機関誌「IMF-JC」2005冬号

特集
―第2次賃金・労働政策の取り組み−

賃金・労働条件の社会化をめぐって
基調講演:2005年闘争シンポジウム
社会経済生産性本部
北浦 正行


 これまで賃金は、春闘を通じて上げ幅による相場が形成され、社会的な広がりを持ってきました。それがうまく機能しなくなってきているなかで、これまで少し意識が薄れてきた「水準」というものに着目して、「賃金の社会性」について検討したいと思います。
 賃金の社会化の問題は、昭和三十年代の春闘の揺籃期から議論されてきました。まずは、「古典に学べ」ということで、当時の賃金問題の権威の議論を整理してみます。

賃金決定機構の重要性

 金子美雄氏は、1972年の「賃金 その過去・現在・未来」のなかで、賃金決定機構を重要なポイントとして指摘されました。どのように決めるか、ということが、賃金の社会化につながるという考え方です。
 基本は労使交渉である。賃金は労使交渉で決まるのが原則であることを念頭に現実をみると三つに分かれる。第一に団体交渉があるところ、次に団体交渉が未熟なところ、そして団体交渉がないところ。
 大企業を中心とした団体交渉をあるところでは団交で自決すればよい。未熟なところには、補完的な手立てとして、春闘という形で社会的基準を波及させるメカニズムを作り、解決しない場合には調停をおく。最後に水準の規制として最低賃金を置く。そういう整理を行っています。
 賃金決定メカニズムは、春闘成立後においては、大企業労組の賃金が決定され、それが中小企業に相場として波及していく形を取ってきました。さらに、民間の賃金が、国、地方自治体、周辺の官公部門の賃金に波及していきます。最後に、全体の賃金が見えたところで、最低賃金を決定していきます。こうして、春闘の機能と同時に、春闘だけでなく、賃金決定メカニズム全体として生きてきたのが今日までの姿です。
 今日、春闘が変質してしまったということは、この決定メカニズム全体が変化したということであり、全体を立て直すということを考えなければなりません。

日本の賃金決定機構の問題点

 ただ、当時の議論でも、問題点が指摘されていました。一つは、企業別の賃金決定であることによって、労働者自身も企業の中での賃金ということに関心が強まり、社会性を失っていくのではないかということ。また、中小企業において労使交渉が可能なのかどうか、結果として大企業と中小企業の格差が開いてしまうのではないか、という懸念です。現実は、それに近いような姿になっていると思います。
 しかしながら、イギリスやアメリカでは、同様の問題を持ちながらも、それなりに機能を果たしてきました。日本との違いは何かといえば、賃金体系というところにも踏み込んで労使の議論がある点です。日本はどちらかというと、賃金の上げ幅によって全体の底上げを図るというところに焦点があり、賃金体系というものを考えてきませんでした。これに対して、イギリスでは、職種別賃金に基づき、その中で横断・平準化を図っていく横断賃率という考え方があります。アメリカでは、徹底した事業所ごとの問題であり、個別の職務評価と職務給という考え方です。
 職種、あるいは職務という個別賃金が当時から意識されていましたが、これが今日、問題として浮き上がってきていると思います。<ページのトップへ>

労働組合の仕事への関与

05年闘争シンポジウムでの講演風景
 小池和男氏は、1973年に「労働組合は仕事をどの程度規制するか」のなかで、「労働組合はどの程度仕事を規制するのか」という問題を提起しています。すなわち、賃金は労働なり労働能力の対価である。能力は、どのような仕事を成しうるのかで決定される。だから、労働者は仕事というものについて関心を持たなければならない。仕事を決定できるところがあって、初めて労働者にとって望ましい賃金ができる。という主張です。賃金は労働の供給価格によって決められるべきであるという発想です。
当時、春闘ができあがるなかで、産業別決定が強まると、産業間、つまり社会全体の基準を作るということが弱まるのではないか、という問題提起がされていました。それに対して、労働力の供給価格をどう駆使して、社会的な基準として影響を与えるかを考えるべき、という主張がされました。
供給価格とは何かというと、一つは、生活を保障できるかであり、もう一つは納得して働ける仕事の価格ということです。供給価格の決定基準があれば、どの産業でも通用性は持ち得ると考えました。

個別賃金決定方式

個別賃金方式を強めることができるかという問題については、二つの銘柄の考え方を提起しています。一つは最低を押さえるやり方、つまり最低賃金です。最低賃金は、内部昇進型の世界で入口を押さえるという意味で、極めて有効性がありました。もう一つは、上がり方を押さえるやり方、これがポイント賃金という考え方であり、標準労働者方式など、その後の流れを作ることになりました。
しかし、当時は、賃金は社会的基準があって決まるのではなく、産業ごとの事情や、内部昇進などの中の論理で決まるものであるから、ポイント賃金はある程度を押さえるという機能しかないという考え方でした。その問題は今も尾を引いており、乗り越えなければならない時期に来ていると思います。
もう一つは、未組織労働者と組織労働者との関係です。未組織労働者は何を基準に考えていくのかという論理が不十分です。未組織労働者に影響を与えるものをどう考えていくのかが問題となります。

労働力のタイプ

この問題について考えるときにヒントになるのは、労働力のタイプということです。労働力のタイプによって、賃金決定の仕方は異なるという問題です。
小池和男氏は、労働力のタイプを、熟練度が高いか低いか、それが時間がたって変るかどうかをメルクマールに、「クラフトマン」「不熟練労働者」「内部昇進型(ホワイトカラー)」「半熟練工(中小企業技能労働者)」の四つに区分しています。


このように、今日でも労働力のタイプを押さえて考えることで、それに応じた賃金の上げ方、供給価格のあり方を考えることが、新しい賃金の考え方につながっていくと思います。<ページのトップへ>

職能資格制度の提唱

 楠田丘氏は、1973年の「賃金体系変容の方向」で、賃金の社会平準化は、労働力の社会価値を重視した賃金を作ることであると指摘しています。企業内事情という仕事や貢献度だけに縛られるのではなく、労働者の社会性を見るべきである。社会的に技能度がどのレベルにあるか、すなわち保有能力を強調しました。その後も、能力主義をベースにした賃金を展開され、職能資格制度の導入も指導されています。
 成績、仕事内容による差別化は不可避でありますが、そのベースである職種、能力、熟練度をメルクマールにすることで、平準化する機能をもたらそうとしました。職能資格制度の運用のなかで解決の道を得ようということです。
 ただし、職能資格制度は、企業単位の基準にとどまり、各企業の基準でしかありません。産業別の職務評価や職能基準がないことが問題となります。

企業単位の賃金決定と企業の支払い能力

企業単位に賃金決定が行われることによって、企業の支払い能力という問題が起こります。当時の議論では、企業単位の賃金の違いについては、フリンジ・ベネフィットで調整するという考え方でした。しかし、現実には、最初は付加給付的であっても、いずれは賃金のなかに統合されるという形となっています。最終的には企業別交渉の余地は残りうるという整理の仕方になりました。
言い換えれば、企業別交渉を前提としつつ、社会的な基準を外において、それを見つつベースを決め、企業別にそれに乗せていくやり方です。こうした考え方は、春闘時期における賃金決定スタイルそのものに、大きく影響してきたように思います。

個別賃金要求のあり方

 白井泰四郎氏が1973年に発表した「個別賃金要求と労働組合組織」では、個別賃金要求とベースアップ要求を並行すべきであるという指摘をしています。当時も本工と臨時工があり、今日的にも多様化という問題があります。個別賃金要求では、ポイントで決められる労働者のグループには有効であっても、それ以外の労働者に対しては有効に機能しないことをどう考えるかということです。
 また、賃金体系が違えば、個別賃金のあり方も変わります。職務給なのか、職能給なのか、さらに企業ごとの違いがあるものを横断的にポイントで平準化できるのか、という議論も提起されています。
 しかもこれは月例賃金であり、一時金やその他の付加給付的なものをどうするのか、という議論もあります。つまり、賃金を単純な一つのものと考えるのではなく、現実に存在している多様な形としてみていかなければ、平準化作業はできないという議論でした。<ページのトップへ>

職務給への反発と横断賃率論

 こうした流れのなかで、賃金の社会的な基準を持つ必要性は当時から言われてきました。当時は、年齢、性、学歴など、属人的な要素で決まる部分があり、その上で、職務給の考え方の兆しがありました。
 ただ、1966年に「日本の職務給」で小島健司氏が整理されているとおり、職務給の提起はむしろ経営側から来ました。このため、社会的・横断的な賃金という以前に、労働側としては、対抗すべきもの、職務給対策を打つべきものという受け止めでした。当時の理解は、職務給は企業内の格付方法であり、仕事のやり方の序列を経営が決定し、企業内に封じ込めるもの、反労働者的なものというものです。それに対抗するために、社会的な格付け、すなわち、産業別あるいは国全体の横断賃率という考え方を打ち出しています。
 しかし、当時の議論では、大手と中小の賃金格差があるなかで横断賃率をめざせば、低きにあわせることになるのではないか。重要なのは水準を上げることであり、横並びではないという問題指摘がありました。
 また、日本では、未経験の状態、未熟練の状態で入職(社)し、内部養成的に技能を修得する過程を経ており、かつその期間にも違いがあります。このため、企業ごとに、入職賃金、賃金カーブ、一人前となる時点が違うために、横断化が難しいという問題があります。
何よりも、経営側の反発、対応が強かったことが大きな問題でした。このため、横断賃率は極めて難しいということになり、大幅賃上げ論になったのだと考えられます。

賃金の二つの原則

過去の議論を振り返ったところで、これからの賃金について、いくつかの視点を提起してみます。
まずは、賃金の原則、つまり賃金とは何かということを考えなければなりません。第一には、最低生活保障原則があります。もう一つは同一価値労働同一賃金の原則です。この二つの原則は、戦後労働運動の出発点であり、どの労働組合においても共通に確認できるものです。最低生活保障原則のもとで、生活給要素をどのようにみるのかが考えられ、最低賃金の取り組みが位置づけられてきました。
これに対して、理念としては存在しながら、現実のなかに適応しにくかったのが、同一価値労働同一賃金の原則です。その実現の手立てとして、「職務給」という考え方につながりましたが、賃金水準が低い状況にあったために、生活保障原則の方が強調され、まずはそれをクリアすることが重視されてきました。しかも、現実の賃金体系が勤続年数によって上昇するカーブを描いていたことから、最低生活保障の下限あるいは一定のポイントを抑えることによって、全体の引き上げを図ることが可能でもありました。
しかし、今日的には、同一価値労働同一賃金原則の方がむしろ重要になっています。ある程度の賃金水準なり生活水準が満たされるなかにおいては、その水準の上をいく第二原則をいかに実現していくかを考えなければなりません。今それが顕著に表れているのは、正社員とパートの問題ですが、正社員のなかでも、仕事による格付け、賃金水準は何が適正なのかという議論がもう一度呼び起こされなくてはならない状況になっています。

仕事の類型と変化

この問題を考えるときに、仕事の世界やその仕事に携わる労働力の類型がどのように変わっていくのかを考えることが重要です。小池和男氏が指摘した四つのタイプについては、内部昇進型は基本的に維持されているのかもしれませんが、ホワイトカラーにおいても、明らかに仕事のさせ方が違ってきています。かつては、一つの部門に入って、易しい仕事から何十年かけてベテランになっていくというプロセスがありましたが、今はある一定の仕事を与えて、それを一定の時間にこなしていくという、課題設定、目標設定をする働き方になっています。また、生産ラインにおいても、全体の変化が激しいなかで、絶えず生産体制の見直しがされています。こちらも、長期にわたって熟練度を増していくという考え方ではなく、課題設定、目標設定に着目しながら、一定期間で仕事をしていくスタイルに変わってきています。こうした変化によって職務給的な考え方がなじみやすくなり、同一価値労働同一賃金の考え方の意義が見直されてきています。<ページのトップへ>

賃金ドリフトと分配の問題

 三つめの問題として、社会的な賃金水準が決まっても、それがイコール支払われる賃金なのかという問題があります。支払い能力という問題があるなかでは、産業別、企業別の差は残ることになり、賃金ドリフトという考え方が必要です。
最終的には、企業における分配、ガバナンスの構造が問題になります。春闘でベア交渉が行われているときには、賃金源資全体に対する意識を持ち続けてきましたが、今日の状況下においても、これを忘れてしまえば、いかに「社会的に」といったところで、現実に決まる賃金とのギャップができ、機能しないことになります。白井泰四郎氏が1973年に「個別賃金要求と労働組合組織」のなかで主張した、「個別賃金要求ポイント以外の労働者の賃金決定には、賃金源資に注目し、ベースアップ要求を並行していく」ということが、現在も生きているわけです。

経済整合性論

 四つめには、出来上がった賃金が、経済、マクロ的に整合性を持つのかどうかという経済整合性論です。マクロ分配率を目標というよりは、結果としての公平性を担保する手段と考えながら、マクロ的な分配を意識する必要があります。これまでは、春闘の賃上げを考えることによって、ミクロ分配、マクロ分配をこなしていくメカニズムが働いていましたが、春闘が機能しなくなると、経済整合性という観点が薄れてしまいます。なぜこれが大事なのかというと経済的、社会的な公平感という問題と、経済全体のあり様というものをゆがめていくことになりかねないという問題があるからです。そこも含めて考えるのが賃金論だと思います。

労働側の論理と経営側の論理

基調講演でメモを取る参加者
これらの問題は、労働側の論理ですが、経営側の論理もこれに全く矛盾するわけではありません。生活保障できない賃金を払うとは経営側も言っていません。仕事、生活についての安心感を持つことが、従業員のモチベーションの基礎になるという考えは共通です。生活についての視点は、ワーク・ライフ・バランスの議論も含めて経営側も持っています。
また、同一価値労働同一賃金のベースにあるのは、市場価格ということです。これは平準化ということであり、公正競争を促す意味においても、むしろ必要なことです。
支払能力の問題については、企業はこれまで、優秀な労働者を引き付ける機能があったことによって、これを呑み込んできました。しかし今ここが弱まっている状況にあることから、この問題が焦点になりうると思います。
ましてや経済整合性論は、マーケットの拡大につながるものであり、経営側の論理にもなじむものです。こうしたことを、交渉の中で、理詰めで整理していくことが重要なことだと思います。<ページのトップへ>


労働力の類型

 これから横断的あるいは社会的な賃金というものを考えるにあたって、働き方の違い、労働力の類型の違いは、無視できない要素です。特に「大くくりの職種」をどう考えていくのかが重要になります。
また、労働力の類型の問題と賃金形態はリンクしてきています。これを徹底的に示したものが、旧日経連が示した「雇用のポートフォリオ」の理論であり、それぞれの労働力の類型によって、賃金形態、賃金体系が違ってくるというものです。例えば、定型業務、非定型業務、営業系、研究開発職など、それぞれに適用する賃金体系の望ましい姿、適切な姿には違いが出てきます。この問題は、今日的に整理すべき論点であると思います。

職務か職種か

もう一つの論点は、仕事に着目するにしても、職務なのか職種なのかという問題です。
職種で決めるというのは、社会的なものだと思います。職種というものが、一番明確になるのは技能の資格です。社会的な資格、公認会計士、弁護士のような国家資格で決まっているような場合です。しかし、生産技能には、技能士というものがありますが、その資格があれば皆同じというわけではありません。企業内特有の技能やその熟練度の評価という基準が入ることになります。職種はメルクマールにはなるけれども、決定的なものとはなりません。やはり、最後は職務ということで決めざるを得ないと思います。
職務については、「仕事の大きさや難しさや責任の重さというものは、経営戦略における組織のあり方と、その組織における仕事の位置づけで決まるのであり、経営側の論理である」という批判があります。
しかし、裏返してみれば、むしろ「職務」を外から与えられるものとすることなく、労働者が決めることが重要です。難しい仕事に就かなければ高い賃金がもらえないのであれば、難しい仕事に就けるかどうか。今までは勤続年数で保障されてきましたが、今後は職務等級やグレードが上がることはどのように保障されるのか、希望する人間に道が開かれるのかどうか、という問題です。
例を挙げれば、公務員、官公労の賃金は、職務給的な賃金です。等級別、級別の定数があり、そこに上がるための昇格要件がまさに労使交渉の焦点になっています。どの仕事に就くかで勝負がつくのであれば、こうしたことを意識として持っていかなければなりません。

働き方や労働市場の改革

職務に応じた賃金を考える場合には、仕事への就き方も含めて、働き方の部分にまで入り込んでいく必要があります。その意味では、労働市場の改革や人事管理改革もあわせて考えなければなりません。キャリアや労働移動、能力開発の問題でもあり、評価システムが公平であるか、という問題でもあります。企業内でいえば、職務の明確化、目標管理の設定など、労働者と企業が個別契約を結ぶようなところまで高めることができるかどうか。働き方の問題では、フレックスに働けるのかどうか。職種の転換、勤務形態の転換が固定的でなく、選択できるかどうか。こうしたものをすべてワンセットで考えなければならないと思います。<ページのトップへ>


<<今後の課題>>
生活保障としての賃金の課題

最後に、もう一度整理する意味で、今後の課題について整理していきます。
賃金水準を考える場合、賃金の原則からすれば、生活保障の観点は無視できませんが、生活保障の問題は、ライフスタイルをどう考えるかで決まります。今は世帯のライフスタイルのパターンは一様ではないと言えます。実態をみると、男女分業か男女共同参画か、世帯賃金か個人賃金かなど、どのような生活スタイルが望ましいのか、という課題があります。
もう一つは、ライフサイクル賃金の問題があります。住宅と子供の教育と老後資金の三つをどこまで賃金で解決するのか。自助・共助・公助のバランスをどこで取るのか。賃金でいくのか、賃金以外の報酬全体の議論として考えるという選択の問題です。

ベンチマーク職種による賃金決定

生活保障の賃金を前提にした上で、仕事別の賃金、同一価値労働同一賃金をどのように作っていくかを考えてみます。
第一に考えなければならないことは、職種の概念です。職種は、産別の中で囲い込むのではなく、産業横断的でなければなりません。すべての職種を網羅することは困難ですが、共通の職種も多くあります。そのときに、ベンチマーク職種をつくるという発想があります。
産別独自に、あるいは産別間で協力して、ベンチマーク職種を決め、それを基準に、他の職種とのつながりの構造を考えます。ポイント賃金ではなく、ポイント職種で決めていくことを考えるということです。

仕事の価値の測定と賃金データ

職種別賃金の形成には、理論と現実のデータとの間ですり合わせながら進めていくことが重要です。そのためには、仕事に基づく、社会的な賃金相場を見るためのデータが必要となります。
社会経済生産性本部では、賃金相場のデータづくりとして「能力・仕事別賃金実態調査」を実施し、2004年3月に取りまとめました。大くくりの職種と能力基準をクロスさせた大きな枠組み、大くくりの仕事を考え、賃金実態を調査したものです。
他に、マーケットプライスを調べるというやり方もあります。派遣労働の価格はマーケットで成立していますが、これらの職種別、職務別の料金をベンチマークにするという考え方もありえます。さまざまなデータを重ねながら、相場観を作り出していくことが重要です。
 同時に、実態だけではなく、産業別の能力基準のあるべき姿についても論議が必要です。厚生労働省が、産業別の能力基準づくりをはじめました。例えば、これと連動させてあるべき値段を決めていくことになれば、仕事別賃金というものが、具体的に見えやすくなると思います。

賃金決定メカニズムの問題

 賃金のドリフトは必要であり、企業別のドリフトを考えていかなければなりません。また、未組織にどう影響を与えていくかという問題や、賃金決定がうまくいかなかった場合の苦情処理の問題も、今日的な賃金決定メカニズムとして重要になってきます。<ページのトップへ>

労働力の供給価値を高める

 労働組合の積極的な雇用政策として、キャリア形成、能力開発を進めることによって、労働力の供給価値、供給価格を高めていくことも考えなければなりません。
もう一つは、古典的な技能工のような形ではない、新しい「大くくりの職種」をブランド化できるか、ということが重要な問題となります。ブランドであるということは、すなわち専門人としての自覚を持つということです。専門人としての自覚を持つということは、専門職として集まるものがあるかどうかということになります。例えば、介護福祉士さん、看護師さんなどには団体があります。お互いに練磨しながら、さらに自分のキャリアを高め、社会的地位向上を図っていくのが、職種別団体の考え方です。クラフトユニオンにするというわけではなく、産業別労働組合、企業別労働組合の枠組みの中でよいですが、専門人意識を育てていくことが大切です。
職種を資格で整理できれば良いのですが、現実に難しいのであれば、それを作り上げていく装置が必要になります。ある団体に入っている、あるいは「○○専門人」という雑誌を読んでいるなどの共通項を作り上げることによって、専門職としての自覚を持っていることが重要です。そうした動機付けによって、専門人としての自覚を持ち、賃金を高めようという努力につながっていくことになります。

雇用形態の多様化への対応

 賃金の社会性を考える場合には、雇用形態の多様化を前提に考えなければなりません。今日的に重要なことは、均衡処遇の問題です。雇用者だけでなく請負についても均衡処遇が問題になります。
アウトソーシングに対する歯止めの必要性は昔から言われていました。かつては、家内労働が多数存在していましたが、そのときは家内工賃での規制に力を入れています。今日アウトソーシングがかなり進んでおり、これを視野に入れなければ金魚鉢の議論になってしまうことになります。

納得できる賃金、公平な賃金

 いずれにしても、納得できる賃金、公平な賃金が今求められています。仕事をどのような形で基準にした賃金ができるのか、そしてそれを納得できるものにどう高めることができるのか、を議論し、賃金の水準を考えていくことが重要だと思います。<ページのトップへ>

<目次へ戻る>