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世界銀行の出版物が労働者保護の撤廃を促進

オーストラリア、グルジア、マケドニア、ルーマニアが労働市場の規制撤廃政策で賞賛されているが、労働者の諸権利についてはどうなのか。


全世界:
世界銀行出版物の中で最も発行部数が多い『Doing Business』に、またしても「各国政府は労働市場の規制を廃止し、いかなる種類の労働者保護規則もほとんど存在せず、国際労働機関(ILO)にも加盟していない国々を見習うべきだ」という勧告が盛り込まれている。
オーストラリア、グルジア、マケドニア、ルーマニアなど8カ国が、過去1年間に労働市場の規制撤廃措置を採用したことで賞賛されている。世銀の民間部門開発担当部署が作成した『Doing Business』2007年版は、労働規制がほぼ全廃されていることを理由にマーシャル諸島共和国を「最優秀国」に選んでいる。ちなみに昨年の最優秀国はパラオ共和国だった。マーシャル諸島とパラオの共通点は、労働法がなく、ILOにも加盟していない太平洋の小さな島国であることだ。
世界銀行のオンライン『Doing Business』データベースの説明によると、労働市場の規制に関して両国に最も高い評価を与えたのは、典型的な特徴として、どちらの国も労働者に最高1日24時間・週7日間の労働を強制することを認め、休暇や解雇予告を義務づけていないからだという。マーシャル諸島とパラオはILO加盟179カ国に名を連ねておらず、ILO加盟国に要求される中核的労働基準(強制労働・児童労働・差別の撤廃、結社の自由と団体交渉権の尊重)の遵守を義務づけられていない一握りの国々の中に入っている。これは世界銀行がまったく信頼性に欠けることを示している。歴代総裁は、世界銀行の開発使命に沿うものとして、中核的労働基準への支持を表明してきた。そして、世銀の1部門である国際金融公社は、「中核的労働基準を適用しない企業には融資しない」と規定さえしている。世銀は、本当に労働者の基本的権利が開発に資すると信じているのであれば、ILOに加盟せず中核的基準を尊重しない国々を世界の労働基準「最優秀国」として、不当にも賞賛したりしてはならない。世銀は『Doing Business』を労働市場改革案の基礎として利用するのをやめるべきだ。
興味深いことに、2007年版には表面的な変更が1つ加えられている。労働規制に関するセクションの名称が、従来の「労働者の採用と解雇」から「労働者の雇用」に変わっているのである。確かに、これは方針変更を顕著に示している! 世界銀行・国際通貨基金の国別戦略文書による『Doing Business』ランキングを利用して、各国に各種の労働者保護の廃止を強制するやり方を、労働組合は強く非難している。例えば、先ごろ世銀が作成したコロンビア経済覚書は同国政府に対し、『Doing Business』指標を改善するために、たとえプラスの経済的影響を及ぼすかどうか不確実であっても、より柔軟に採用・解雇決定を下すよう要求した。さらに、これらの要求はコロンビアに対する世銀融資の条件にされている。
南アフリカ共和国に関して、国際通貨基金は最近の政策レポートで政府に対し、採用・解雇手続きの「合理化」によって『Doing Business』指標を改善するよう勧告した。こうした変革を実施するには、アパルトヘイト廃止後の歴代政権が数十年に及んだ人種差別の旧弊を正すために実施した、差別撤廃規則を廃止しなければならないだろう。 国際通貨基金・世界銀行が労働者保護措置を撤廃するために『Doing Business』を利用しているこのような事例は、国際自由労連(ICFTU)が作成した詳細な分析に記載されている。http://www.icftu.org/www/PDF/doingbusinessicftuanalysis0606.pdfを参照。

[2006年9月13日]