金属労協第43回大会 ユルゲン・ペータースIGメタル会長挨拶

組合の仲間の皆さん!

IMF-JC第43回定期大会へのお招きと、発言の機会をいただいたことに心から感謝したい。全日本金属産業労働組合協議会は40回目の誕生日を迎えられるとのこと、心からご祝福申し上げる。1964年5月のIMF-JCの設立当時、そしてその後の道のりを振り返ると、素晴らしい成果であると深い尊敬の念を込めて言わせていただきたい。IMF-JCは金属産業の労働組合をまとめ、各々の活動の調整役としての力を発揮してきた。設立当初の組合員数は45万人に過ぎなかったのだが、その後、10年の歳月をかけて基礎固めを行い、今日、200万人の組合員を擁している。70年代半ば以降、IMF-JCは日本におけるトレンドセッターである。例えば春闘において、また、日本の多国籍企業の企業別協議会の構築においても、東南アジアを中心にした労働組合の設立においても、主導的な役割を果たしている。どの産業分野であれ、日本の労働者と労働組合は、労働組織とその人間的なあり方を考える上で、世界に範を示している。IMF-JCとIGメタルは互いの交流を拡大し、定期的に緊密な意見交換を行っている。前回は2003年、ベルリンで会合を持ったところで、大変感謝している。この定期協議は、双方にとって豊かな実りをもたらしている。この他にも述べたいことはあるのだが、今夕、IMF-JC設立40周年記念レセプションで、マルチェロ・マレンタッキ氏が我々共通の出来事に触れると思うので、これ以上は差し控えたい。

鈴木議長から2つのテーマを取り上げるよう言われている。
1.一つはEUの東方拡大のもたらすチャンスとリスクについて。
2.もう一つは、ILOの中核的労働基準を遵守させるため、ドイツ大企業と国際枠組み協約を締結しようとするIGメタルの活動についてである。これに添って、話を進めたい。

今年5月1日、EUには新たに10カ国が加わった。合わせて7500万人の人々が、新しいEU市民となった。EUは面積の上で20%大きくなったが、総生産の増加は5%に過ぎない。僅か15年前、互いに核兵器を向け、憎しみをぶつけ合っていた東西ヨーロッパが、4億5000万人を擁する統一域内市場へと生まれ変わったのである。これは素晴らしい出来事であるが、物事の一面に過ぎない。他方では地域格差が非常に大きい。ドイツ、また他の国々でも、賃金ダンピングや失業に対する不安が、拡大の喜びに影を落としている。大量の移民流入、雇用の流出、非常に貧しい新規加盟国へ巨額のEU予算が流れるのでは、などの懸念が広がっている。その上、至る所で経営者が脅しを掛けようとしている。彼らは、我々が福祉と賃金水準の引き下げに応じなければ、生産と雇用を「東へ」移すと脅しているのである。しかし良く見れば、生産移転の脅しを掛けてきた多くの企業が、そもそも移転などできなかったのだということが明らかになる。とは言え、いくつかの企業が雇用を国外へ移転してしまったことも事実である。ここで、真の危険とこけおどしを区別することは難しい。IGメタルが数週間前に、2つの国際企業と交渉したことを知っている方も多いだろう。シーメンスとダイムラークライスラーの要求を見ると、現在、企業側は極めて攻撃的であり、従業員が闘い取ってきた成果を問題視しようとしていることが判る。この両社に関しては痛手を被ったのだが、それでも許容範囲の交渉結果を得ることができた。しかし我々は、今後も競争が激化すること、従って従業員への圧力が弱くなるよりは、むしろ強くなると覚悟しなければならない。

新規加盟国で注目されているのは、賃金コストが安いという点のみではない。市場を開拓するため、また大口顧客の近くへ進出しようとの意図で投資が計画され、冷徹に実行されるのである。経営者は、我々先進国労働者の賃金と労働条件の水準を引き下げることを要求している。しかし、この要求は全くもって無意味である。我々はむしろ、中・東欧諸国の生活水準を引き上げる努力をしなければならないのだ。これがIGメタルの最大の目標である。EU拡大を目前に控えて、IGメタルの積極的な働きかけで、欧州金属労連と東西ヨーロッパの各金属労働組合は、EU拡大へ向けた宣言を決議し、我々の共通の見解と戦略を明らかにした。宣言において我々は、5つの交渉分野を、緊急性のある特に重要な分野と判断した。
真っ先に挙げられているのが、金融・経済政策のヨーロッパレベルでの調整である。通貨価値の安定に止まらず、経済成長と完全雇用を最大の目標としなければならない。
第二に、福祉と税制の分野で最低基準を設けなければならない。これは税制や福祉においてダンピング競争の激化を防ぐためである。
第三の極めて重要な分野が労働協約制度の防衛であり、我々は協約に関する方針をさらに発展させてゆかねばならない。我々は互いの協調を強めて、ダンピング競争に歯止めを掛けなければならない。この意味で欧州の金属労働組合は、生産性と物価の上昇率を下回る賃金合意はしないことを明言する。
第四には、共同決定権と労働者の参加を拡大ヨーロッパにおいても維持し、発展させることを考えなければならない。多国籍企業に情報の開示を求め、協議、交渉を行うことは、我々の活動の中心的課題であり、行動分野である。
最後に、我々は力を合わせて脱工業化の趨勢に対する抵抗を強め、積極的な産業政策の実施を働きかけて行くつもりである。

こうした方針の下、我々は産業構造の調整過程が社会的側面に配慮して進むよう、全ヨーロッパで積極的な支援を行うことに全力を注いで行く。こうした過程はなりゆきに任せてうまく進むものではない。だからこそ、我々は労働組合を必要としているのだ。我々は労組間の協力を強めなければならない。そのためには、欧州従業員協議会での活動を強めなければならない。国境を固定化したり、壁を作ることによっては、賃金ダンピングや福祉切り下げへの人々の不安を解消することはできないのである。不安を取り去るには、福祉に配慮するヨーロッパの構築が不可欠である。

さて第二のテーマに移ろう。国際枠組み協約である。
グローバル化の進展する中で、豊かさは必ずしも全ての人に等しく享受されているわけではない。世界が今、火薬庫の上に置かれているような状態であること、これだけは理解しておかなければならない。もし、豊かな者達が自らの砦に閉じこもり、世界の貧困と隔絶して存在できると考えるなら、それは間違っている。遅かれ早かれ、貧困と行き詰まり状態のもたらす問題が、豊かな地域に跳ね返ってくる。労働組合の課題は、より人間的なより良い世界、人の顔を持ったグローバル化のために闘うことである。グローバル金融市場を新しいアーキテクチャーで再編し、より公平な世界貿易体制を築かなければならない。

労働組合はWTO条約にILOの中核的労働基準を盛り込ませようと努力しているが、これまでのところ、成果が挙っていない。従って、シドニーで行われた先のIMF世界大会で、我々が共に決定した国際枠組み協約が、正しい方向へ向けての重要な一歩となる。中核的労働基準を、拘束力ある形で導入することで、あらゆる地域の全ての労働者の福祉における権利を守り、労働者を保護することが期待される。中核的労働基準の要点は、
1.強制労働、児童労働、差別の廃止
2.団結権の実現
3.協約交渉権の承認、である。
IGメタルは今後数年の内に、ドイツの多国籍企業の大手25社とこのような協約を結ぶことを目標に掲げた。これまで13社と既に合意に達している。フォルクスワーゲン、ダイムラークライスラー、ラインメタル、ボッシュなどが代表的な例である。もちろん、このような協約で世界の悲惨な状態や困窮をなくせるわけではないことを、私は承知している。しかし、我々はこの協約で、より人間的な世界へ向けて具体的に前進することができる。中核的労働基準が、全ての多国籍企業において、当たり前の基準とならなければならない。中核的労働基準を実践することが、福祉に配慮する企業であることの証とならなければならない。大切なことは、企業グループ内のダンピング競争を阻止し、全ての従業員、それも世界中の従業員の正当な利害関心の間で、調整を図ることである。とは言え、ドイツでもこの交渉が簡単でないことは、判っていただきたい。経営者や経営者団体は一般に、たとえ好意的な姿勢を見せたとしても、一方的に、任意の行動規範を発表する傾向にあり、これでは遵守の状況をチェックできない。こうした一方的な約束を、我々は評価しない。経験上、我々はこうした約束があまり効果をもたないことを知っている。そこで、我々は職場活動家を励まし、十分に議論をする中で国際枠組み協約の利点を理解してもらうようにした。職場活動家に対して、企業グループの全拠点でILOの中核的労働基準を遵守するための交渉を、IGメタルと共に要求するよう要請した。監査役会と労務担当重役に対しては、このような協約のメリットを強く訴えた。多くの企業ではまだ、経営陣が交渉を拒否したり、長期に棚上げにしている。しかし、我々の組織率が高く、職場のIGメタル活動家が熱心なところでは、このような国際枠組み協約を結ぶことができているか、あるいは交渉中である。既に13社と妥当な協約内容に合意し、現在10社を越える企業グループと交渉している。できれば国際金属労連がこうした交渉に参加すべきであろう。だが、経営陣がこれを拒絶する企業が多いため、なかなか実現しない。そこで多国籍企業の本拠地の、国際金属労連加盟組合が代わりに行動を起こさなければならない。しかし、どのような場合でも、国際金属労連事務局に、常に最新の情報を流しておかなければならないし、協約の内容が、国際金属労連の最低要求事項を必ず満たすようにしなければならない。我々は協約をサプライチェーンに拡大することを要求しているが、これにも大きな抵抗がある。企業の多くは、この点で責任は負えない、あるいは負いたくないとしている。経営者は一次サプライヤーに働きかけることでは妥協してくるが、その効果については関心を持たない。また当然、国際枠組み協約の実施状況の監視が、より大きな問題であると考える。この点では現実を直視しなければならない。しかし、国際金属労連は、各国内や地域にネットワークを構築することで、とりわけ途上国や中進国における中核的労働基準への違反行為を明らかにし、企業やそのグループに圧力がかかるよう支援することができる。従って、我々の締結する枠組み協約の一つ一つが、他の組織に対して我々と共に歩むことを強く促す効果を持っている。日本の多国籍企業で突破口を開けば、他の多くの労働組合を大いに助けることになる。枠組み協約が多く結ばれれば結ばれるほど、これを真似ようとする動きが強まり、他の企業もこのような義務から逃れにくくなるし、締結への圧力にも抵抗しにくくなるのである。国際枠組み協約が多数結ばれれば、グローバル経済に政治的な枠がはめられ、福祉面への配慮に展望を開くための具体的な貢献となる。
最後に、皆さんのご清聴に感謝し、大会の議論に実り多いことを念じたい。