第51回協議委員会 西原議長挨拶

生活の安定・向上の基盤となる賃金なくして景気回復なし
〜今回の金融危機を契機に「ものづくり」重視への政策転換を〜
挨拶をする西原議長

金属労協・IMF−JC第51回協議委員会にご参集の皆さん。大変ご苦労様です。
また本日はご来賓として、大変お忙しい中、連合・高木会長にご臨席いただいております。後ほど、ご挨拶をいただきますが、あらためて全員の拍手で感謝と歓迎の意を表したいと思います。

さて本日の協議委員会は金属労協としての2009年闘争の方針を決定する極めて重要な場となります。具体的な闘争方針の内容については、後ほど若松事務局長より提案いたしますが、協議委員会冒頭にあたり、2009年闘争を取り巻く環境および闘争の持つ意義・進め方を中心に何点か所感を述べたいと思います。

2009年闘争をとりまく環境
はじめに2009年闘争におけるマクロ経済の取り組み環境は、いみじくもIMF(国際通貨基金)が10月の世界経済見通しで「世界経済は1930年代の大恐慌以来、最悪の金融危機に直面し、大幅な下降局面に入っている。」と指摘した様相の中にあります。
昨年、顕在化した米国における住宅バブルの崩壊、サブプライムローン問題に端を発した金融市場の信用収縮は、本年9月以降、米国の大手証券会社(投資銀行)の相次ぐ破綻を契機として、短期間のうちに欧米をはじめ世界の金融市場を危機的状況に陥れました。
先進国を中心に各国政府・中央銀行は、金融市場への資金の大量供給、利下げ、預金者保護、金融機関への公的資金注入等の金融市場安定化に向けた懸命な政策を展開していますが、金融危機は、既にグローバルレベルで実体経済に深刻な打撃を与えています。
日本経済もその埒外には無く、2002年2月以降、外需と設備投資に牽引される形で戦後最長の回復を続けてきた景気は、株価が乱高下しつつ大幅に下落する中で、すでに後退期局面にあります。
そして実体経済への影響が広範囲に拡大する中での外需の低迷と国内の消費減退に加え、各国通貨に対する円高が加速し、原材料価格が世界的な景気停滞を受け下落基調にあるとはいえ、依然、水準的には高止まりする状況下で、グローバル経済の影響を構造的に、より直接的に受ける金属労協の各産業・企業は、その影響の度合いは異なるものの、全体として、生産・収益・雇用等に深刻な影響を受けつつあり、先行きの不透明感を日々、深めつつある状況にあります。
一方で、勤労者の生活という面では、賃金が1997年から10年間のうち9年間で減少をきたし、労働分配率においても低下傾向に歯止めがかからないなど家計への適切な配分が遅れる中で、特に今年度においては、生活必需品を中心とする物価上昇が勤労者の生活に大きな打撃を与えており、加えて景気や企業の実態から、組合員は雇用と生活に関わる将来不安を高めている状況にあります。

今回の金融危機の持つ意味
今回の金融危機は、まさにマネーに対する人の欲望が暴走した、その極致の姿と映ります。信用リスクを金融工学に基づき複雑化した証券化商品が世界中に拡散し、実体経済をはるかに超える投機マネーが金融市場を席巻するという事態、すなわち金融資本主義・カジノ資本主義が、行き着くところまで行き着き、ついには必然的な破綻に至ったということではないかということです。
そしてこのことは、これまでの市場原理主義的な経済運営、金融資本主義のあり方に対する真摯な反省と、これまでの政策の基調を成してきた価値観の大きな転換を求めるものであると考えます。連合は先日、「歴史の転換点にあたって〜希望の国日本へ舵を切れ~」と題するメッセージ文書を発信しましたが、これはまさに今申し上げた方向で、価値観の転換、いわゆるパラダイムシフトを訴えるとともに、併せて連合の社会的責任と使命を明らかにするものと受け止めているところです。
また金属労協の立場で申し上げれば、今回の金融危機を契機として勤労者・生活者の安心・安定につながる雇用システムや社会保障の仕組みを再構築し、内需主導型の経済・財政運営の推進、特に実体経済の基盤を成す「ものづくり」重視への政策転換につなげることこそが、「日本」の歩むべき道であることを強調しておきたいと思います。

なお金属労協は2009年闘争の方針策定にあたって、総じて厳しさ募る産業・企業の実態を直視しつつも、今、求められる責任ある労働組合としての役割と責任を踏まえて方針案の論議・検討を進めてきました。

当面の金融危機対策・経営対策に関わる政策制度の取り組み
その観点から、まずは金融危機とそのことが金属産業の各産業・企業に及ぼす影響を踏まえれば、勤労者の雇用と生活を守るために、当面の金融危機対策・経済対策に関わる政策制度の取り組みは、2009年闘争との関係からも、極めて重要と考えます。
具体的には、金融市場の正常化・安定化に向けた規制と規律と透明性を基本とする金融政策への転換を求めるとともに、喫緊の課題への対応として、金融機関に対する地場・中小企業等への貸し渋り対策の強化、また雇用の安定・確保・創出および消費回復に資する予算編成と、為替の安定、および非正規労働者等の契約停止に伴う就労・住宅・生活支援策の拡充を強く求めていきたいと思います。
今申し上げた観点での政策課題は、基本的に連合の政策制度の取り組みに連動しており、金属労協としても連合の取り組みに積極的・主体的に参加していかなければなりません。
2009年闘争の持つ意義
(1)賃金改善の取り組み
次に、2009年闘争の持つ意義の観点から何点か申し上げたいと思います。
第一点は、賃金改善の取り組みです。
金属労協は、これまで日本経済を牽引する日本の基幹産業としての金属産業の位置づけにふさわしい賃金水準の追求を基本として、賃金実態把握と絶対水準重視を機軸とする「大くくり職種別賃金水準形成」の実現を目指す取り組みを進めてきました。
賃金構造基本統計調査によれば、2007年の金属産業の賃金は、いまだ全産業平均100に対して97・2と、依然、改善すべき水準格差が存在しており、2009年闘争においては、この引き続き追求すべき基本的考え方に立った上で、特に物価上昇による賃金の目減り分を補填し、実質生活の低下分を回復させる観点から、連合方針を踏まえ、「実質生活の維持を図るため物価に見合う要求を行う。」との方針を掲げました。

■要求設定において物価の影響を重視■
今回の物価上昇は、輸入原材料価格の高騰が価格転嫁されたコストプッシュ型インフレの性格を強く有しており、需要の裏づけからくる物価上昇ではなく、いわゆる「悪い物価上昇」ともいえるものですが、物価上昇が組合員の生活に与える影響は重大であり、特に、これまで景気回復を牽引してきた外需・設備投資が総崩れとなっている今、実質GDPの5割強を占める個人消費の落ち込みを最大限くいとめ、内需喚起により景気の下支えを図るとのマクロの観点からも、各産別の要求設定において、物価の影響を重視すべきと考えます。
下方硬直性が高く生活の安定・向上の基盤となる賃金の改善なくして景気回復はありえません。なお各産別の具体的な要求については、金属労協の方針を踏まえ、産別毎の過年度物価上昇率の整理を進めつつ、これまで同様、それぞれの産別毎の、自らの賃金水準・賃金実態の位置づけを踏まえた格差是正や賃金体系の整備などに関わる問題意識に基づき、主体的・自主的に検討し、設定していただきたいと思います。

■中堅・中小の取り組み強化
なお金属労協として中堅・中小の賃金の底上げと格差改善を図る取り組みについても、引き続き連合の中小共闘とも連動して取り組みを強化していかなければなりませんが、特に、大手企業の業績悪化が顕在化する中で、中小企業との取引関係においてCSR ・公正取引に逸脱するような事例が発生しないようなチェック・監視体制を、より強化していってもらいたいと思います。
いろいろ申し上げましたが、産業・企業の経営環境は総じて厳しさ募り、先行きの不確実性と不透明さが高まる中にあります。産業・企業毎の対処すべき直面する課題も様々です。賃上げ交渉が熾烈を極めるのは必至です。 しかし今後とも経営諸施策に懸命に対応し、生産性向上に努めつつ多様な課題に果敢にチャレンジしていく人の意欲・活力こそが、直面する困難を乗り越え健全な産業・企業発展を果たしていくための絶対的な条件であり、原動力となります。そのためにも、経営環境的に厳しさが深まる今こそ、経営として経営政策の推進にあたり最優先で考えるべきは、「人への投資」であり、このことは間違いなく将来への「生きた投資」につながるものと確信いたします。 2009闘争が組合員の生活実態と、今日、求められる労働組合の社会的役割を踏まえたマクロの視点を重視した取り組みであることを改めて申し上げておきたいと思います。

(2)ワークライフバランスの推進について
二点目はワークライフバランスについてです。総労働時間短縮、長時間労働の是正に向けた取り組みを各産別毎の実態と目標を踏まえ進めていただきたいと思います。なお2008年闘争で取り組んだ時間外割増率引き上げについては、継続協議となっている組合も多く、引き続き連合の共闘方針に基づき進めていくことといたします。
なお今国会において、労働基準法改正案が成立しました。最低基準を定める労働基準法において、割増率引き上げについて中小企業には当面の間、適用されないことととなり、ダブルスタンダードになるという重大な問題は残っていますが、これまでの取り組みが、法改正への大きな後押となったことは間違いありません。今後は、労働基準法に関わる中小企業への適用に関わる取り組みとともに、引き続き個別労使での取り組みを進めていく必要があります。

(3)企業内最賃協定の締結拡大
三点目は、JCミニマム運動としての特に企業内最低賃金協定の締結拡大と水準の引き上げについてです。
2008年7月に改正最低賃金法が施行され、最低賃金の機能強化が図られました。これを受けて今年度の地域別最低賃金は全国平均で16円引き上げられ703円になるとともに、金属労協関係の産業別最低賃金についても全国の各産別・企業連・単組の皆さんのご尽力により、6円から16円の幅での引き上げとなりました。関係の皆さんのご奮闘と成果に心から敬意を表します。
いずれにしても産業別最低賃金の8割以上は金属産業が占めており、本制度の機能を維持・強化していく上で、金属労協の取り組みは決定的な影響力を持ちます。したがって産業別最低賃金の引き上げを行うための最も有効な手段が、企業内最低賃金の締結や水準であり、かつその改善の余地も大きいことから、2009年闘争においても、これに積極的に取り組むととともに、全企業連・単組が高卒初任給に準拠した水準での締結を目指す計画的な取り組みを提起しました。特に地域別最低賃金について生活保護と乖離がある都道府県では、数年内に大幅に引き上げられると見込まれており、仮に産業別最低賃金が、これを下回れば、その効力を失うこととなります。経済状況が悪化し、非正規労働者の賃金の底上げ・底支えの重要性が増す中で、社会的責務として、非正規労働者を含めた金属産業で働く者全体の賃金の底上げに全力を尽くしたいと思います。

(4)非正規労働者の労働条件改善の取り組み
4点目として、非正規労働者の労働条件改善の取り組みについてです。これについては引き続き、労働条件の改善や公正処遇の前進、組織化等、総合的に取り組んでいかなければなりません。なお現状、自動車産業をはじめとして金属産業においても派遣労働者・期間従業員の皆さんとの契約更新をしない等、雇用に関わる問題が拡大しています。
労働組合として労使関係上において、法の趣旨を踏まえたコンプライアンスの視点からのチェックを進めるとともに、それぞれの状況に応じた、最大限の雇用確保と、できうる限りの企業側の対応を要請していかなければならないと思いますが、併せて冒頭にも申し上げた非正規労働者に対する社会的セーフティネットの観点からの政策推進が喫緊の課題と考え、金属労協としても、既に進められつつある連合の取り組みに積極的に対応すると共に、金属労協独自でも対応していきたいと考えます。

(5)2009年闘争のすすめ方
5点目は2009年闘争のすすめ方についてです。
当然、金属労協・IMF―JCとして、社会的影響力の大きさを自覚をしながら今回提起するJC共闘の枠組みで闘争を進めますが、併せて連合が今次闘争から立ち上げた共闘連絡会議の取り組みに全面的に賛同し、金属労協の全ての産別が「金属共闘連絡会議」に参加するとともに、取り組みにあたって、これまで積み上げたJC共闘のノウハウ等を積極的に提供するなど、金属共闘連絡会議を重視し、共闘連絡会議全体の拡充に向けても貢献していきたいと思います。
環境変化が常態化し毎年年の産業・企業毎の置かれた状況が大きく異なる中で、従来パターンでの相場形成が有効に機能する状況が困難なことは既に明らかです。
賃金の社会性を重視し、格差是正をはじめとする各産別の主体的な取り組みを促進する観点からも、共通項が多くまとまることのできるいくつかの産別の集まりによる共闘連絡会議を設置して、連合全体で取り組み体制全体の強化を図ることの意義は大きいと考えます。

以上、2009年闘争を中心に何点か申し上げましたが、最後に、本質的な政策課題が先送りされ、政局に明け暮れる今の政治の状況、特に与党内での議論の拡散とちぐはぐさを見れば、国民の信任を受けた責任ある政治体制の早期の確立こそが求められると強く思いますし、政策重視での切磋琢磨を通した活力と緊張を政治に取り戻すためにも政権交代可能な2大政党的体制の確立は不可欠です。
その上で、国民・勤労者のためのパラダイムチェンジを図り、大きく政策転換を進めていくためにも民主党の政権獲得が強く望まれます。
この秋以降、金属労協各産別は、金属労協組織内議員への支援体制の強化をはじめ全国で総選挙への準備を進めてまいりました。今日、解散・総選挙の日程は、さらに不透明となっていますが、心構えを持った上で、必要な活動は、状況を踏まえつつ進めていかなければならないと思います。皆さんにはご苦労をおかけしますが、この点についてもよろしくお願いします。
以上、限られた時間ではありますが、協議委員会への積極的な、参加を心よりお願い申し上げ、冒頭にあたっての議長挨拶といたします。ありがとうございました。