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第118号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2020年12月25日)

家庭内暴力と労働組合の役割に関する説明

2020-12-10

<JCM記事要約>

  • COVID-19パンデミック下の外出禁止や強制的な共同生活により、家庭内暴力のリスクが高まっている。ジェンダーや民族は関係ないが被害者の大多数が女性であり、失業、所得減少により、被害者は虐待者との同居を続けざるを得ない。
  • 家庭内暴力は家庭で始まるかもしれないが、仕事の世界に波及する上、安全衛生問題ともなり、被害者・生存者ならびに同僚の安全衛生リスクを示しうる。
  • ILO190号条約の前文においても、「家庭内暴力が雇用、生産性ならびに健康および安全に影響を及ぼすおそれがあること、ならびに政府、使用者団体および労働者団体ならびに労働市場に関する機関が、他の措置の一部として、家庭内暴力の影響を認識し、これに対応し、対処することに寄与し得る」とされている。
  • 労働組合は、家庭内暴力の兆候に気づき、被害者を支援すること、また差別とジェンダー不平等の影響に対する認識を高め、組合員と労働者を教育することが求められる。

 

家庭内暴力は家庭で始まるかもしれないが、仕事の世界に波及することがある。家庭内暴力は安全衛生問題でもあり、被害者・生存者ならびに同僚の安全衛生リスクを示す。

1. 家庭内暴力とは何か?

家庭内暴力には、家族もしくは家庭単位の中で、または以前もしくは現在の配偶者もしくはパートナーの間で発生する、すべての身体的、性的、精神的または経済的暴力行為が含まれる。家庭内暴力は、ある人が、親密な関係または家族的な関係を持っているか、持っていたことがある別の人を統制または支配するために利用する行動パターンである。

精神的虐待は、ストーキングやハラスメント、強制的管理など、さまざまな形を取ることがある。加害者の行動の狙いは、強制的管理を通して、脅迫、屈辱および威嚇またはその他の虐待によって被害者・生存者に危害を加え、不当に取り扱い、怖がらせ、支援から引き離し、被害者・生存者を従属または依存させることである。

虐待者は経済的暴力によって、ある人が雇用機会や経済資源にアクセスするのを妨げようとする。家庭内暴力の経験は、長期に及ぶ身体的・精神的・情緒的健康問題を招くことがあり、最も極端な場合、女性に対する暴力は死をもたらす恐れがある。これは女性が経験し得る最も極端な形態の抑圧である。

出所:イスタンブール条約、ユナイト・ザ・ユニオン「家庭内暴力と虐待――交渉者ガイド」、2018年ILO報告

2. 家庭内暴力、家族内暴力、親密なパートナーからの暴力の違いは何か?

親密なパートナーからの暴力とは、「現在または以前のパートナーまたは配偶者による身体的、性的または精神的危害」を指す。家庭内暴力とは、「パートナーによる暴力」を指すが、「[……]児童虐待もしくは高齢者虐待、または家族による虐待を含むこともある」。家族内暴力とは、「児童虐待、兄弟による暴力、親密なパートナーからの暴力および高齢者虐待」を指す。

出所:家庭内暴力と仕事の世界におけるその影響に関するILO資料、2020

3. 家庭内暴力の被害者または生存者とは?

暴力的な関係にある間に、または暴力的な関係を断ったあとに援助を求める人をどう呼ぶか。

状況に応じて「被害者」、「生存者」の両方が使われる。「被害者」という言葉は、法執行機関当局者によって、あるいは裁判手続きの枠内で用いられる。しかし、受動的な姿勢を暗示することがある「被害者」と対照的に、虐待への積極的・創造的かつ臨機応変な対応を強調する「生存者」という言葉が好まれることもある。

結局、被害者から生存者に至るプロセスは人それぞれなので、支援を求める人に合わせることが絶対に必要である。そのために、被害者・生存者という言葉を使う人が増え始めている。

出所:ウィメンズ・エイド「生存者ハンドブック」、ウィメン・アゲインスト・アビューズ「私たちが使う言葉」

4. 庭内暴力の主な被害者・生存者は誰か?

誰もが家庭内暴力の被害者・生存者または加害者になる可能性がある。人々は、ジェンダー、民族、階級、年齢、人種、宗教、障害、性的指向または性同一性に関係なく、家庭内暴力を経験する。

しかし、これまでの証拠から、親密なパートナーからの暴力として理解されているように、家庭内暴力で苦しむ人々の大多数が女性であり、加害者の大多数が男性であることは明らかである。

全世界で女性の35%が、親密なパートナーからの身体的または性的な暴力や、パートナー以外の人物による性的暴行を経験している。親密なパートナーからの暴力は、女性が経験する暴力の大多数を占めている。毎日137人の女性が家族に殺されている。

家庭内暴力は、ジェンダーに基づく暴力の現れである。

ジェンダーに基づく暴力と女性に対する暴力は、同じ意味で使われることが多い言葉である。というのも、女性に対する暴力のほとんどはジェンダーに基づく理由で(男性によって)加えられ、ジェンダーに基づく暴力は女性に不釣り合いに悪影響を与えるからである。女性に対するジェンダーに基づく暴力とは、女性であるという理由で女性に向けられる暴力、女性に不釣り合いに悪影響を与える暴力を意味する。

出所:国連ウィメン「データ:女性に対する暴力の撤廃」、「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言」、国連、1993年

5. なぜ女性は家庭内暴力の被害者・生存者の大多数を占めているのか?

家庭内暴力は権力の乱用である。女性に対する暴力は、歴史的に不平等な男女の力関係の現れである。これは男性による女性に対する支配および差別を招き、女性が十分に進歩することも妨げている。女性に対する暴力は、女性を男性よりも従属的な立場に追い込んでいる極めて重要な社会メカニズムの1つである。

女性に対する暴力は、公的な場であれ私的な場であれ、男子家長制社会を含む社会を支配している社会的・文化的な構造、基準および価値観に深く根ざしており、しばしば否定と沈黙の文化によって永続化されている。

出所:女性に対する暴力の撤廃に関する宣言、国連、1993

6. 他の女性よりも大きなリスクにさらされている女性がいるか?

すべての女性は、ジェンダー、年齢、民族、社会経済的地位、宗教、性的指向および性同一性に関係なく、家庭内暴力を経験する可能性がある。しかし、障害者、バイセクシャル、移民の若い女性など、特定グループの女性はより大きなリスクにさらされている。

恥と不名誉は強力な文化的概念であり、一部のマイノリティー女性は、助けを求めても社会的に排斥・拒絶されるかもしれない。レスビアンやゲイの男性も家庭内暴力を経験することがあり、警察から、あるいは支援サービス内部で偏見を経験することがある。トランスジェンダーの男女を取り巻く状況を特に認識しておく必要がある。高齢女性や障害を持つ男女、農村居住者も、さらなる障害に直面している。

出所:TUC「職場における家庭内虐待の被害者への支援」、ユナイト・ザ・ユニオン「家庭内暴力と虐待――交渉者ガイド」

7. 家庭内暴力は人権侵害になるか?

女性に対する暴力は、女性の人権と基本的自由の侵害である。

女性には、政治、経済、社会、文化、市民またはその他のあらゆる分野で、すべての人権と基本的自由を平等に享受し、保護される権利がある。

これらの権利には以下が含まれる。

  • 生存権
  • 平等の権利
  • 自由と身の安全に対する権利
  • 法律の下における平等な保護に対する権利
  • あらゆる形態の差別から自由である権利
  • 可能な限り高い心身の健康の基準に対する権利
  • 公正で好ましい労働条件に対する権利
  • 拷問またはその他の残酷な、非人間的な、もしくは名誉を傷つける扱いもしくは処罰を受けない権利

社会的なものであれ、文化的なものであれ、宗教的なものであれ、女性に対する暴力は正当化できない。

出所:女性に対する暴力の撤廃に関する宣言、国連、1993

8. なぜCOVID-19期間中に家庭内暴力が増加しているのか?

COVID-19パンデミック期間中に、世界中で家庭内暴力の報告が増えている。

パンデミック発生とそれに伴う外出禁止の社会的影響が、社会的交流の減少と相まって、強制的な共同生活に固有の緊張と家庭内暴力のリスクを高めているのかもしれない。

男性が犯す場合の多い家庭内暴力は、男性が女性に対して権限を行使し管理する、男性優位の考え方に深く根ざしている。個人レベル、家庭レベルの危機や不確実性が高まる中で、暴力の加害者は支配権を再び主張し、ロックダウンに起因する欲求不満を暴力行為の増加によって表明したくなるのかもしれない。

経済的管理は虐待者の主たる手段であるため、COVID-19がもたらす景気後退は失業の増加および所得の減少とともに、虐待関係にある女性にとって特に危険である。財政的な不安定によって、被害者は虐待者との同居を続けざるを得なくなるかもしれないしたがって、政府がCOVID-19パンデミックへの公共政策対応のすべての部分で、親密なパートナーからの暴力を優先させることが重要である

出所:国連ウィメン「COVID-19と女性・少女に対する暴力の撤廃に関する資料」、OECD「COVID-19危機との闘いの中核を成す女性」

9. アルコールや薬物は家庭内暴力を正当化するか?

家庭内暴力は言い訳も正当化もできない。女性に対する攻撃は、女性を物や財産とみなす考え方の遺産である。虐待するパートナーは多くの場合、女性に対する暴力は「普通のこと」であるという一定レベルの社会的受容によって守られている。

ストレスや薬物、アルコールは、家庭内暴力のリスクを高める要因であり、攻撃を誘発することがある。だが、家庭内虐待をそれらのせいにすることはできない。ストレスにさらされていてアルコールや薬物を使っていても、虐待的ではなく、いかなる形態の虐待もしていない人は多い。

家庭内虐待は「痴情ざた」であり、瞬間的なコントロール不能であるという誤った社会通念も広まっている。だが、家庭内虐待はコントロールの喪失であることはめったになく、コントロールすることなのである。虐待者は虐待相手をコントロールしている。

出所:ウィメンズ・エイド

10. 被害者・生存者の行動は家庭内暴力を正当化する理由になり得るか?

被害者・生存者が非難され、虐待する男性が許されることが多すぎる。おそらく、彼は妻の挑発的な行動に反応していたのだろうとか、彼女がそれを求めていたのだろうとか。女性が自ら招いたことだと責められる場合もあるかもしれない。

だが、家庭内暴力は弁解のしようがない。暴行されたり、精神的に苦しめられたりして当然という人はいない。

この広く行き渡った根深い考え方は危険である。なぜなら、挑発という言葉は、私たちが女性を責めており、虐待者を自らの行為に対する責任から開放することを意味するからである。いかなる種類の虐待や暴力も、決して被害者・生存者のせいではない。加害者だけが非難されるべきである。

出所:ウィメンズ・エイド

11. なぜ被害者を責めることは危険かつ有害なのか?

社会が大きく変化しているにもかかわらず、男性は相変わらず、女性に対する暴力がありふれた許容できることとされる、男子家長制社会と著しく男性優位の文化の中で育つ。悲しいことに、いまだに女性は、被害者になったときにその出来事を報告すると、信じてもらえなかったり、自分の行為を責められたりする。

いかなるジェンダーに基づく暴力に関しても、被害者を責めることは有害である。そのような非難は暴力の加害者を見逃し、その責任を一部免除する役目を果たす。この種の暴力を許容する環境は、被害者・生存者が援助を求めたり暴力を報告したりすることを妨げ、加害者の刑事免責を奨励することになりかねない。誰であれ虐待を報告する人が、そのような出来事の報告が深刻に受け止められ、聞き入れられると確信することが不可欠である。

出所: UNISONガイド「家庭内暴力と虐待――労働組合の問題」

12. 男性が家庭内暴力の被害者・生存者になることもあるか?

女性が暴力の被害者・生存者の大多数を占めているとしても、男性や男の子も被害者になることがある。多くの男性被害者・生存者は、信じてもらえなかったり、弱いと思われたりすることを恐れて報告したがらない。

13. なぜ家庭内暴力の被害者・生存者は逃げ出さず、虐待を報告しないのか?

虐待関係から抜け出すことは容易ではない。家庭内暴力の重要な要素は、恥と孤立である。

多くの女性が信じてもらえないことを恐れ、子どもを失うこと(加害者がよく使う脅し)を恐れている。これらの問題に、虐待関係の中で押し付けられる社会的孤立、低い自尊心、金銭面の心配、将来の暴力に対する恐怖も加わって、女性は、特に自分に依存している子どもや他の大人がいる場合は、関係を続ける以外に選択肢がないと感じてしまうかもしれない。

女性がその場にとどまるのは、パートナーが変わってくれる可能性があると信じているからである。これによって状況が非常に複雑になり、簡単に解決できることはめったにない。女性たちは、家族が一緒にいられるようにしておき、関係を維持する責任がまだあると感じている。さらに虐待者は、多くの場合、他人には分からないかもしれない巧妙な方法で、被害者・生存者に影響を与えたり傷つけたりする術を知っている。

被害者・生存者は、仮の宿泊施設で、生活保護を受けて、あるいは子どもを施設に入れることを心配しながら、生活する羽目になるかもしれない。家を去ることは、家族や友人から離れて馴染みの薄い地域に引っ越すことを意味するかもしれない。

出所:ユナイト・ザ・ユニオン「家庭内暴力と虐待――交渉者ガイド」、UNISONガイド「家庭内暴力と虐待――労働組合の問題」

14. 第190号条約と第206号勧告はジェンダーに基づく暴力について何と言っているか?

条約の前文は、「家庭内暴力が雇用、生産性ならびに健康および安全に影響を及ぼすおそれがあること、ならびに政府、使用者団体および労働者団体ならびに労働市場に関する機関が、他の措置の一部として、家庭内暴力の影響を認識し、これに対応し、対処することに寄与し得る」と強調している。

よって、同条約は加盟国に対し、「家庭内暴力の影響を認識し、合理的に実行可能な限り、仕事の世界におけるその影響を緩和すること」(第10条(f))を要求している。

勧告は、さらなる指針を提供し、「加盟国は[……]仕事の世界における家庭内暴力の影響を緩和する手段として、団体交渉権の実効的な承認をすべての段階において促進するための適当な措置を取るべきである」(4(a))と述べている。

この文書は、これらの影響を緩和するために取り得る措置を列挙している。すなわち、「家庭内暴力の被害者のための休暇」、「家庭内暴力の被害者のための柔軟な就業形態および保護」、「適当な場合には、家庭内虐待暴力の被害者の解雇(家庭内暴力およびその結果とは関連しない理由による解雇を除く)からの一時的な保護」、「職場の危険性の評価に家庭内暴力を含めること」、「家庭内暴力の公的な緩和のための措置が存在する場合には、当該措置を紹介する制度」、「家庭内暴力の影響についての啓発」(18)である。

出所:ILO第190号条約、ILO第206号勧告

15. なぜ家庭内暴力は職場問題でもあるのか?

家庭内暴力は家庭で始まるかもしれないが、仕事の世界に波及する可能性がある。

虐待するパートナーは被害者を職場まで追いかけたり、仕事用の電話やコンピューター技術を使って脅迫、嫌がらせあるいはコントロールしようとしたりするかもしれないし、被害者と同じ場所で働いていることもあるだろう。

家庭内暴力は、家庭内暴力の被害者・生存者にもたらすストレスやトラウマを通して仕事の世界にも波及し、職場での業績に影響を与えることがある。

家庭内虐待の経験者は虐待の結果、休暇を取得しなければならなくなったり、仕事に遅刻したりするかもしれない。虐待者は被害者を負傷させたり、脅したり、車のキーや金銭を盗んだりして出勤を妨害するので、被害者は仕事に行けなくなってしまう。

家庭内虐待は個人の安全に影響を及ぼすだけでなく、他の従業員の安全や労働環境に悪影響を与えることもある。他の従業員は、仕事量の増加やストレス、同僚の虐待者による電話や訪問、その他の潜在的な安全上のリスクによって、家庭内暴力の悪影響を経験する。家庭内虐待は、生存者・被害者と同僚の間に対立や緊張を引き起こすことがある。

コロナウイルス危機対策の導入や在宅勤務の増加で、多くの人にとって家庭が新たな職場になっている。それは家庭内虐待の危険にさらされている女性にとって、安全とは言えない職場である。

出所:家庭内暴力と仕事の世界におけるその影響に関するILO資料、2020年、TUC「職場における家庭内虐待の被害者への支援」

16. なぜ使用者は家庭内暴力が職場に与える影響に取り組むべきなのか?

家庭内暴力は、影響を受けた従業員の健康、福祉および安全を著しく妨げる恐れがある。すべての使用者には労働者に対する「注意義務」がある。安全衛生法は、労働者が、健康と福祉に対するリスクが考慮され、効率的に対処される安全な環境で働く権利を持てるようにする。仕事場における被害者の殺害は、家庭内暴力が職場でいかに重大な影響を及ぼし得るかを如実に示している。

使用者は、従業員を危害から安全に守るために、その状況下で合理的なあらゆる措置を講じなければ、注意義務を怠ったとみなされることがある。

家庭内虐待は、生産性の低下、欠勤の増加、ミスの増加、従業員の離職率の上昇をもたらす。他の従業員にも影響を与え、欠勤した同僚や生産性の低い同僚の代わりを務めなければならなくなったり、被害者・生存者に憤りを感じたり、被害者・生存者を迷惑な電話や訪問から守ろうとしたり、無力感を覚えて仕事に集中できなくなったり、自分の身の安全を心配したりする従業員がいるかもしれない。

人権デューデリジェンスに関する国連ジェンダー指針は、企業は「変革をもたらす」、すなわち「差別的な権力構造に系統的変化をもたらす」ことができる措置や是正策を立案すべきである、と定めている。企業が家庭内暴力と虐待は受け入れがたいというメッセージを送れば、波及効果をもたらして強いメッセージを社会全体に広げ、家庭内暴力を当たり前のこととして受け入れさせている社会規範の変化に貢献する可能性がある。

出所:TUC「職場における家庭内虐待の被害者への支援」、UNISONガイド「家庭内暴力と虐待――労働組合の問題」、ビジネスと人権に関する指導原則のジェンダー側面

17. なぜ労働組合は行動を起こすべきなのか?

家庭内暴力の被害者・生存者にとって、仕事は虐待者からの避難所であり、そこで働いて能力を評価してもらうことができ、同僚との交流によって孤立感を和らげることができる場所である。仕事は収入源と経済的自立も示す。

家庭内暴力は職場での業績に影響を及ぼし、被害者・生存者は処罰や解雇に直面するかもしれない。家庭内虐待を経験した結果、雇用や所得を失うようなことがあってはならない。収入源を失うことによって独立性を失い、虐待者から離れにくくなってしまう。労働組合は、これらの組合員や労働者の権利を擁護する必要がある。

連帯と平等は労働組合活動の大きな柱である。女性に対する暴力は差別の過激な表現である。労働組合は、家庭内暴力の被害者・生存者である労働者を支援・保護する方法を見つけなければならない。

家庭内暴力は安全衛生問題でもあり、被害者・生存者および同僚の安全衛生リスクも示す。

出所:TUC「職場における家庭内虐待の被害者への支援」、OFL「家庭内暴力は毎日職場にやってくる――交渉ガイド」、「沈黙を破る、IUF加盟組織向けブリーフィング」

18. 家庭内暴力が職場に及ぼす影響への対処

組合は差別とジェンダー不平等の影響に対する認識を高め、組合員と労働者を教育すべきである。家庭内暴力をはじめ、女性に対する暴力を生み出して正当化する、ジェンダー・ステレオタイプや社会規範に異議を申し立てなければならない。

第190号条約はジェンダーに基づく暴力をなくすために、「根底にある原因および危険要因(定型化されたジェンダーの観念、複合的な形態の差別、ジェンダーに基づく不平等な力関係を含む)に対処」する「ジェンダーに配慮した取組方法」を求めている。

労働組合は、家庭内暴力など、あらゆる形態のジェンダーに基づく暴力を非難するための措置も講じ、以下によって、この問題に関する認識を高めるべきである。すなわち、例えば内部の方針、行動規範または平等声明の策定および暴力とハラスメントのない組合環境の促進、家庭内暴力と職場に関する記事や資料の発表、家庭内暴力と闘っている市民社会組織・団体との協力である。

家庭内暴力に取り組む主要責任は政府にある。労働組合は市民社会組織・団体とともに、法律で有給休暇その他の条項を達成するために運動している。例えば、フィリピンとニュージーランドでは強力なキャンペーンによって家庭内暴力の被害者・生存者の10日間の有給休暇が、オーストラリアでは5日間の無給休暇が、カナダではほとんどすべての州で5日間の有給休暇が導入された。

あなたの国には現在、女性に対する暴力に関するどのような法律があるか調べてみてほしい。

労働組合は、政府に対してロビー活動を行い、ILO第190号条約を批准し、官民いずれの職場であれ、政府・使用者が家庭内暴力によって深刻な影響を受ける労働者への注意義務を果たすようにするためにも取り組んでいる。

出所:ユニフォー「家庭内暴力に直面する労働者――経済支援を求めるロビー活動」、ILO第190号条約、オーストラリアのACTUキャンペーン「私たちは待たない!」

19. 労働組合はどうすれば組合員や労働者を支援することができるか?

被害者・生存者は、特に職場では、暴力を受けていることを隠そうと大変な努力を払う。女性は黙って悩み、恐怖のあまり、あるいは羞恥のあまり助けを求めることができない。組合が家庭内暴力に異議を申し立て、被害者を擁護してくれると信じている組合員は、名乗り出て信頼できる組合代表に頼る可能性が高い。

組合代表は配慮していることを示すことによって、被害者の孤立を打破することができる。虐待を報告する人が、そのような出来事の報告が真摯に受け止められると確信できるようにすることが欠かせない。組合が代表を訓練し、家庭内暴力の兆候に気づき、被害者・生存者の話を聞いて秘密裏に支援し、既存のサービスに連絡をつけられるようにすることが重要である。

AMWUの「代議員向けべし・べからず集ガイドライン」のように、労働組合は組合代表や代議員向けにガイドラインや訓練を企画し、彼らの支援の試みが損害の拡大や逆効果を招いたり、誰かをさらに危険な状況に追い込んだりしないようにしている。

カナダのユニフォーは「女性擁護者プログラム」を取り決め、現在、全国の職場に400人を超える女性擁護者がいる。使用者は、職場や私生活でハラスメントや暴力を経験している女性を助ける専門組合代表のために、訓練やオフィススペースの費用を負担している。擁護者は、個人的判断を避けて内々に支援したり、職場や地域社会で取り得る方策について説明したり、組合員がそれらの制度を利用するのを手伝ったりする。擁護者は、虐待の兆候に気づき、紹介を行い、安全計画に関して使用者と協力するために訓練を受ける。

20. 団体交渉で使用者と何を交渉すべきか?

家庭内暴力に関する確固たる職場方針の策定は、家庭内暴力が職場に与える影響に取り組むうえで重要である。使用者は、安全衛生委員会や労働者代表とともに方針を立案すべきである。

この方針には以下を盛り込む。

  • 家庭内暴力に反対する声明
  • 家庭内暴力の兆候に気づく方法、安全かつ適切に対応する方法に関する人事担当者・管理者ならびに従業員向けの訓練や認識向上セッション
  • 被害者・生存者のための保護対策と就業形態
  • 公表に対する報復・差別からの保護
  • 厳格な守秘義務条項
  • 家庭内暴力を公表した場合の職場安全戦略(被害者・生存者と同僚のリスク評価や安全計画など)

労働組合は、全レベル(国家、地域、部門、企業または職場レベル)の労働協約や、職場の暴力とハラスメントに関する方針に、家庭内暴力を盛り込むために交渉することもできる。

労働協約や方針の対象となる暴力の一例として家庭内暴力を挙げたり、家庭内暴力を重要な職場問題として認め、具体的なフォローアップと保護対策を要求する独立した規定を取り決めたりすることができる。安全衛生職場方針で公然と家庭内暴力に挙げることによって、家庭内暴力を恥ずかしいことと思わせないようにするために取り組んでいる。

被害者・生存者向けの保護対策には、次のようなものがあるだろう。

  • 被害者・生存者のための解雇に対する一時的な保護
  • 仕事のスケジュールを調整したり、偽名を使ったり、フレックスタイム制で働いたりできる就業形態
  • 労働時間や職場に関する知識を利用する虐待者から身を守るために必要な変更を加えることの許可

家庭内暴力の被害者・生存者専用の休暇は、被害者・生存者が逃げ出したり、訴訟手続きに対処したり、支援やサービス、救済策を利用して安全に暮らしたりできるようにするので重要である。

家庭内暴力の生存者が、自分の安全、家族の安全、雇用の中から選ばなければならないようなことがあってはならないため、労働組合は、現行の休暇条項に加えて年間最低10日間の有給休暇を取り決め、特別な事情がある場合は延長すべきである。使用者が有給休暇条項に同意しない場合は、生存者のポストが保証されることを条件として、無給休暇が暫定的な基本方針となる。

出所:TUC「家庭内暴力職場のためのガイド」、USW「労働協約で家庭内暴力に取り組む方法に関する交渉ガイド」、ユナイト・ザ・ユニオン「家庭内暴力と虐待――交渉者ガイド」、OFL「家庭内暴力は毎日職場にやってくる――交渉ガイド」、CUPE「家庭内暴力と職場に関するガイド」、CLC「労働協約のためのモデル規定」、IUF加盟組織向けブリーフィング

21. ロックダウンやテレワーク増加という状況下で、労働組合は何ができるか?

家庭内暴力の増加を受けて、労働組合は、家庭内暴力の被害者・生存者向けの支援・緊急サービスの連絡先を積極的に公表している。政府にも働きかけ、シェルターのためのサポートやジェンダーに基づく暴力支援サービスの拡充や、女性が暴力のスパイラルから脱け出せるようにすることを目的とする基金の設立を求めている。

社会的に孤立すれば、危険にさらされた人々が、通常なら虐待の兆候に気づくかもしれない人たちと接触しにくくなってしまう。代表や同僚は、電話やビデオ電話で秘密裏に連絡を取る口実があるので、支援できるチャンスが最も大きいだろう。

職場委員は、組合のコミュニケーション・チャンネルやウェブサイト、携帯メールを通して組合員と連絡を保ち、家庭で安全を感じているかどうか尋ねることができる。労働組合は、家庭内暴力安全対策や援助を求める方法について、定期的に情報を回覧すべきである。代表は家庭内暴力が起こっていそうな兆候を見極め、ロックダウンや在宅勤務のために自宅にいる被害者・生存者をサポートすることができる。

労働組合は、在宅勤務中の従業員の被害者・生存者を支援する新しい方法を見つけたり、職場や家庭への警備計画を調整・導入したりするためにも、使用者と協力・交渉すべきである。

出所:「代表のためのTUC指針――家庭内虐待とコロナウイルス」、「労働組合のための指針」(dv@worknet

22. 家庭内暴力の加害者が労働者や労働組合員である場合は、どうすべきか?

加害者が同僚や組合員、組合代表である場合の対処という問題の解決策を見つけることは、重要かつ困難である。

虐待者は、仕事時間や職場の機器を使って虐待的なメッセージを送ったり、暴力行為を計画・実行したりするかもしれない。そのことで頭が一杯になったり集中できなかったりし、業績に影響が出ることもあるだろう。安全な労働環境を提供し、虐待行為にかかわる労働者に説明責任を負わせることは、使用者の責任である。

解雇を含む懲戒処分や制裁を適用せざるを得ないこともある。使用者は、加害者が虐待行為をやめられるよう手助けすることができる。懲戒処分には、加害者向けのカウンセリングや治療プログラムへの参加を含めることができる。

組合が、話の仕方や家庭内暴力の加害者である組合員の扱い方について、労働組合役員・代表向けに明確なガイドラインを設けることが重要である。労働組合は組合代表に、同僚や組合員が家庭内虐待を行っているかもしれないと考える場合は、彼らに連絡を取って支援のために指針を与えるよう勧めることができる。

懲戒処分にあたって、組合は加害者を代表することを要求されるかもしれない。組合代表は合理的に適応するために、あらゆる選択肢を見直すべきである。虐待者は、自分の行為が間違っており、容認されないことを知る必要がある。

被害者・生存者と加害者が同じ会社で働いている場合は、両者が職場で接触しないよう確保するために措置を講じる必要があるかもしれない。一方または両方の従業員の職務変更や情報アクセスの取り消しのような対策が必要になることもあるだろう。

出所:「代表のためのTUC指針――家庭内虐待とコロナウイルス」、OFL「家庭内暴力は毎日職場にやってくる――交渉ガイド」、「労働組合のための指針」(dv@worknet)

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