減少傾向にあります。テロの影響を鑑みると、今後は一層悪化するものと見込まれています。
消費者物価は2001月1〜3月期と4〜6月期は前年比3.4%、7〜9月期は同2.7%となっており、今後はエネルギー価格の下落、労働・製品需給の緩和などを背景に、スローダウンすると見込まれています。
 雇用環境は悪化しており、9月の就業者数(テロの影響は含まれず)は、前月差△19万9千人となっており、8月の同△8万4千人とくらべても減少幅が拡大しています。失業率(除軍人)をみると、2001年1〜3月期4.2%、4〜6月期4.5%、7〜9月期4.8%と上昇の一途をたどっています。テロ後には、輸送関連を中心に大幅な雇用削減がおこなわれています。(図表35)
 金融面の動向をみると、9月11日に発生した同時多発テロ事件への対応として、連邦準備制度理事会(FRB)は、9月17日緊急に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、0.50%ポイントの利下げを実施した後、10月2日のFOMCでも0.50%ポイントの利下げを実施し、フェデラル・ファンド・レート(FF金利)の誘導目標水準と公定歩合をそれぞれ2.50%、2.00%としました。さらに、11月6日に0.5%追加利下げしたことで、FF金利はケネディ政権以来約40年ぶりの低水準となりました。また、議会は9月14日に400億ドルの緊急歳出法案を可決、9月21日には150億ドルの航空業界支援法を可決するなど、財政・金融両面から対応が行われています。

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2.ヨーロッパ

 ユーロ圏では、景気は減速しています。個人消費は引き続き底堅く推移しているものの、政府消費の伸びが鈍化し、固定投資はマイナスに転じました。生産は減少しており、世界経済減速の影響で輸出が大幅に減少し純輸出の寄与はマイナスとなりました。消費者物価上昇率は、食料品価格の上昇等からやや高い水準にありますが、鈍化の兆しもみられます。
 欧州中央銀行は、8月30日に政策金利(短期オペの最低入札金利)を0.25%ポイント引き下げたのに続き、9月17日には米国連邦準備制度理事会(FRB)と協調して0.50%ポイントの利下げを実施し、政策金利を3.75%としました。さらに、11月8日にFRBに続くかたちで0.5%引き下げ、年3.25%とすることを決定しました。
また、アメリカ同時多発テロ事件の影響から欧州では、航空業界及びホテル業界など観光関連産業が打撃を受けるとみられています。こうした状況下、保険契約をめぐり保険会社と航空会社の折り合いがつかなくなったため、9月22日、EUの財務相理事会は、各国政府が保険料支払いの一部を肩代わりする方針を決定しました。(図表36)

1.ドイツ
ドイツでは、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比1.4%、4〜6月期同0.6%と低下傾向にあります。鉱工業生産指数は、2001年1〜3月期前年比4.0%の増加でしたが、4〜6月期には同△0.3%となっており、製造業の景況感悪化が続いています。個人消費は増加しているものの、その伸びがやや鈍化し、建設投資の低迷に加えて機械設備投資が大きく落ち込んだことから固定投資が大幅に減少しました。輸出及び輸入の伸びはプラスに転じたものの純輸出の寄与はマイナスとなっています。消費者物価上昇率は食料品価格の上昇等からやや高い水準にあり、1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期同3.1%となっています。失業率は1〜3月期、4〜6月期ともに9.3%と横ばいで推移しています。
ドイツでは、景気減速下でも緊縮財政を継続しており、米国同時多発テロ事件後も減税などの景気刺激策については慎重な姿勢をとっています。テロ事件を受けて、2002年度からテロ対策予算約30億マルクを計上することとしていますが、これはたばこや保険(除生保)への増税で賄うとの方針を示しています。(図表37)

2.イギリス
イギリスでは景気の拡大テンポが鈍化しており、実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比2.7%、4〜6月期同2.3%となっています。個人消費、固定投資等が好調であった一方、在庫投資は減少しました。鉱工業生産は、1〜3月期前年比0.6%増の後、4〜6月期同△1.8%と減少しています。物価は、食料品、エネルギー価格の上昇等から消費者物価上昇率がやや高まっています。失業率は、1〜3月期3.3%、4〜6月期3.2%と低水準で推移しています。
 イングランド銀行は8月2日に政策金利を0.25%ポイント引下げたのに続き、9月18日、アメリカ同時多発テロ事件直後のFRBとECBの協調利下げなどを受けて0.25%ポイントの利下げを行いました。さらに10月4日にもテロ事件の経済に与える影響等を考慮して0.25%ポイント引下げ、政策金利を4.50%としています。

3.フランス
フランスでは、景気の拡大テンポは鈍化しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比2.8%のあと、4〜6月期同2.3%となっています。個人消費は引き続き経済を牽引しているものの、輸出と固定投資は減少しました。生産は横ばいで推移しています。物価は、食料品価格の上昇等から消費者物価上昇率が1〜3月期前年比1.3%のあと、4〜6月期同2.1%とやや高い水準で推移していますが、低下の兆しもみられます。失業率は1〜3月期8.8%、4〜6月期8.7%でしたが、8月には9.0%になるなどやや上昇しています。
フランスでは、9月18日に2002年度予算法案を閣議決定しました。2002年経済の前提は、GDP成長率前年比2.5%、消費者物価上昇率同1.6%、等となっており、財政赤字はGDP比で1.4%と、2001年度予算当初案の1.3%より拡大する見通しです。

4.イタリア
イタリアの実質経済成長率は、2000年の2.9%から、2001年1〜3月期前年比2.5%、4〜6月期2.1%と減速傾向にあります。鉱工業生産指数は、1〜3月期前年比2.4%増のあと、4〜6月期同△0.7%と減少しています。失業率は、2000年10.5%から、2001年4〜6月期9.6%、7〜9月期9.4%と雇用状況は昨年に引き続き改善しています。(図表38)

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3.東アジア

1.韓国
韓国では、生産や輸出が減少するなど、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比3.7%、4〜6月期同2.7%と減少しています。鉱工業生産は、2001年1〜3月期前年比5.1%、4〜6月期同1.7%の後、6月には30カ月ぶりにマイナスとなり、7月には前年比△5.7%、8月同△4.7%となっています。輸出は2001年3月以降、前年比マイナスが続いており、前年同月比△20%と過去最大の減少幅を記録した7月に続き、8月も前年同月比△19.4%(速報値)となりました。2001年8月には経常収支は1年4カ月ぶりに赤字となっています。失業率は、1〜3月期4.2%、4〜6月期3.7%の後、8月3.6%、9月3.0%と低下傾向にあります。中央銀行はコールレートの誘導目標水準を7、8月に0.25%ポイントずつ引き下げ、さらに米国同時多発テロ事件後の9月19日に0.5%ポイント引き下げ4.0%としました。政府は9月、テロ事件を受け、第2次補正予算の再編など財政支出の拡大に向け検討を開始するとともに、2001年の経済成長率見通しを前回の4〜5%から2%台へとさらに下方修正しました。

2.中華民国
中華民国では、アメリカの景気減速やIT製品需要の大幅減退などによる生産や輸出の減少が続いているなかで、景気が急速に悪化しています。実質経済成長率は、2001年4〜6月期前年比△2.4%と東アジア諸国のなかで最も低い水準となり、四半期ベースでマイナスとなったのは、第1次オイルショック後の75年1〜3月期以来26年ぶりとなります。消費の伸びも鈍化しています。失業率は、1〜3月期3.7%、4〜6月期4.2%の後、8月には5.2%となるなど上昇しています。中央銀行は公定歩合が3.5%であったのを、8月から10月にわたり毎月引き下げを行い、過去最低の2.5%としました。11月に開催されたWTO閣僚会議では、中国につづき加盟が正式に承認されました。(図表39)

3.中国
 中国では、個人消費や固定資産投資が堅調に推移していますが、このところ輸出の伸びが鈍化していることから、景気の拡大テンポはやや鈍化しています。実質経済成長率は2000年の8.0%ののち、2001年4〜6月期前年比7.8%、7〜9月期同7.1%となっています。鉱工業生産額(付加価値、実質)は、2000年前年比9.9%ののち、2001年1〜6月期前年比11.0%と堅調に推移しています。消費者物価上昇率は1〜6月期前年比1.1%、7月同1.5%、8月同1.0%となっています。貿易に関しては、中国におけるIT関連製品の生産拡大、日系企業などからのIT関連機器の逆輸入増加、中国の輸入関税率の引き下げなどにより、日中貿易総額は、2001年1〜6月期前年比12.2%増、上半期では過去最高額を更新しました。また、2001年9月のWTO中国作業部会では加盟議定書が採択され、11月に開催されたWTO閣僚会議で中国の加盟が正式に承認されたことで、日中貿易は引き続き拡大するとみられています。

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4.東南アジア

1.シンガポール
シンガポールでは、世界的なIT関連需要の減退とアメリカ経済減速の影響から、景気の減退が深刻化しています。実質経済成長率は、2001年1〜3月期前年比4.7%のあと、4〜6月期同△0.9%と減速しています。輸出については、7月前年比△18.0%、8月同△21.3%と減少が続いているなかで、消費の伸びも鈍化しています。失業率は、4〜6月期2.6%と依然として低水準にとどまっています。民間消費や設備投資にかげりが見え始めており、景気の回復が当面望めないことから、今後、雇用環境についても急速に悪化することが懸念されています。

2.タイ
タイでは、民間消費が堅調なものの、輸出の減少とそれに伴う製造業部門の減速などを反映して、景気は減速しています。実質経済成長率は、2000年に前年比4.4%でしたが、2001年1〜3月期前年比1.8%、4〜6月期同1.9%となっています。輸出は、7月は前年比△13.3%となり、前年水準を1割以上下回ったのは、98年10月以来となります。政府は9月17日、米国のテロ事件が国内経済に与える影響を考慮し、2001年の経済成長率見通しを前回の2.0%〜3.0%から1.5%〜2.0%へとさらに下方修正しました。

3.マレーシア
マレーシアでは、世界的なIT需要の減少を主因とした輸出の低迷による製造業部門の落込みから総固定資本形成の伸びが鈍化し、民間消費の伸びも鈍化していることから、景気は減速しています。実質経済成長率は、2001年4〜6月期前年比0.5%となり、2000年1〜3月期から5期連続で低下しています。輸出に底打ちの兆しがみえないことから、マレーシアの景気低迷は一段と深刻化し、通年の成長率は、0〜1%程度にまで低下すると予想されています。

4.インドネシア
インドネシアでは、実質経済成長率は2000年の4.8%から、2001年1〜3月期前年比3.3%、4〜6月期同3.5%と景気回復のテンポはやや鈍化しています。消費者物価上昇率は9月には前年比13.0%を記録するなど高まっています。輸出は減少しています。8月27日、対外債務と財政難にあえぐ政府はIMFと「経済財政政策に関する覚書」について合意し、凍結されていた4億ドルの融資が実施されることとなりました。

5.フィリピン
フィリピンでは、製造業生産の伸びが鈍化し、輸出が減少するなど、景気拡大のテンポは鈍化していますが、実質経済成長率をみると2001年1〜3月期前年比3.2%、4〜6月期同3.3%と、経済減速が著しいアジア諸国の中では、好調を維持しています。消費者物価上昇率は高まっていましたが、このところやや低下の兆しがみられます。政府は8月、7,808億ペソ規模の2002年度予算案をまとめ、国会に提出しました。同予算案では2002年度経済成長率を4.3%〜4.8%と見込んでいます。

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5.国際労働運動の動向

1.IMF(国際金属労連)
2.欧州
3.北・南米
4.アジア
5.太平洋諸国

1.IMF(国際金属労連)

1.2001−2005年IMFアクション・プログラムの採択
2001年11月にオーストラリア・シドニーで開催されたIMF世界大会では、次期世界大会までの4年間の運動方針である「2001−2005年IMFアクション・プログラム」が提案され、採択されました。IMFアクション・プログラム2002−2005年は、「第1部はじめに」、「第2部IMFの使命」、「第3部IMFアクション・プログラム」、「第4部要約」からなっています。
アクション・プログラムの主な内容は、『多国籍企業のグローバルな勢力に対抗できるように、IMFがグローバルな組合組織機構を確立し、世界中どこでも全レベルで行動を調整・指示できるようにする。また、他のITSとより緊密な協力関係を積極的に追求する。IMF世界協議会の再編成、IMFモデル多国籍企業行動規範の取り組みを継続し締結をめざす。地域間活動の確立、組合統一と国別協議会の設置を目指す。各国の労働組合が選んだ教育担当者グループに訓練や資料を提供する。情報ニーズの高まりに応えるために、加盟組織と提携して情報・通信システムを確立する。国際キャンペーンを支援する書記局の能力を増強するとともに、効果的な国際キャンペーン実施方法の立案を促進する。 未組織労働者に焦点を当て、輸出加工区における労働者に重点を置いて組織化を進める。組合員の確かな生活水準を提供する労働条件と良い賃金をもたらす団体協約の締結へ組合を支援して行く。進歩と社会正義を希求する他の団体との対話を促進し、提携関係を確立すべく努力する。他の国際労働団体とともに代替的経済プログラムを立案し、その実施を求めて働きかける。ICFTUやTUACを初めとする他の労働組合機関とともに、WTOとブレトンウッズ機関の改革ならびに為替取引税の採用を求めるキャンペーンを実施する。加盟組織がILO条約に定める差別と闘うとともに、特にIMF活動への女性参画を改善し、団体交渉への女性参加を奨励するために講じることのできる具体的措置を取り決める。』というものです。

2.組織人員の拡大
シドニーIMF大会で確認された組織人員は、101カ国、207組織、2,480万人となりました。今回の新規加盟組織は、アジアからは後述のタイとインドネシアのみでしたが、ここ数年来の動きを反映してCIS諸国(ロシアおよびウクライナ)と東欧諸国で飛躍的に増加しています。また、メキシコでのIMF組織化プロジェクトが稼動を開始した結果、2組織があらたに加盟しています。欧州の組織ではフランスのFTM−CGTが加盟し、フランスの金属産業でのIMFの影響力の強化に期待が高まっています。

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2.欧州

(1) EMF(欧州金属労連)による共同交渉戦略の進展

2001年6月20−21日、ノルウェーのオスロで第4回EMF団体交渉会議が開催されました。ここでは欧州レベルでの金属産業の団体交渉の調整戦略について討論が行われました。この戦略は1998年12月にフランクフルトで開催された第3回会議で採択された各国別の団体交渉政策の欧州レベルでの調整に関する「調整規則」が基礎となっています。
欧州での単一通貨導入を目前にして、ユーロ導入による比較可能性の増加、競争圧力の強化から、経営側の費用削減の標的がもっぱら賃金や雇用・労働条件に向けられるのではないかとの労働組合の懸念があり、各国別の交渉が労働費用の削減を目的とした賃金交渉の下方スパイラルに陥ることに対する対策として戦略が練られています。
その団体交渉戦略とは、@各国の団体交渉政策と統合された戦略の決定を調整する地位にEMFを発展させる、AEMF加盟各組織が企画する団体交渉政策の定期的な情報交換と調整を行う。また欧州レベルで調整された枠組みで、各国レベルでの交渉を行う、B欧州産業同盟およびETUC(欧州労連)との協力と調整を強化する、Cデモやストライキでの共闘や国際行動の可能性を拡大させるためEMF加盟組織間の課題や労使紛争に関する情報交換をより緊密に行う、D団体交渉への参加者や交渉担当者の交流の実施をより拡大して行う、EEMFを代表する団体交渉参加者による汎欧州的地位についての企画を行う、の6点です。
第4回会議ではその「調整規則」に対する評価が行われました。1999年から2001年までのEMF加盟各国の団体交渉結果(図表40)に基づき欧州レベルでの共同交渉戦略の進展に際する問題点が挙げられました。第一に、数量であらわすことのできない成果についての直接的な比較に問題があるという点。EMFは団体協約においては購買力を維持し生産性向上へのバランスのとれた協力について言及していますが、職場委員の権利や企業への労組のアクセス、またはドイツに見られるような早期退職制度の一部導入などが団体交渉の結果として得られる場合比較が困難となっています。第二に、団体交渉の行われるレベルによる相違も問題となっています。全国もしくは地域レベルでの交渉が基本的に行われている中、イタリアやデンマークなど、産業分野での全国レベルの枠組みの中で実質的な交渉が企業別に行われるような国や、イギリスなどのようにほとんど企業別の交渉のみが行われる国があることによります。第三に、欧州で要求を組み立てる上で重要視されているのが消費者物価指数上昇率や生産性などの経済統計ですが、団体交渉に利用される統計は各国によってまちまちであり、ユーロスタットやOECD統計など各国比較の可能な数値とも異なっていることが挙げられました。
団体交渉の結果については、物価上昇分と生産性向上分を満たしているかどうかが焦点となりました。1999年の結果では、イタリア、アイルランド、スペインおよびポルトガルが満たされませんでした。2000年の結果についてみると、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ドイツ、イタリア、アイルランドおよびイギリスが満たしていませんでしたが、イタリアの場合、企業や工場での交渉が長引いたため上方に見直され、またオーストリアとポルトガルについても今後の詳細により上方修正されることになっています。ドイツとデンマークについては労働時間の削減や年金制度の改善を含めば実際の妥結水準はより高くなるとされています。
今後の展開として、EMFは加盟組織が行っている近隣諸国との独自の共同交渉政策を、団体交渉の欧州化の進展に向けて促進するものとして重要視し、さらに加盟組織の努力が重要であるとしています。また、欧州での労使紛争などストライキ突入やそれに近い状況に対応するための情報交換体系を整備し、欧州レベルの同情ストライキの可能性の検討を含めた、EMFの支援をより公式な方法で強化していくとしています。また、欧州での賃金の下方スパイラルへの突入を防ぐため賃金やその他の労働費用とみなされる項目へ焦点をあてつつ、職業訓練や退職制度など賃金以外の項目との連携を深めていくとしています。
最後に、EMFが欧州レベルでの財政や通貨なども含めた経済政策を策定していくことの必要性と欧州中央銀行などとの対話を模索していくことが強調され、この報告は「労使関係の各国制度は各国の文化や歴史に基礎を持っており、これからもそうである。各国制度間の相違は今までと同様に存在していくであろう。このことは過去3年間に変化はなく将来においても決定的であろう。しかし変化したことといえば、調整が必要であるということをEMF加盟組織が深く認識したことである。このことは将来のEMF調整規則発展の基盤となる」と締めくくられました。(図表40)

(2)フランス

1.最低賃金制度の動向
政府はSMIC(法定最低賃金)を4.05%引き上げる方針を決定し、6月25日、ギグー雇用連帯相が主宰する団体交渉全国委員会の席上、労使代表に伝えました。
フランスの法定最低賃金は、消費者物価と賃金購買力の動きをもとにした一定の計算方法に従い改定されますが、政府は、この自動的に算出される改定幅よりも高く決定できる権限を有しています。今回、5月の消費者物価上昇率と1−3月期の賃金購買力の伸びから算定された自動的な改定幅は3.76%でした、政府は、それに経済成長の報酬として0.29%上乗せし、過去10年間で最大の4.05%の引き上げを決定しました。この改定により、法定最低賃金(税込み)は、週39時間労働者で、1時間当たり43.72フラン(月換算で7,288.68フラン=約12万円強)となります。
今回の改定については、フランス経済が3年連続で3%前後の安定成長を達成していることから、その配分として労働組合や左派政党は大幅な引き上げを要求していましたが、政府は、物価上昇率は今後落ち着くと予想されることや雇用手当の支給が9月に始まることから、慎重な姿勢を崩しませんでした。
時短法第1法の発効から3年が経過した現在、すでに週35時間労働が適用された労働者については、その移行時期によって3つの最低賃金が並存しています。これは、時短による最低賃金の目減りを避けるため、週35時間へ移行した労働者の最低賃金を移行時点の週39時間労働者の最低賃金に固定(月額ベース)するよう時短法で定めたことによります。したがって、週35時間労働者の最低賃金については、最終的に週39時間労働者のものに収斂させるため(時短法により2005年までに最低賃金の統一が義務づけられている)、改定率は低く設定されます。今回も週35時間労働者については、改定率は政府の上乗せ分も含め2.85%とされました。これにより、たとえば、1999年7月〜2000年6月までの間に週35時間へ移行した労働者については、月額7,180.43フランとなります。
なお、上述の雇用手当とは、近年創出された雇用の大部分がSMICの1.3倍以下の賃金であり、また全国でこのSMICの1.3倍以下の賃金の労働者が40%程度を占めていること等を背景として、低所得者家計を援助するとともに、雇用を促進するという目的で創設されました。具体的には、家族の少なくとも1人が働いていて、かつ所得が一定限度内にある家計に支給されます。これまで住宅手当名目などで低所得者家計を援助していたものを、雇用に関連付けて支給する形に改組したものです。このため、政府は400億フランの支出を決定しています。

(3)ドイツ

1.IGM(金属産業労組)が訓練に関する協約を締結
 2001年6月、IGMは、ダイムラークライスラー、ボッシュ、ポルシェ、ABBといった多数の著名な金属関連会社の製造工場があるバーデン・ヴュルテンベルク地域で、資格取得・上級訓練に関する労働協約を締結しました。
 この協約は、「すべての従業員には、使用者と定期的に評価会合を開き、資格取得措置や上級訓練の必要性を判断する権利がある」と定め、この訓練に係る費用はすべて会社側が負担することとしています。また、「個人で資格取得措置を受ける場合、従業員は限定的に休暇を取得する権利を与えられるが、この個人訓練の費用は自分で支払わなければならない」との規程もあります。この協約は工場の従業員全体を対象とし、細目については各工場で取り決められます。

2.金属産業労組(IGM)とフォルクスワーゲンの団体交渉
IGMとフォルクスワーゲン経営側との間の交渉は、2001年6月に会社側の提案に対する組合側の反対により決裂し、8月27日再開しました。今回の団体交渉では、「VW5,000×5,000」プロジェクトを焦点にして行われ、同月27−28日にわたる交渉の末、クラウス・ツヴィッケルIGM会長が「組合にとって成功」であると宣言した内容で合意されました。
この新たな企業別協約は、当初会社側から「VW5,000×5,000」プロジェクトが公表され、賃金の追加支払い無しで週35時間労働から週48時間労働への引き上げるという案に対して、ツヴィッケル会長が教育訓練時間を含めて週40時間以上の労働は受け入れない姿勢を示し、現行の週35時間労働と地域賃金協定に適合するように要求した結果、修正されたものです。この新協定には作業編成と権利について新たな項目を含んでいます。
この協約によると、新たに雇用される従業員は、これまでの固定勤務時間制(平均で週32−33時間)による週5日の3交替制ではなく、原則として週35時間の可変勤務が適用されます。また、シフト交替や受注状況に応じて週7時間、年間200時間までの労働時間延長が認められることになります。超過時間は個々の従業員の「勤務時間口座」にカウントされ、会社側はこの口座の残り時間を利用することで、必要ならば土曜日の3交替勤務も可能となります。夜間・週末勤務手当は支給されませんが、ボーナスを含む月給として業界水準と同等の一律5,000マルク(約28万円、ただし当初の見習い期間中は4,000マルク)が支給されます。このほか、従業員の自発的な技術開発のための週3時間の超過勤務手当や個人の能力に応じた業績手当なども支給されます。
この他のドイツ国内の産業別協約は、金属産業においては2002年2月以降に協約期限を迎えることになっています(図表41)

3.雇用のための同盟
 ルフトハンザ紛争でパイロットの給与の大幅上昇があったことなどから、 2002年連邦議会選挙年の賃金協約交渉ではIGMなどが純然たる賃上げ闘争を行うとの発言とこれに反対する使用者側の発言があり、「雇用のための同盟」に影響することが懸念されていましたが、 このような状況を踏まえて、 BDA(使用者連盟)とDGB(労働総同盟)が2001年7月20日、 同盟維持を標榜する概略以下のような共同声明を発表しました。
 過去1年間に60万人の新たな雇用(金属電機産業だけで10万人)が創出されたことが確認され、 BDAとDGBが今後も過去の同盟の取り決めにしたがって訓練職と雇用の創出に努力することが謳われました。 また従来どおり職業上の資格付与に努め、 労働意欲と能力のある若年者に職業教育の場を提供し、 特に今後も協約並びに事業所レベルでこれらのことがさらに実施される期待が表明されました。
 超過労働については、 パートタイム雇用、 期限付き雇用の利用、 各種労働時間貯蓄等による労働時間の弾力化の利用によって、 これを今後も削減する努力を行うことが同意されています。 年金については、 公的年金を補充する事業所年金、 企業年金に関する年金改革法で、 事業所レベルでの年金拡充の可能性が開かれたことが述べられ、 2001年3月4日の「雇用のための同盟」の会議で表明された期待をさらに推し進めて、 協約交渉当事者が次の協約交渉までに、 協約レベルと事業所レベルでの年金規制について提言することの期待が強調されています。

4.フォルクスワーゲン労使が中核的労働基準に関する共同声明作成で基本合意
 VW(フォルクスワーゲン)経営側とVWグループ世界労使協議会、そしてIMF(国際金属労連)は、3者が2000年の年末までに社会的基準および労働者代表と経営者の協力関係に関する共同声明を準備することで合意しました。声明の項目はILO(国際労働機関)の中核的労働基準の実施と、労使協調型の紛争処理を含む世界的規模のフォルクスワーゲン人事哲学が基本となります。その内容はフォルクスワーゲンの労使協調哲学の基本原則を示すこととなります。2002年の上半期に開催予定のVWグループ世界労使協議会を機に、協定の最終的な議決が行われると考えられています。

(4)イギリス

5.最低賃金制度の動向
 政府は2001年7月、全国最低賃金を10月に引き上げると発表しました。16〜21歳の若年者向け最賃(時給)は現行の3.2から3.5ポンドへ、22歳以上の成人向け最賃は3.7から4.1ポンドへ引き上げられました。
 全国最低賃金制度は、1999年4月1日から実施されました。200万人に近い労働者がこの影響を受け、最低レートが導入された時点で、平均30%の賃金引き上げを得ました。全国最低賃金制度に関して現在までに明らかになったことは、この制度が雇用創出に対して全く悪影響を及ぼさなかったということです。導入に反対であった保守党は、雇用に対して否定的な影響が出る可能性を強調したが、導入後は保守党議員も、たとえ政権に復帰しても最低賃金制度は維持することを公約しています。
 全国最低賃金制度の恩恵を受けた200万人の労働者のうち、約130万人が女性であり、その多くは、パートタイムで働く比較的裕福な家庭の第2番目の賃金稼得者です。このため、イギリスの最貧困家庭の多くを占める働き手のいない家庭に対しては最低賃金制度は援助とはならず、家計所得の不平等の是正に関してはほとんど影響を及ぼすことができませんでした。

(5)スウェーデン

1.金属労働者の協約
 ブルーカラー労組である金属労働者労組の組合員への賃金原資の分配は、工場ごとで行われる3度の支部交渉においてなされます。そこでの平均賃上げ率は、2001年2月に2.3%、2002年2月に2.0%、2003年3月に1.7%となります(計6%、さらに協約期間中、賃金ドリフトで1%の上積みが保証され、合計7%の賃上げとなる)。2002年4月までに、少なくとも475クローネの賃上げがなかった金属労働者には、この額の増額が行われます。その次の賃金見直しは2003年5月に予定されており、最低増額は225クローネに設定されています(計700クローネ)。即ちこの38カ月協約の期間内に、個々の労働者に対して4%の賃金増額が保証されています。
 4つの賃金グループ(おおよその職業評価システムに基づく)の中で最も低いグループの最低協約賃金は、現在、時給で65.04クローネ、あるいは月給で1万1,300クローネとなっています。この最低協約賃金は、2001年に3.5%増額され、以後毎年さらに3%ずつ増額されます。2004年には、この額が1万2400クローネとなります。この最低協約賃金が該当するのは金属労働者のうち1万人にすぎず、平均時給は1時間当たり100クローネを超えています。
 休暇中の給与は3年の間に12.5%増額されます。これは、実質的に連帯的賃金政策に向けて一歩を踏み出したものと考えられます。現在はホワイトカラー労働者にのみ与えられている、就職した年に5週間の休暇を取る権利が、将来的には金属労働者にも与えられると考えられるからです。
 ブルーカラー労働者は、要求より低い賃上げを受け入れなければなりませんでしたが、使用者が労働時間を弾力的に設定する権利を強化することは拒否しました。組合の指導者らは1998年の交渉で年間労働時間を3日間短縮することを受け入れた後、組合員から、労働時間の予定作成に関し、使用者が労働時間を設定する権利について、過度に譲歩したと厳しく批判されたからです。
 弾力的な勤務時間に基づいて働き、超過勤務時間が生じた場合、その時間は、「労働時間銀行」の口座に投資されます。年末に100時間を超える労働時間が銀行に蓄えられている場合は、当該労働者が希望すればそれを年金保険に払い込むことができます。
 労働時間は今後3年間に毎年1日分短縮されます。短縮された時間に対する報酬は全額支払われるので、使用者にとっては3年間で1.5%のコスト増となります。政府が、現在の労働時間委員会の報告に従って、労働時間の短縮が法によって定められた場合、協約による時短に加え、時短がさらに一層進むことになります。

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3.北・南米

(1) アメリカ
1.失業率の動向

 アメリカの2001年1月現在の軍人を除く16歳以上の人口は2億1,093万人であり、労働力人口は1億4,196万人、労働力率は67.3%です。
 アメリカでは1991年以降景気の拡大が続いてきましたが、2000年第3四半期の実質GDP 成長率は2.2%に落ち込みました。また、経済成長を牽引してきたインターネット関連企業でも、2000年5月以来一時解雇者数は増加を続け、2000年1月から9月までにその数は1万6,000人余にのぼっています。
 労働省は2001年9月7日、8月の失業率が4.9%(7月は4.5%)に上昇し、1997年9月以来約4年間で最も高い水準に達したと発表しました。非農業部門の雇用者数は前月比11万3,000人減少しました。特に製造業雇用者数は、前月比14万1,000人減(13カ月連続の減少)、サービス業では政府部門などで雇用増があったものの、前月比2万3,000人増にとどまり、雇用を支えてきたサービス業にも勢いがなくなりつつあります。中でも小売業(2万6,000人減)・運輸では人員削減が目立っており、今後の雇用増も期待しにくい状況です。
 ブッシュ大統領は、失業率の悪化を懸念し、何らかの対策を取る意向を表明しました。しかし、その後、同時多発テロの影響で、航空業界を始めとするサービス業や製造業での人員削減、米経済を支えてきた消費意欲の減退が不可避となっています。

2.雇用・失業の特徴
 年齢別の失業率をみると、若年者の失業率が極めて高く、2000年12月の失業率は、年齢計では4.0%であるが、16〜19歳層の失業率は13.1%、20〜24歳層は7.0%となっています。
 1990年以降のアメリカの労働市場における雇用増の多くは、サービス業および小売業において創出されています。クリントン大統領就任以降の7年間(93年1月〜99年12月)における雇用者数の動向をみると、サービス業では1,106万人増加して全雇用増の約58%を占めており、小売業は318万人増加し、全雇用増に占める割合は約17%となっています。
 失業期間は長期化しています(再就職の困難性)。1993〜98年の5年間において、3年以上の長期勤続者の解雇420万人となっていますが、この420万人は1999年2月時点で74%が再就職をはたし、13%が失業を継続しています。再就職の困難性は、女性、高齢者においてより高くなっています。また、420万人中270万人がフルタイム職から解雇され、再びフルタイムに就職したのは220万人(82%)ですが、以前の職より賃金水準が低下した者の数が多くなっています。このため、就業者の5.4%(730万人)は複数の職を持っています。

3.コンティンジェント労働
 今日のアメリカの労働市場では、高賃金、福利厚生充実、フルタイムの典型労働者とは対照的な、いわゆる非典型雇用が増加しています。アメリカではこの非典型雇用をコンティンジェント労働と呼んでいます。コンティンジェント労働は、おおまかには企業が必要に応じてフレキシブルに使用する労働者を意味し、具体的にはパートタイム労働者、一時雇い、派遣労働者、下請業者などの形態があります。

4.労働組合組織率
 雇用者総数に対する労働組合組織率は、2000年に13.5%に低下し、政府が983年(組織率20.1%)に統計を取り始めて以来、最低になりました。労働組合員総数も1999年の1,650 万人から1,630万人に減少しました。労働組合は、一時解雇の影響を受けにくい公共部門で高い組織率を維持しており、同部門での組織率を1999年の37.3%から37.5%に上昇させました。しかし、経済成長に陰りが見え始めた民間部門での組織率は、1999年の9.5%から9.0%に低下しています。背景として、歴史的に組織率が高い製造業や運送業が、近年、人員削減を続けているうえ、雇用者数の伸びが著しいハイテク産業や人材派遣業での組織化が進んでいないという事情があります。労働組合が、これらの雇用構造の変化に対応しきれないまま経済成長の鈍化が始まり、労働組合の勢力が強い自動車産業などで人員削減が進行しています。
 1999年には、組織率は98年と同じ13.9%でしたが、総組合員数が98年の1,621万人から1,648万人に増加したため、AFL−CIO(アメリカ労働総同盟・産別会議)は、組織化が成功しつつあると歓喜していました。それだけに、新たな統計は、AFL−CIO幹部を意気消沈させる数字となった。AFL−CIOのマーク・スプレイン組織化部長は、今回の数字にがっかりしたと認めながらも、「エンジニアや他の専門職を対象にした組織化に成果を上げつつある」としています。

(2)ブラジル

自動車労働者はフォルクスワーゲン社と基本合意に達し、フォルクスワーゲン社最大の海外工場であるサン・パウロの自動車組立工場で行われた1週間ストライキを終結しました。この合意は、スト中の900台/日にのぼる生産不足分を補うための大量解雇や生産中止を防ぐために結ばれたものです。老朽化が進むサン・パウロのサン・ベルナルド・デ・カンポにあるアンチエッタ工場の新たな投資と更なる近代化の道を開くことにもなります。
この合意の下、フォルクスワーゲンは一週間以上前に解雇となった3,000名の従業員を復職させることとなります。その半数が直ちに仕事に復帰することになり、残りの1,500名は1月末まで有休が与えられるとのことであり、同時にフォルクスワーゲンは700名の雇用削減をするために任意退職プログラムを行う予定とのことです。
また従業員は給料と労働時間の削減を承認する予定であり、削減は15%くらいになると考えられています。この合意は金属労組のルイス・マリノー会長がドイツを訪問してフォルクスワーゲン本社に赴き2日間の交渉の後結ばれたものです。
アンチエッタ工場は、近年行われてきた近代化への努力にもかかわらず、ブラジルにある新しい工場にくらべると競争力が落ちています。その原因は他の工場より人件費がおよそ30%高いことが大きく作用しています。フォルクスワーゲンとの合意の一部として、工場の更なる近代化への追加投資と大量解雇を避けるための新しいモデル車組立の導入が考慮されています。マリノー氏がエスタド新聞通信社に伝えたところによると、これが失敗した場合、現在の従業員16,000名の半分の過剰雇用が2年以内に生まれるとのことです。

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4.アジア

(1)韓国

1.労使政委員会での議論と民主労総連帯闘争
政労使三者で構成されている各種委員会で主要な争点となっている項目は、労働時間の短縮、非典型労働者の保護、構造調整関連の問題の3点が挙げられています。
労働時間の短縮については、1998年2月の政労使による社会的合意に盛り込まれていた「労働時間の短縮」について、労使政委員会で2000年10月23日、「現行の週44時間から40時間に短縮し、週5日勤務制を定着させる」という基本合意には達しましたが、国際基準に基づいた休暇制度の導入とそれに伴う賃金補填については労使の間で意見の一致をみている以外の細目については合意されていません。
 政府労働時間短縮特別委員会の公益委員案では、労働時間短縮に関する基本的な立場として、「社会・経済の現実からみて労働時間の短縮は受け入れられるべきものであり、労使はそれに伴う社会的コストを分担し、その利益を共有しなければならない。今後労働界は生産性向上、財界は経営革新を通じての費用節減、政府は労働時間短縮のための環境整備などにそれぞれ全力を尽くすことが求められる」としています。
 細目については、@「年・月次有給休暇」を「年次有給休暇」に一本化して、勤続年数1年以上の者に18日を与え、3年毎に仕事に1日を加算し、上限を22日とする。生理休暇は無給とする。A施行時期については2002年7月から2007年1月にかけて4段階に分けて施行するが、中小企業に対して早期実施する場合は政府の支援措置が必要である。B変形労働時間制(2週間単位、1カ月単位)については労使間の書面による合意に基づいて1年に拡大する。C超過労働時間の上限(週12時間)と超過労働手当ての割増率(50%)については現行の水準を維持すること、などとなっています。
9月5日の本委員会では上記の公益委員案が検討されましたが、労使間の合意には至っていません。労働界は「労働者の休暇日数と賃金が引き下げられ、実際に生活の質向上にはつながらない」としたのに対して、財界は「施行時期が早すぎるうえ、休暇日数が多すぎて受け入れられない」との立場を貫いたとのことです。
非典型労働者の保護につながる、最低賃金の引き上げについては、労使公益それぞれ9名ずつで構成されている最低賃金委員会で論議されています。同委員会7月20日、2001年9月1日から2002年8月31日まで適用される最低賃金を前年同期より12.6%引き上げ、時間当たり2,100ウオン(月47万4,600ウオン)にする案を決議しました。経営側の要求が2,060ウオンであったのに対し、労働側の要求は2,100ウオンと労働側の要求が採択された結果となりました。
 この決定に対して、韓国経総は「企業の実情を無視したものである」とし、これから最低賃金制度の諸問題点を是正するため立法請願などの措置を講じる計画であることを明らかにしました。一方、労働界は「労働者間の賃金格差や階層別所得格差の拡大傾向に歯止めをかけるため、最低賃金を最終的に常用労働者平均賃金の50%水準(例えば、今回は当初の要求案として時間当たり2,837ウオン)に引き上げなければならない」との立場を強調しました。労働部の関係者は「労働側の要求水準には及ばないものの、労働生産性増加率(7.3%)、名目賃金上昇率(7.5%)、労使交渉による賃上げ率(5.7%)などを勘案すれば、労働側の立場がかなり反映されたものといえる。最低賃金は常用労働者(20万1,000人、全体の2.8%)のみでなく、非典型労働者にも適用されるため、実際にその対象になる労働者数はかなり多いだろう」と述べています。
構造改革をめぐっては、民主労総系の労働組合が賃金闘争などの経済闘争とあわせて、大宇自動車の売却阻止などの運動を連帯闘争として6月から繰り広げてきていますが、この連帯闘争に対して政府が民主労総執行部に逮捕状を発行したことから、「労働弾圧」であるとして7月5日から第2段階に突入し「対政府闘争」を繰り広げるとしました。この闘争において民主労総が中心的役割を果たすと考えられていた金属産業大手企業労組でしたが、その参加や動員が低調であり、組合員の参加率が相当程度低い結果となりました。これは、これらの大手企業が争議行為の調停手続きに入っていたため、この段階でのストライキ突入が不法行為とされる恐れが企業労組の幹部にあったこと、この闘争の政治的色合いの強さが組合員とはかけ離れていたこと、政府の不法争議行為に対する厳正な法執行という姿勢の圧力があったこと、などによるものです。
 この連帯闘争に際して、民主労総の段炳浩(ダン・ビョン・ホ)委員長は、6月のストライキとデモを指揮したとして、8月2日に再度逮捕されました。段委員長は大統領の大恩赦によって、2カ月と4日の刑を残して1999年に一度釈放されましたが、残りの刑期を務めれば数カ月におよんでいる政府とKCTUの抗争に終止符を打つという政府の約束を受けて、この8月に再び拘留されました。この約束は、民主労総と政府の調停役となっていた高名なカトリック指導者であるキム・スンフン氏により結ばれたもので、この間民主労総執行部は明洞(ミョンドン)大聖堂の前で座り込み抗議を指揮していました。政府は段委員長が自首すれば、逮捕を緩和し合法的なKCTUの活動とその指導権を認めることで合意しました。
 このような合意があったのにもかかわらず、段委員長は現在もソウル刑務所から釈放されておらず、拘留の期限も明らかになっていないとの報告が民主労総よりされました。9月8日、検察庁が段氏に新たな罪状を言い渡し、取り調べと法廷への拘留をするために逮捕令状を発行し、また、政府高官がそのような合意はなかったと否定し、9月29日の大統領官邸でのトップ会談で、段氏の投獄を継続するという決定がなされたとのことです。

(2)中国

1.金属労組の組織動向
 中国には、中華全国総工会の指導のもと、2つの金属関連の産別工会、中国機械冶金工会と中国国防工業工会があります。中国機械冶金工会は中華全国総工会の指導のもとにある機械冶金産業の全国産業工会で、組合員は2,000万人、全国からの中央代表は105名となっています。機械冶金産業は省庁所在地に集中しており、地方の産業工会は70組織あり現在調整を行っているところです。中国機械冶金工会では市場経済の状況のもと、労使関係対策に力を入れています。地方組織の調整と同様、全国組織についても総工会と調整しており、今後建設建材工会の一部と合併する予定です。
また、中国国防工業工会は郵便・電信電話の工会と合併する予定であり、合併後は電子産業から情報産業まで幅広い産業分野の労働者を組織化する工会となります。軍事産業も従来どおり組織しています。国防産業の範疇では原子力工業、航空工業、電子工業、兵器工業、船舶工業および航空宇宙工業の6つの産業は、すでに13の集団企業(中国原子力工業集団公司、中国原子力工業建設集団公司、中国航空宇宙科学技術集団公司、中国航空宇宙科学工業集団公司、中国航空工業第一集団公司、中国航空工業第二集団公司、中国船舶工業集団公司、中国船舶重工集団公司、中国兵器工業集団公司、中国兵器装備集団公司、中国電子情報産業集団公司、中国電子科学技術集団公司、中国長城計算機集団公司)を設立しています。
これらの産業工会の主旨と主要任務は、労働者の広範な利益を保護し、労働者階級の地位・生活条件などを向上させ、企業の民主的管理を進め、企業の発展を促進することであり、具体的な運動は、@労働者の経済利益を保護する、A団体交渉の推進と団体協約の締結のための運動を行う、B労使関係の整備、バランスのとれた労使関係の構築を進める、C労働法に定められてある労働者の権利である、労働者の利益を守るための規制を維持する活動を行うとしています。
また、今後の構造調整によって、業績の悪い企業、老朽化した企業、特に地方の企業は閉鎖していくことも考えられることから、そのような場合の労働者の利益を保護するための活動を、@下崗労働者の再就職活動、A再編された企業や新設された企業での工会組織化、B新しい技術の導入と産業の発展を促進、C労働者の民主的権利の擁護し、企業の民主的管理制度の基本である労働者代表大会制度を堅持・完成させ、経営情報の公開と企業との民主的協議を推進する、としています。
労働者代表制度については、工会は各企業別に設置された企業における民主的な制度であり、経営目標、方針、生産計画など重要な項目はこの大会で審議、採択されなければならないとしています。また、労働者の賃金については労働協約に含まれなければならないとしています。代表大会への選出は、末端組織から一定の比率に基づいて選出されます。工会は労働者代表大会の活動機構であり、各小委員会の代表はほとんどが工会の代表であり、主導的な役割を果たしているとしています。工会の主要な活動の一つとしてこの大会を主催しており、年2回開催で、1981年の条例で制定され20年の歴史があります。

(3)マレーシア

1.電子産業の産業別組織による組織化問題
 マレーシア政府人的資源省は、1995年雇用法、1959年労働組合法、1967年労使関係法など労働関連の法律の改正について検討を行っていましたが、2001年8月20日、新聞報道で、フォン・チャン・オン人的資源相は「マレーシアの電子産業の企業の多くには効率的な企業内組合が存在している」として、電子産業への全国労組による組織化を禁止し続けることを強調し、これからもこの産業の企業には企業内組合しか認めない方針を変えないと述べました。
 この問題は1970年代までさかのぼる問題であり、1988年に政府が電子産業企業の企業内組合の結成のみを認めたこと以外、方針の変更はありません。人的資源省労働組合部によれば1996年の数値として電子産業では8つの企業内組合が結成されており、4,400名の組合員がいるとしています。
 EIWU(電機産業労組)やMIEU(金属産業労組)をはじめとするマレーシアの労働組合は、政府が企業を組織化する際の労働組合の形態を規定することはILO条約など国際的に認められている労働者の権利を侵害するものであり、また電子産業であるかどうかの判断が非常に恣意的であり、同じ製品を製造している2工場の一方が電機産業、もう一方が電子産業という判断がされるなどの問題があると指摘してます。さらに企業内組合結成の申請に際しても、組合の名称を企業の名称と同一としなければならないことから、企業が一方的に名称変更を繰り返し、その間に組合幹部を解雇するなどして組合つぶしを行う例が発生しています。
 IMFは9月にこの問題に対して、マルチェロ・マレンタッキIMF書記長が、マレーシアで電子産業労働者の全国労働組織を設立するための闘争への支援を継続し、「この20年以上にわたる問題に終止符を打つための強力な活動を計画していく」と述べました。IMF−MC(マレーシア協議会)ではマレーシアの電子産業労働者150,000名のうち、企業内組合に組織されている労働者でさえ5%に満たないことから、このような諸制度の乱用により企業内組合では組合員の雇用を守ることはできないと指摘しています。今後IMF−MCとして人的資源省に異議申し立てを行い、ナショナルセンターであるMTUC(マレーシア労働組合会議)とともに、電子産業の労働者の全国労組による組織化が行われるように活動していくこととしています。

(4)インドネシア
 
1.労働法の動向
2001年7月23日、国民議会でワヒド大統領の罷免が圧倒的多数で可決され、メガワティ副大統領の大統領昇格が全会一致で決定しました。それに伴い、メガワティ新政権が誕生し、遅れること18日、新内閣のメンバーが発表されました。
 新労働・移住大臣は、最大手のFSPSI(全インドネシア労働組合連合)のヤコブ・ヌワウェア議長が就任した。ヤコブ新大臣は、メガワティ新大統領率いるPDI−P(闘争民主党)に所属しています。
 アル・ヒラル前労働・移住相が、ワヒド前大統領の省庁再編の際、移住大臣から横すべりした大臣だったため、労働組合側は度々「専門家以外の大臣就任」に不平を露にしてきました。また、ここ数年のインドネシア国内の労働紛争に関しても、前大臣の任期中には具体的な対策がとられずに、多くの批判が挙がっていました。
懸案となっている、解雇規定に関する2000年第150号労働大臣令に関しては、「政労使の三者会談で合意に達するまでは、当面同大臣令が有効である」との考えを示しました。また最低賃金の改定や、労働者保護法、産業紛争解決法、出稼ぎ労働者法の早期成立、懸案となっている解雇に関する労働大臣令に関しての三者協議の開催など諸課題に意欲的に取り組むとしています。

2.金属労組の組織動向
SPMI(インドネシア金属労組)は2001年8月、定期大会を開催し、向こう5年間(2001−2006年)の活動方針と役員を決定しました。活動方針の最重要案件は、@組織再編と組織拡大、A労連加盟費の徴収、であり、組合員の支払う組合費の40%はSPMI本部へ上納されることとなりました。組織の再編が行われ、これまでSPMIに加盟していた繊維工業の約3,000名が話し合いによりSPMIを去り、他の産別へ移りました。役員選挙では現行15名の役員の中からモシイ委員長をはじめ14名が再選され、事務局長に新人のサイード・イクバル氏が就任した。
2001年シドニーで開催されたIMF世界大会では、SPMIの加盟が承認されました。SBSIロメニックについては、労組幹部の間での内紛から生じる組織運営上の問題があり、今回の加盟承認は見送られました。

(5)フィリピン

DOLE(労働雇用省)の発表によると、1月から5月までに、258社(従業員約5万人)の労働組合が、ストの通告を経営者側に行いました。DOLEは、今のところこの結果を楽観的に捉え、これらの労働争議は、ほとんどがNCMB(中央斡旋調停委員会)を通じて解決されるものと予想しています。NCMBの資料によると、この258組合は、昨年同時期の340組合に比べ約24%減少しています。
DOLEの担当者によると、実際に実行されたストは20件で、その多くはマニラ首都圏です。ストに参加した労働者は3,462人で前年同期に比較し67%減少しました。実行されたストの内訳を見てみると、製造業が16、ホテル・外食産業が2、調剤業が1、電力業が1です。
フィリピンでは、ストの通告及びその後の交渉の手続きは、交渉がデットロックに乗り上げた場合、労働組合はストの通告を労働雇用省に対してその予定日の30日以上前に提出します。ただし、不当労働行為の場合、予告期間は15日に短縮され、さらに正式に選出された労働組合役員の解雇の場合で、それが労働組合の存在を脅かし、労働組合解体の要因と成り得る場合には、15日の予告期間は適用されず、労働組合は直ちに行動をとることができます。
ストの予告がなされると、NCMBは、直ちに双方を調停会議に招集します。NCMB招集の調停会議に完全かつ迅速に出席することは、労使双方の義務とされています。NCMBは、争議を平和的に解決するために全力を尽くすとともに労使双方が事案を自発的にNCMBが認定した任意労働仲裁人に提出することを奨励します。労使が賛成し、任意仲裁が行なわれることになった場合、任意労働仲裁人は、30日以内に聴聞を行い、決断を下します。ただし、労働雇用大臣が国家の利益に不可欠な産業の労使争議であるという見解を持った場合、労働雇用大臣は争議の所轄を引き受け、それを決着させることができます。

(6)タイ

 おもに日系企業の労働組合が加盟している電機、自動車および金属の産業別組織が、IMF地域事務所の支援のもとにTEAM(タイ電機・自動車・金属総連)を、1999年に結成しました。この労組に対しては海外の様々な支援組織(アメリカ、スウェーデンおよびドイツなど)からの支援、特に教育訓練や労使関係について行われており、サムトプラカーン県の工業団地の労働者を中心に3万人の組織人員を擁しています。シドニーIMF世界大会ではこのTEAMがタイの組織として加盟が承認され、従来タイの加盟組織であったIMF−TC(IMFタイ協議会)は、IMFからの文書による加盟費納入の通達に対する返答がないことから、除名となりました。

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5.太平洋諸国

(1)オーストラリア

1.労働事情
 オーストラリアは1970年代半ば以降慢性的失業の時代に入っています。失業率は1993年半ばに11%の高水準となり、95年5月には急激に8.4%に下降、その後ゆっくり上昇して、96年9月から97年6月までは8.7%で安定、その後再び低下して2000年2月には6.7%になりました。労働市場は雇用の不安定化で特徴づけられています。労働力人口は962万3,800人、就業者数は890万5,100人、失業率は6.7%(2000年2月現在)となっています。
 性別による労働市場の分割は高い比率のまま継続し、女性の賃金は男性の約83%のままですが、この格差は労働市場の「弾力化」が進むにつれて減少しつつあります。
 所得の不均等も拡大しつつあります。高所得者層、とくに上級管理職および若年の優れた技能を持ち移動性のある、いわゆる「ゴールドカラー」労働者、とくに情報技術分野の慢性的技能労働者不足で、高給がとれる者の賃金は増加しています。
 一方、低所得者層は、社会保険の低所得者層への支払いが増えているので所得は徐々に上がってきています(このことが低賃金の実態を分かりにくくしている)。中間層の収入は減少傾向にありますが、これは確実なフルタイムの仕事が減少していることと関連しています。
 企業のリストラは職場に大きな変化をもたらし、下請けと外注が増大しています。経費削減とは労働者が速い速度でより多くの仕事をするということ、つまり「労働強化」を意味することになりました。また、これらの労働者たちの労働時間が増えて、しばしば手当がつかない時間外労働を伴うことになりました。こうした結果をもたらしたのは労使関係が根本的に変わって、これらの労働者の交渉力が低下したことにも一因があります。

2.総選挙
 オーストラリアの総選挙が11月10日に行われました。ハワード首相が率いる与党の保守連合が勝利を収め、労働党の政権奪回はなりませんでした。ハワード政権は経済の不振で劣勢にありましたが、米国同時多発テロの後にアフガニスタン派兵や不法難民阻止などの強攻策を貫き、支持率を逆転させました。

3.ジョブ・ネットワークが直面する新たな問題
 オーストラリアは職業紹介事業をいち早く民間委託し、どの国も、現政権が実行したほどまでは職業紹介事業の改革を行っていないことから、諸外国から注目を集めています。しかし、1998年にジョブ・ネットワークが開始されて以来、多くの問題が生じており、中でも最近発生した問題はかなり深刻なものです。
 職業紹介事業の改革は、まず公共職業紹介所を廃止し、そのかわりにジョブ・ネットワークを作ることでした。同ネットワークは公的機関であるエンプロイメント・ナショナルと職業紹介を行うおよそ300の民間職業紹介機関から構成されています。 求職者はセンターリンクの評価を受け、3つのカテゴリーに分類されます。
大きな問題は制度自体にあります。職業紹介機関は、日常業務に関し政府からわずかな資金を提供されますが、求職者1人あたりにつき払われる政府からの報酬が大きな収入となっています。求人情報は職業紹介機関にとって報酬を得る手段であるため、その情報をネットワークに載せたがらず、適当な求職者が来るまで密かにこうした情報を蓄積していたため、労働市場が分断される一因となりました。
 2001年6月に開催された上院委員会の審問では、新たな問題が明らかにされました。それは、職業紹介機関が自ら人材派遣会社を設立し、求職者に対し職業紹介や仕事の斡旋を行うためにこの人材派遣会社を利用しているということです。この方法だと、職業紹介機関は、自らが提供した職業紹介について政府から報酬を得ることが可能となります。政府は職業紹介1件につき約400豪ドルを支払いますが、この報酬の支払い要件として求職者が15時間雇用されることが課されています。人材派遣会社が仕事を提供し、15時間働かせるためのコストはおよそ150豪ドルであり、職業紹介機関はこれらのコストを超えるかなりの報酬を得ていることになります。上院委員会の審問では、2,000人程度の求職者がこうした方法で職を提供されたということがわかっています。
 政府はこの問題に対処するために、主な首謀者であるクィーンズランド州にある職業紹介機関の捜索を行いました。これに対し職業紹介機関側は、政府がこの方法を承認していたと主張し、政府やマスコミに対しこの方法を承認するという旨の高級官僚の文書を提出しました。さらに雇用サービス大臣がこの方法に暗黙の承認を与えていたとも伝えられ、問題は深刻化しています。

以 上

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