第45回協議委員会

鈴木議長挨拶

金属労協第45回協議委員会にご参集の皆さん、大変ご苦労様です。
特に本協議委員会に当たり、お忙しい中、連合から笹森会長にご臨席いただいております。金属労協を代表して厚く感謝申し上げたいと思います。
本協議委員会は、日本社会を覆うデフレ経済下のもとでの2003年闘争の方針を決定すると同時に、一方で、労働条件の決定要因として密接にかかわっている国際競争力問題と「ものづくり製造業」の国内での維持発展を図るべく、金属産業としての産業政策をも合わせて議論するきわめて重要な会議であります。
その冒頭に当たって、議案にかかわる基本的な考え方を申し上げたいと思います。


真に組合員のための「構造改革」を

まず、デフレに陥って混迷する日本経済と、構造改革について触れたいと思います。
子々孫々に膨大な財政赤字を残した政・官・業癒着構造によるハコもの公共投資中心主義、日本の政治・経済・社会を取り巻く各種の規制や保護政策、護送船団方式・談合体質の業界など、日本の根幹をなす経済構造は多くの病巣を抱え、バブル経済崩壊後も問題の先送りを繰り返すことによって、いまやハードランディングが避けられないところまで追い詰められています。
本来、構造改革は、グローバル化時代を迎えて、生産性が低いにもかかわらず、価格に転嫁することによって温存されてきた産業の資本、資源、人を、生産性の高い分野や、これから成長が期待できる分野・新規産業にシフトすることを目的として進められるものであります。
私たち労働組合は、戦後の貧しい時代から組合員の生活向上を掲げて運動を進めてきました。それは「貧しさから抜け出す」一点で「春の闘争」を構築し、各産業における生産性の相違を承知しつつも、全体の賃金水準の向上を第一義に取り組んできたものであります。しかし、ある程度の生活水準の向上が図られた今日、「悪しき平等は不平等」の意識と共に、熾烈な国際競争の中で、日夜生産性の向上に努力しているにもかかわらず、世界で一番の高コスト国ゆえに、その存続さえも懸念される「ものづくり産業」、すなわちドルを蓄積する基幹産業の危機は、日本経済そのものの危機に直結しており、「構造改革」は待ったなしの状況を迎えているのであります。
JCの産業政策において構造改革の必要性を力説するのも、日本経済を今後も持続させるという目的以外なにものでもありません。
このように構造改革は、「失われた10年」が証明するように、その痛みから改革を先送りすればする程、さらに病状を悪化させ、回復そのものを不可能にするのであります。あのバブル崩壊直後に決断していたら、その痛みは今よりはるかに軽くてすんだでありましょう。その反省もなく、また再び「失った10年」を繰り返してはなりません。しかし、構造改革の痛み、それは日本経済の再生によって可能になる「長期的な雇用安定」を図るために甘受すべきものといっても、今日の雇用労働者の生活を左右する重大事であります。今まで、税金や国債による公共事業によって温存されてきた産業、規制や保護によって守られてきた産業、談合を当然視してきた産業からは、多くの失業者の発生が予測されています。加えて、市場の縮小、国際競争の激化などから、生産性の高い分野からも失業者の発生が予測されるなど、失業問題はより深刻になっていくでありましょう。
それゆえに金属労協は、今日のデフレがさらに深刻化すれば、健全な企業をも存立が危ぶまれる状況になることを危惧し、産業の再生と活性化を図る政策の実施とともに、「雇用保険制度の抜本的拡充」、「コミュニティ・スキルアップ・カレッジ」構想に代表される職業訓練制度などの整備、「美しい日本再生事業団」構想などの、総合的なセーフティネットの確立を掲げているのであります。
後ほど、本趣旨にもとづく決議文の採択をお願いしていますが、事は緊急を要することから本決議案が採択されましたら、直ち(一両日中)に内閣官房長官に申し入れることにしています。


失業対策としての雇用保険の保険料の引き上げにも応じる
こうした時代にはさまざまな立場からさまざまな意見が出ます。デフレ脱却・景気回復のスローガンは私たちと同じであっても、これだけの累積赤字を抱えていながら、あいも変わらず、税金を使って従来型の「ハコもの公共投資」を通じて利権を擁護しようとする一部の主張もありますし、「労働者の連帯」の美名を掲げて、規制や保護の撤廃に竿をさす主張も散見されます。
失業対策としての雇用保険についても同様です。雇用保険財政が危機に瀕している中、政府の収支改善対策も失業者の生活をなおざりにして、給付の切り下げをもって対応しようとしています。私たちは、自分たちと同様に働いている仲間の失業対策としての雇用保険について、連帯を通じて支えあうために敢えて保険料の引き上げにも応じる決意を持っています。
そして、その上で考えなければならないことは、公務員皆さんの雇用保険の扱いです。行政組織と公務員の皆さんを支えているのは、主として民間企業に働いている多くの国民であります。それらの人々が、企業の生き残りをかけた「事業再構築・リストラ」によって職を失い、その生活を支援する「雇用保険」財政が悪化しているときに、なおかつ、保険料率の値上げさえもが検討されている今、「雇用保障」されている公務員の皆さんから、自らも「雇用保険」に加入して、財政悪化を救うべきだとの声が出ないことに、不思議な気がして仕方ありません。
このように、われわれが公務員の雇用保険加入要求を言い出さない限り、「自分たちに雇用不安はない」のだから「払わなくて当然」という姿勢は厳しく問われなければなりません。なぜなら、公務員の皆さんの「雇用を保障」しているのは、国民が出している税金によっているからであります。
もちろん、保険という以上は保険加入者だけで成り立てばよいという性格を持っていますから、対象者だけの負担という理屈もあります。しかし、本来は働く意思を持ち、健康でありさえすれば、誰もが働けるという社会が望ましいのでありますから、それがかなわぬということであれば、失業問題は保険制度ではなく、国の社会保障として扱う性格でなければなりません。
しかし、国の財政悪化のもとでは原則論を主張している余裕はありません。今、こうしているうちにも、日本のどこかで何人かの人々が失業の危機にさらされているからであります。したがって、次善の策として今日の保険制度の中で、いかに雇用保険の財政再建を図るのかを考えねばなりません。そのためには、公務員を含めたすべての雇用労働者が、「雇用保険の加入義務」を負うのが筋であります。現下の雇用状況を憂えれば、たとえ利害対立の主張があったとしても、どちらが正しい社会的主張なのか、国民の前で堂々と議論する時期に来ていることを明確に述べておきたいと思います。
また、こうしたそれぞれの利害が対立する傾向は、構造改革そのものをめぐっても見られます。高コスト構造、内外価格差が国民生活に与えている不利益を直視すれば、高コスト構造の改革は避けて通れません。その改革を進めれば、民間の産業間においても利害対立が生まれる可能性は大であります。
昨日開いた金属産業労使会議においても、日本の輸出産業としてのわれわれが、日本の高コスト構造を改革する先頭に立つためには、労使という立場の相違をこえて、金属産業の労使、挙げて高コスト構造の改革に向けて何をなすべきかを論じてきました。
生産性が低い分、価格に転嫁して消費者負担で存立を図っている産業・企業、規制や保護政策によって価格転嫁を繰り返してきた産業・企業は、今日までぬるま湯に浸っていた分、改革の痛みをより多く、より強く受けることになるでありましょう。
こうした意見については、それぞれの当該産別組織からは異論が出されるのは承知した上で、この問題を解決しない限り日本経済の真の再建は図られないことを、改めて強調しておきたいと思います。


産業間の多様性から「共闘」として整合性をとる難しさの克服を
さて、こうしたいくつかの根本的な構造問題を抱える中で、2003年闘争を迎えます。
金属労協傘下の各産業は、国際競争という共通の課題を抱えつつも、現状と今後の産業展望になると、かなり、環境条件に相違が見られます。先ほども申し上げましたが、「経済成長」という背景と成長の分配を通じて生活改善を図るという国民的合意があり、かつほとんどの企業が業績を伸ばしていたことによって、全体の賃金水準の引き上げが可能であった時代には、「共闘」も比較的容易に構築することが出来ました。
しかし、おかれた産業環境が大きく様変わりし、一口に国際競争といっても、その中身にも相違が見られる現実の中で、JC共闘という統一性と産業間の多様性をどのように「共闘」として整合性をとっていくのか、その点にJCの英知を結集しなければなりません。
マクロの労働市場では、失業率は昨年の12月に引き続き、再び史上最悪の5.5%を記録し、その一方で、非典型労働者は4人に1人から3人に1人に増大しつつあります。また、ミクロの企業においては、事業構造の改革を進める上での資本提携、分社化、技術提携、そして社内の処遇制度の改革など、その変化は急ピッチで進められています。
去る9月の大会でも申し上げましたように、経済成長、物価動向、労働市場の動向、企業間業績の一層の格差拡大、グローバル経済における各産業状況の違いなどを総合的に考慮すれば、JC共闘として、統一的にベア要求をする根拠は今日に至ってなお、その根拠を見出し得ません。したがって、来年春のJC共闘としては、ベア要求に取り組みませんが、一方では、金属産業の賃金水準、産業間・企業間の賃金格差の実態などから、それぞれの業績動向の中で、ベア要求に取り組む組合もあることを相互に理解していくことにしたいと思います。


金属産業のミニマム運動の構築を
そうしたマクロ・ミクロの状況の中で、金属労協として社会的責任を果たすために取り組むのは、03年闘争最大の課題、金属産業のミニマム運動の構築であります。
JCミニマム運動は、ひとつに「JCミニマム(35歳)」の確立、一つに、企業内最低賃金協定の締結、一つに、法定産業別最低賃金の取り組み強化、以上三つの柱から成り立っています。
このうち、「JCミニマム(35歳)」については、きわめて重要な方針でありますので、少し補足しておきたいと思います。
まず、このミニマムは、金属労協傘下の組合員の「最低基準」として、将来的には「これ以下をなくしていく」ことを、JC共闘として展開していくということであります。しかし、現状の各産別の賃金実態を考慮すると、本当に「これ以下は認めない」という方針を実現するためには、実態把握をするための賃金調査の精度を上げなければなりませんし、あるいは共闘としての闘争態勢を含めて多くの課題があるといわざるを得ません。そこで2003年闘争においては、各産別組織が、それぞれの賃金実態などに基づいて具体的な取り組みを行うことによって、JC共闘全体の取り組みと位置づけることに致します。
こうした取り組みは、JC共闘として2003年闘争が初めてでありますから、その結果については十分な検証を行う必要があります。そうした検証を通じて問題点を洗い出し、将来的に「これ以下をなくしていく」ために、JC共闘としての位置づけと合わせて、金額水準などについても再度検討を行っていきます。
水準である21万円という金額については、代表的機関の最低生計費と、JCの賃金実態とを総合的に勘案して設定してありますが、大きな情勢変化がない限り、金額水準を毎年見直すことはしないこととします。
日本の経済構造の特徴である、メーカーと納入業者という多重構造と労働条件の関係、あるいは企業環境の変化や人事処遇制度の変更、一部職種において労働市場で形成されつつある市場価格の動向など、賃金を取り巻く環境が大きく変化している中で、将来的とはいえ、先進国日本の中で「これ以下では働かない」という金属産業労働者のミニマムを設定していくことは、今日までの日本の賃金闘争を塗り替える画期的な方針であると同時に、それだけに極めて困難が予想される取り組みなのであります。
また、雇用労働者の中で、パート、派遣、請負、契約社員など、非典型労働者が、これだけ増加している中で、労働組合に組織されていない人々の処遇についても、組織労働者が立ち上げる意義は大きいものがあり、労働組合の社会的役割の最たるものといえるのであります。
どうか各組合のリーダーの皆さん、金属労協の「2003年闘争の推進案」は、交渉を取り巻く環境が日を追って厳しくなっていく中で、より難しい課題に挑戦する方針となっているのであります。今日まで培ってきた、日本の基幹産業としてのJC運動の歴史に恥じない決意をもって、果敢に取り組みを推進して頂くよう強くお願い申し上げると同時に、JC共闘強化のために積極的な議論をお願い申し上げて、ご挨拶とさせていただきます。ご清聴有難うございました。


以上

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