金属労協第43回大会 鈴木議長挨拶

 金属労協・IMF―JC第43回定期大会にご出席の皆さん、大変ご苦労様です。IMF―JCは、時あたか(恰も)東京オリンピックが開催され、日本がOECDに加盟して先進国の仲間入りを果たした1964年に結成され、本年は40年周年を迎える記念すべき大会であります。大会終了後に40年を振り返り、JCが今後さらに発展することをお誓いする場として、ささやかではありますが記念レセプションを計画しておりますので、引き続きのご出席をお願い申しあげます。
この記念すべき大会に、連合から笹森会長、海外からはIMF本部のペータース新会長とマレンタッキ書記長、さらに世界各国からIMFに結集する労働組合の代表の方にご臨席を頂いております。来賓皆さんの日ごろのご指導とご鞭撻、友好と連帯に感謝し、皆さんの盛大な拍手をもって、心からの歓迎の意を表したいと思います。

参院選4名の当選をお祝いし、各組合の健闘に敬意
民主党の躍進と労働組合の責任


 大会の冒頭、私はまず7月に行われた参議院議員選挙において、金属労協に加盟する産別組織の公認候補者、比例選挙区の電機連合・加藤(かとう)としゆき敏幸さん、同じく自動車総連の直嶋(なおしま)まさゆき正行さん、同じくJAMの津田弥太郎(つだあたろう)さん、そして基幹労連の準組織内候補者・広島選挙区の柳田稔(やなぎだみのる)さん、四名の当選を心からお祝い申し上げたいと思います。四名の当選を果たした当該組合はもちろんのこと、全電線を含めすべての組合員と家族の皆さんに深甚なる敬意を表するものであります。

 今回の選挙では昨年秋の衆議院選挙に引き続き民主党が躍進し、日本にも二大政党制が定着する傾向が強まっておりますが、それだけに今後は、民主党自身が政権を担いうるに足るのか否か、国民の厳しい目にさらされるのは必定(ひつじょう)で、最大の支持団体である連合・労働組合の責任はより重くなっていることを自覚しなければなりません。昨年の衆議院選挙後の挨拶でもふれましたが、もし労働組合運動が社会から支持されていなければ、労働組合の主張に賛同すれば多くの国民に支持されないことを意味しますから、政党は私たちの政策・制度要求に耳を貸すことはしないでありましょう。連合労働運動が国民各層、すなわち、労働組合以外の地域団体や諸団体、NGOやNPOすべての人々に理解され、支持されさえすれば、民主党自らが労働組合の意向を尊重することは明らかであります。二大政党時代を迎えたからこそ、私たち自身の運動が広範な国民的支持を必要とするのであります。
 私たちは、選挙活動を通じて組合員の支持をいかに集めていくのかと同時に、社会全体からの共感を得る運動を作り上げていく必要に迫られているのであります。
 当選した四名の議員の今後のご活躍を期待すると同時に、労働組合運動自体の自己改革に努力しなければならないことを心し、その面で本日ご臨席いただいております連合の笹森会長の強力なリーダーシップを期待するものであります。
 本大会では通常の二年間にわたる運動方針とともに、昨年の大会で中間報告を確認した第2次賃金・労働政策をご審議いただくことになっております。具体的な提案は後ほど行いますので、私の方からは特に重要な二点についてふれておきたいと思います。

2号議案は時代の求めに応じる労働組合の政策
「職種別賃金」「JCミニマム」「均等待遇」の実現を目指す


 第一点は、第二次賃金・労働政策についてであります。副題にもあるように、この政策は新しい時代を迎えて、私たちの生活のあり方を考え、かつ人生の大半を過ごす会社生活の中で、自分らしさという価値観を確立し、労働を通じて自己実現を図っていくという、高邁な理念に基づいた政策なのであります。
 労働をすることによる経済的側面、すなわち対価としての賃金を得て生活に供するという側面と、今まででおろそかにしてきた、労働を通じて生き甲斐や働き甲斐を自覚し、自らの成長を図っていくという精神的側面をも重視した運動を確立することを目的にしているものであります。貧しい時代ゆえに絶対的な求心力を有していた経済的側面の運動に、一生の人生を通じて労働組合が果たすべき新たな役割を明確にする、かつてのイギリス病の代名詞までにもなった社会福祉分野での「ゆりかごから墓場」までのキャッチフレーズを使うとすれば、組合員とその家族全員の「ゆりかごから墓場」まで、社会生活を送っていく一生の中で起こりうるさまざまな問題、経済的な、精神的な、また法律的な、その他あらゆる問題に対して「労働組合があるゆえに助かる」システムを構築することが求められているのであります。

 その中で、会社生活における処遇や働き方へのあり方を明確にしたのがこの第2次賃金・労働政策であります。例えば、会社にとって余人をもって代え難い絶対に必要な職業能力と代替がきく職業能力とでは、その処遇に差が出てくるのは社会的にも避けられません。好むと好まざるとに関わらず、すでにそうした社会的評価に基づく処遇が広がりつつあります。
労働市場の分類でいえば、ヨーロッパの職業別労働市場、アメリカの外部型労働市場に対して、日本は内部型労働市場といわれてきました。私たち労働組合も極めて安定した雇用のもとで、企業内中心の経済的側面、すなわち労働条件向上のための運動を追求すればよかったわけです。しかし労働市場は大きく変化を遂げようとしています。完全失業率は高止まり、非典型労働者がすでに30%にも達している状況は、こうした変化を裏付けるものであります。
企業内といえどもこうしたことに対しては、社会とは隔絶して社内のみが無縁であることは出来ないのであります。そうした動向に対する労働組合の役割は、むしろ組合の立場にもとづいたシステムの導入を図り、産業内・あるいは社会的に共通する職業能力の横断的評価を確立しつつ、一方では客観的に手をこまねいていれば無限に拡大するミニマム水準の低下を支え、かつ引き上げに精力を注ぎ、その延長線上に非典型労働者の均等待遇を位置づけることが必要なのであります。それを具体化したのが、「大くくり職種別賃金」「JCミニマムの確立」「均等待遇に向けての具体的な検討の推進」なのであります。

 また、男女共同社会を目指すには、経済的に自立できなければ本当の意味での対等という民主主義の原点は崩壊するわけですから、一律的に専業主婦を当たり前とする「男女役割」論は破綻をきたしているといわざるを得ません。私たちが考え、やらなければならないことは山積しています。すべてを網羅している政策ではありませんが、日本の基幹産業の集まりとして金属労協が率先して取り組むべき課題を、丁寧に一つづつ問題点を明らかにしつつ、今後取り組んでいく新たな運動の端緒になるものと確信しております。本政策の立案にご努力いただいたすべての関係者に感謝を申し上げると同時に、皆さん方の真摯な討論を心からお願い申し上げておきたいと思います。

目に余るモラルハザード
自由市場ゆえに問われる企業倫理


つぎにふれておきたいことは企業倫理と労働組合の責任についてであります。
近年、企業のモラルハザードが社会問題になっているのは申し上げるまでもありません。経済システムとして自由主義経済は、自由であるが故に責任もあるということが疎かにされている気がしてなりません。個人のレベルでも同様で、責任の伴わない自由は単なる「わがまま」な存在、迷惑な存在でしかありません。一方では戦後の民主主義・自由主義社会の誕生に際し、責任が伴うことを疎かにしたことが、今日の社会の荒廃を招いた一因と指摘されているのはご承知のとおりです。
自由主義市場における企業も同様であります。経済市場におけるモラルは、人間社会の倫理とは必ずしも同じでないことは十分に承知しているつもりですが、しかし今日の諸問題は、消費者の安全や生命に直接関わるものであり、ゆえに、「一生懸命にやっているのに」あるいは「努力したのだから」ということは許されないのは当然のことであります。こと、経営モラルについては、アダムスミスの言う「神の見えざる手」は存在しないのであります。まさしく、企業経営者、管理者の自覚と自浄作用がすべてであります。

こうした企業のモラルハザードの問題が出たときに、一番悩ましいのは企業別労働組合の立場であります。従業員は一生懸命に働いているのであり、たとえ組合から問題点を指摘したとしても、経営問題での労使協議には限界が存在するわけでありますし、不祥事によって雇用に悪影響が及ぶことを恐れる心理が働くからであります。しかし、企業内では「やむをえない」と思われる事情や理由があったとしても、それが社会の常識や期待に反していれば「反社会的行動」となるのであります。今日の世界の潮流は「社会の主要な構成員」としての企業責任はますます重くなっているのであります。かつての封建時代を是としていたすべての意識が、文明や社会の進歩と発展によって否定され、より良い制度として民主主義を生み出し、日々進歩を遂げながら今日の近代社会を作り上げ、その進歩の象徴として「企業の社会的責任」があるのであります。ついこの間までなら見逃されていたことでも、現在では許されないということは、社会や民主主義が日夜進歩という変貌を遂げていることの証左でもあります。
労働組合がこうした変化を認識し、労使関係もまたそれらに即応して変化させていかなければならないのでありましょう。CSR・「企業の社会的責任」とは、「労働組合の社会的責任」と同義語であるといわれる理由がそこにあるのであります。これは何も今、問題になっている企業のみにとどまるものではなく、JCを構成するすべての労働組合に共通する問題なのであります。
労働条件さえ交渉していれば労働組合の役割が果たせる時代ではありません。企業の不祥事は、労働組合の不祥事でもあるという意識を持ち、労使関係のあり方や日常活動の質的な向上を図るために、新年度を迎えて自らを検証し是正していくことを通じて、労働組合の社会的責任を果たしていくことを、改めて皆さんと共に誓い合いたいと思います。

12月に「COC」で新たな提案を予定

また、この企業倫理とも関連して、ここではどうしても「COC」(海外事業の展開に際しての企業行動規範)、あるいは「IFA」(国際枠組み協定)にふれておかなければなりません。改めてこの4年間の皆さんの取り組み努力に敬意を表しつつも、しかし、残念ながらいまだ具体的成果を得るには至っていないことを憂慮しているものであります。  本年12月の協議委員会で、今後の取り組み方針を再確認する予定にしていますが、日本経団連も企業行動憲章ではふれてはいないものの、企業への具体的手引書では「中核的労働基準」に言及するところまできています。今日のグローバル経済下においては、企業がいかに国際競争力を持っていようが、日本のみの経営論理で生きていくことはできません。引き続き経営側への粘り強い説得をお願いしておきたいと思います。

退任役員の労に感謝し、新役員の活躍を祈念

最後になりましたが、本大会を持って役員改選が行われ、事務局次長・自動車総連の長村〔おさむら〕さん、同じく事務局次長・JAMの小柳〔おやなぎ〕さん、同じく事務局次長・基幹労連の矢野〔やの〕さんの、三名の方が退任いたします。三名の事務局次長の皆さんが、この難しい時代に、金属労協の発展のために全力を傾けていただきましたことに心から感謝申し上げ、これからの新しい分野でのご活躍をお祈り申し上げます。また私自身も退任いたしますが、未熟な議長を今日まで支えていただいた皆さんに、重ねての御礼を申し上げておきたいと思います。各産別の皆さん、そして役員選考委員会の皆さんのご協力とご努力によって、素晴らしい役員を選考していただきました。後ほど選出される新しい役員と構成産別役員の皆さん、そしてすべての組合員皆さんの力によって、IMF―JC・金属労協が、ますます発展することを祈りつつ、そして、大会議案に対する熱心な討論をお願いして冒頭のご挨拶とさせていただきます。