来賓挨拶

マルチェロ・マレンタッキ書記長
IMF(国際金属労連)本部
マルチェロ・マレンタッキ書記長
 皆様、おはようございます。代議員の皆様、それから大会議長団の西野さんと山本さん、加藤議長、役員の皆様、そして海外から参加しました来賓各位を代表して、西野大会議長のもとに、第45回定期大会で皆様方にお話ができますことを大変光栄に思います。まずは我々海外来賓一同を大変温かくご歓迎いただき、いろいろおもてなしいただきましたことに対してもお礼を申し上げます。全世界100カ国、そして、200以上の組織を代表して皆様に心からごあいさつ申し上げます。
 皆様方と同じように、IMFを構成する組合の組織の人たちは金属産業に働く労働者の利益を代表しています。そして、これら金属労働者の利益は、世界規模のネオリベラル勢力のもとに脅威にさらされています。金属産業の労働組合として、私たちIMFは、我々の組合員の利益を守るという責任を持っております。

日本の雇用の現状と課題
 日本では、今、企業では、アウトソーシング(外部委託)や人材派遣会社の利用が大変多くなっていますが、これも労働者のニーズが否定されている1つの例と言えないでしょうか。
現在、日本の労働力の30%までがパートタイムまた臨時労働者によって構成されています。これらの非典型労働者、非正規従業員は、正規従業員とほとんど同じ仕事をしているにもかかわらず、正規従業員と比べて、賃金は安く、労働条件も低いのです。この非正規労働者を雇用するという趨勢、しかもそれが増加傾向にあるということは労働者の間の格差を生む、労働者の間にくさびを打ち込むということになる可能性を持っているわけであります。このように二層構造の労働力をつくることによって、使用者側は労働賃金を安く抑え、そして、非常に不公正で差別的なシステムを使うことによって、労働者間の分断を生み出そうとしています。

働く労働者の基本的なニーズ
 しかし、このような戦術を使うとき、使用者側はとても大事なことを1つ忘れているように思います。それは、大企業である多国籍企業で常用労働者として働こうとも、あるいは、人材派遣会社から派遣され臨時契約で雇用されていようとも、働く人々は同じ基本的なニーズを持っているという事実です。
そのニーズとは次のようなものであります。安定した雇用、妥当な労働時間、安全で健康な職場、そして、労働者がみずから創り出すのに貢献した富の公平な分配であります。同じようなニーズを持っているということを認識することによって我々労働者はお互いに連帯することができます。そして、統一した行動をとることによって、これらのニーズが満たされるようにお互いを支え合うことができるのです。
 連帯と統一行動があって初めて日本や世界各地で見られる非正規労働者の増加傾向に対応することができます。アメリカの自動車工場で働こうとも、インドの鉄工所で働こうとも、インドネシアの電子工場で働こうとも、常用労働者であろうとも、パートタイム労働者であろうとも、臨時雇用であろうとも、これらの金属労働者は同じニーズを抱えています。それは安定して、安全な雇用、そして、自分たちがつくり出した富の公正な配分であります。
 働く労働者たちが、自分たちの利益を守り、そして、権利を保障する最も効果的な方法は、独立した民主的な労働組合を結成することであるということは、歴史も、また、我々の経験も証明していることです。ILO(国際労働機関)が掲げる労働基本権の1つが団結権と組合結成権であります。働く人々が自分の利益を守るためにまず為すべきことは、独立した民主的な労働組合を創ることであり、それも連帯によって行わなければなりません。
 ここ、日本では、工場において、企業において、また、産業全体、国全体で労働者が連帯しています。そして、連帯によって組合が力を得て、労働者の権利を守り、労働者のニーズや利益を満たしている。その実例を毎日のように目にすることができます。日本の労組が非正規労働者の問題に見事に対応しておられることが、日本の実情をよく示していると思います。
 しかし、今のようにグローバル化された経済においては、労働者間の連帯は国を越えて、国境を越えて行わなければなりません。どの国に住んでいようとも、労働者は多くのことを共有しているからです。共通点がたくさんあるからです。  資本のグローバル化が進み、多国籍企業の勢力が拡大しています。それによって、我々の利益は似通ったものになってきています。私たちが連帯によって力を強化する必要性が高まっていると言えます。

中国の労働者の現状と課題
 例えば中国を例に挙げてみますと、正常部門で働く1億以上の労働者たちが独立した民主的な労働組合を結成する権利を否定されています。ご存じのように、中国は、世界貿易で非常に積極的な活動を行っていますが、中国は、結社の自由、団体交渉権に関するILOの条約を批准しておりません。また、中国は、強制労働廃止条約も批准していません。
 IMFとその加盟組織は、中国における労働諸権利、人権の侵害について規則的に報告することによって、中国の労働者たちに対して連帯を示しております。IMFとその加盟組織は中国の金属産業についてもっと学ぶために調査をするプロジェクトを既に始めております。また、IMFは、多国籍企業で働く中国人労働者と接触をとるべく、今努力をしているところです。
 IMF−JCは、これまでも中国における労働者や労働者の組織と積極的に関与されたことを存じています。私たちIMFとIMF−JCが協力することによって、いつの日か、中国において、労働者の権利が承認、保護される日が来ることを望みたいと思います。そして、今、貧困のうちにあえいでいる、そしてまた、我々と同じような自由を享受することができない、中国の何百万という労働者の生活が少しでも良くなる日が来ることを希望しています。

フィリピンの労働問題へのIMFの対応
 しかし、中国だけではありません。どこにおいても、IMFと加盟組織は労働組合の権利が侵害されたときには必ず関わることにしています。皆さん、もう既にご存じだと思いますが、IMFは、最近、加盟組織に対してフィリピンのトヨタの労働者への連帯を要請いたしました。2001年3月のこと、トヨタモーターフィリピン社は、平和な組合の集会に参加したという理由で、227人の組合の役員及び組合員を解雇し、64人を停職処分にしました。会社側が、組合との団体交渉を拒否したことに抗議して、これらの労働者は、フィリピンの労働雇用省の前でデモを行っていたのです。今日に至るまで、会社側は組合を承認することを拒否し、そして、解雇した労働者の復職を行っておりません。今、フィリピントヨタ自動車の状態は、非常に複雑で難しい問題となってきております。しかしながら、トヨタモーターフィリピン社は、労働者が自分の選んだ組合を結成するという労働者の基本的な権利を侵害したことは明白であります。その明白な事実というのは、ILOが3回にわたって示し、また、フィリピンの最高裁がその判決によっても示しております。  これは非常に深刻な労働者の権利の侵害でありまして、IMF(国際金属労連)として見過ごすことのできない、身を引くことのできない問題であります。このフィリピンの問題がどうなるか、その結果というのは、ILO、IMF及びその加盟組織であるIMF−JCをも含めて、その信頼性が試される試金石となるのではないでしょうか。
 IMFは、今なお自分たちの権利の承認を求めて要求している136人の解雇された労働者の復職を求めております。そして、私たちは本年9月12日を行動の日と定めまして、加盟組織に対して同じような要請をするように呼びかけております。
 IMF−JCは、IMFと緊密な協力体制をとってこの問題を解決すべく多くの努力をしてくれましたけれども、これまでのところ残念ながらまだ、問題解決に至っておりません。皆さん、なぜこのような事態になったのか、ぜひ一緒に考えていただきたいと思います。自分の基本的な権利を守るために働いているこれらの労働者を助けるための力や勇気が足りなかったのでしょうか。もしそうであったとしたら、どのようにしてこれに対して対処することができるでしょうか。どのようにこれを補うことができるでしょうか。
 例えば本件のように、日系多国籍企業の子会社でこのような争議が起こったときに、日本の産別労働組合、そして、IMF−JCの役割はどのようなものなのでしょうか。このような問題が起こったのは今回が初めてではありません。第45回IMF−JCの定期大会において、ぜひIMF−JC及びそれを構成する皆様方に、これらの問題について真剣に考えていただきたいとお願いをいたします。
 先ほども加藤議長が言われたとおりだと思います。多国籍企業の親会社、そして、外国の工場の労働者、サプライチェーンで働く労働者たちの関係に対して対応する最もよい方法の1つは、国際的な枠組み協約を使うことだと思います。

国際枠組み協約の締結への取り組み
 この国際枠組み協約(IFA)というのは、例えば組合結成権、団体交渉権のような中核的な労働基準を多国籍企業とその労働者との間の関係の基盤とするものであります。労働者といった場合には直接雇用されていても、また、サプライチェーンを通じて間接的に雇用されていても構いませんし、またそれは世界どこにおいてでも適用されるものであります。  金属部門においては、IMF(国際金属労連)は、これまで既に15の国際枠組み協約の調印に成功しておりまして、まだ準備中のものも数件あります。これまで締結された国際枠組み協約は、すべて欧州ベースの多国籍企業でありまして、日本、またはアメリカ系の多国籍企業とは1つも枠組み協約の調印に成功しておりません。

IMF−JCの取り組みに期待
 IMF−JCも、日本の労働者たちも、日本においては強い組合、そして、よい労使関係という大変誇らしい歴史を持っておられます。しかも、この歴史は長いものであります。ぜひ皆さんにお願いいたします。皆様方のこの国における力と外国の労働者たちの連帯を使って、日本の多国籍企業が日本におけるのと同じような基本権と労働者に対する尊重を提供するように働きかけをしてください。
  我々がお互いに連帯を強くすればするほど、しかもそのときに国際枠組み協約のような道具を使って連帯を強化すればするほど、私たちはいろいろな脅威に対して自分たちの身を守ることができます。その脅威の1つは、非正規労働者を雇用することによって私たちの生活の質に対するものが出てきております。そういう脅威に対しても、我々は枠組み条約を使って対応することができる、連帯を使って対応することができるのです。

アジアにおけるIMF−JCの役割は非常に大きい
 アジアにおいてIMF−JCの果たすべき役割は非常に大きいと思います。私たちIMFはどんな形式でも協力をいつでも行う用意がありますし、いろいろな形態の協力について話し合う用意があります。そして、政策の決定や、行動、連帯を行うために使うことができる機構をIMFは持っています。そういう機構においても、IMF−JCは果たすべき大きな役割を持っていると思います。
 もし労働運動のもとに結集する労働者たち、全世界の労働者たちが今世界の主流となっているようなネオリベラルな政治勢力に対抗するとすれば、私たちは働く人たちにより良い世界をつくるとはどういうことかということをきちんと考えて、それを獲得するために幅広い社会的な運動に参画していかなければならないと思うのです。  そして、それをするためには、私たちは統一した行動をとることが必要です。私たちは多くを共有していることを認識し、そして、お互いに連帯することによって統一行動をとっていきましょう。
 今いろいろなことを申し上げましたけど、これらのすべてについて、皆様方と緊密に協力していくということをお誓いしたいと思います。そして、皆様方、今回の大会の成功を祈念いたしまして、私のごあいさつとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました。(拍手)