広報ニュース

第156号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2023年2月15日)

スペシャル・レポート――サプライチェーンにおける労働者の権利保護

2022-12-19

2022年12月19日:人権デュー・ディリジェンスをめぐる討議が国家・国際両レベルで勢いづいている。なぜ今なのか?
                                                      

スペシャル・レポート
『グローバル・ワーカー』第2号(2022年11月)より

 

国:全世界
テーマ:サプライチェーンにおける労働者の権利
文:ペトラ・ブランマーク

 

 

 

 

 

 

最新のITUC世界労働権利指数に示されているように、労働権の侵害を含む人権侵害が増加している。さらに、パンデミックと現下の生活費危機により、グローバル・サプライチェーンにおける課題の多くがより鮮明になっている。強力な規制によって人権侵害と環境への被害に効果的に対処し、これを防止する必要がある。権利侵害の激増を受けて、義務的デュー・ディリジェンスが労働組合の最優先課題になっている。任意の行動規範などの一方的なアプローチは、何よりもまず広報の手段となっており、信頼をすべて失った。

ケマル・ウズカン・インダストリオール書記次長によると、労働者・労働組合の権利を自主的かつ適切に守る意欲を本当に示している企業は非常に少ない。

労働組合は、拘束力のあるデュー・ディリジェンス法とサプライチェーンの透明性を求めるキャンペーンの主な原動力の1つである。労働組合は、サプライチェーン全体で権利侵害の被害者となっている労働者の代表として、討議の最前線に立ち、デュー・ディリジェンス方針の立案と実施に労働者を関与させるために全力を挙げなければならない。労働者と労働組合は現場の実情を知っており、人権リスクを確認・理解して対処するうえで援助する最適の立場にいる。このプロセスへの労働組合の参加は、デュー・ディリジェンス法その他の文書が労働者の期待に応えるようにするために重要である。

「実際に、結社の自由と団体交渉、安全衛生を保護するために労働者・労働組合が全面的に関与しなければ、デュー・ディリジェンス・アプローチは信頼に足ると主張することができない。デュー・ディリジェンスは、労働協約やグローバル枠組み協定、協約、その他の交渉による文書を通じた関与の手段としての労使関係制度の一部であり、組合が主な目標、すなわち労働者の権利・利益の擁護と促進を達成するための重要な手段だ」とケマル・ウズカンは言う。

サプライチェーンにおける人権侵害を防止するために2021年に採択された、企業デュー・ディリジェンス義務に関する最近のドイツの法律(Lieferkettensorgfaltspflichtengesetz)では、組合が明白な役割を果たした。組合と労働者代表は、何とかドイツの従業員代表委員会が将来の人権リスク管理にもっと関与できるようにし、そのためにドイツ従業員代表委員会法が修正された。

フランスは2017年に世界で初めて「注意義務」またはデュー・ディリジェンスに関する法律を採択した。この画期的な法律は初めて、人権や環境権が侵害された場合における多国籍企業の親会社とその子会社・下請会社との刑事上の関係を規定。要するに、大企業が買い手としての地位の陰に隠れるのを防止しようとしている。関連会社の労働組合と協力して、報告や既存のリスクを収集する警報機構を開発し、この法律に盛り込むべきである。

「デュー・ディリジェンスは、労働組合が企業とサプライチェーン全体で労働者の権利、特に団結権が支持されるようにするための手段だ」とケマル・ウズカンは言う。

グローバル枠組み協定(GFA)は組織化と組合構築のための手段であり、国連ビジネスと人権に関する指導原則に定めるデュー・ディリジェンスの概念を取り入れている。多国籍企業はGFAへの署名によって、労働者の基本的権利、特に団結権・団体交渉権を保護・尊重するとともに、生産設備とサプライチェーンで自社の事業が人権に与える影響に関するデュー・ディリジェンスを行使する責任を負う。GFAは主に、特にサプライチェーンで問題を解決するために用いられる。例えば組織化をめぐって紛争が発生した場合、GFAは救済策の提供に役立つ。

グローバル枠組み協定を利用して組織化

トルコとバングラデシュのインダストリオール加盟組織は、グローバル枠組み協定を効果的に実施するためのプログラムの一環として、2年間で50を超えるサプライヤー工場の組織化に成功した。

1つの企業でさまざまな国の組合を結びつける労働組合ネットワークも、組織化活動の支援に役立つ重要な行動・調整の手段である。これらのネットワークの強化は、企業に進出先のすべての国々で労働者の権利を尊重させ、サプライチェーンで人権デュー・ディリジェンスを実施させるために重要である。

バッテリーサプライチェーンは、生産工程のグローバル化や、現行法その他の文書(OECDデュー・ディリジェンス指針など)をビジネスにおける人権の促進に利用できる方法を示すための例として用いることができる。

バッテリーサプライチェーンは、リチウムのような原料の採掘に始まり、化学産業での精製を経由してエンドユーザーに至る。電気自動車への需要増加を原動力に、最も急成長しているサプライチェーンである。さらに、すべての地域がバッテリーサプライチェーンのさまざまな部分を構成しており、ラテンアメリカでリチウム生産、アフリカで採掘の大部分、アジアで新規バッテリー投資、欧米で電気自動車への投資が行われている。並行して、特に組合組織率が低く、環境に壊滅的な影響が及んでいるサプライチェーンの下流で、労働者の権利侵害が増えている。

インダストリオールは、総合的サプライチェーン・アプローチの開発と、バッテリーサプライチェーンに関係のある全労働者のディーセント・ワーク達成を目指すプロジェクトを開始した。

「バッテリー生産がグリーンエネルギーを支援するだけでなく、人権を保護して健康と環境的持続可能性も促進するようにしなければならない」とケマル・ウズカンは言う。

「つまり、バッテリーサプライチェーンで私たちの影響力を高める必要があるということだ。そのアプローチの一環としてインダストリオールは、労働者を組織化するための効果的なデュー・ディリジェンス・ツールの開発、多国籍企業とのプラットフォームの創出、世界最大の中国系バッテリーメーカーとのコミュニケーション開発、組合活動へのジェンダー統合の確保、持続可能な産業政策と公正な移行の重視によって、組合の能力を強化している」

ILO理事会は2013年、国境を越えたグローバル・サプライチェーンの急拡大に関する懸念を受けて、グローバル・サプライチェーンをILO総会の議題に載せることを決定した。2016年、ILO総会はグローバル・サプライチェーンにおけるディーセント・ワークに関する決議を採択した。この決議は、実施のためのロードマップに基づいて行動プログラムを策定する基礎となった。サプライチェーンにおけるディーセント・ワークに関する包括的戦略の核心要素に取り組むために、何度か技術会合が開かれた。例えば、輸出加工区におけるディーセント・ワーク、国境を越えた社会的対話、サプライチェーンにおけるディーセント・ワークの不足などである。

「しかし、これまでのところ、進展はあるにしても非常に遅い。ほとんどの国の政府がこの分野における規範的な行動を強く支持しているが、使用者が激しく抵抗している。ILOはグローバル・サプライチェーンに関する討議全体で、グローバル・ガバナンス・システムにおいて中心的役割を果たすべきであるにもかかわらず、妥当性を失う大きなリスクがある」とケマル・ウズカンは言う。

「インダストリオールは努力を強化し、グローバルな労働運動にとって重要になるであろうILOサプライチェーン条約の採択を求めて圧力をかけ続ける」

                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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