機関誌「IMF-JC」2005冬号

フロントページ解説

全電線―日立電線みなと工場

タンクへ70qのケーブルを詰める作業

今回は全電線の傘下である日立電線労組の日立電線みなと工場を訪問させていただいた。みなと工場は日立市久慈町にあり、電線産業の中の最先端である光ファイバーの海底ケーブルを主に製造している。常磐線の大甕(おおみか)駅から車で10分くらいのところにある。「みなと工場」の名前どおり日立港の一角にあり、船を横付けできる岸壁を有している。これは、主力製品である光海底ケーブルを敷設船に直接積み込むのに便利だからである。
インターネットの爆発的な普及により、国際間の通信容量が飛躍的に増大している。現在、国際間の大容量伝送は、衛星通信システムと光海底ケーブルシステムの二つの方法によって行われているが、衛星システムの方は通信距離が長く時間的な遅れを生じたり、悪天候に通信が乱れたりすることもあるが、その点光ファイバー海底ケーブルシステムは伝送距離が短いので殆ど時間的遅れがなく、信号を確実に安定的に送れる利点がある。太平洋、大西洋間は、すでに何回線も敷設がされている。最近は、まだ光海底ケーブルがあまり敷設されていないエリアを中心に敷設計画が進められている。現在、シンガポール〜インド〜スエズ運河〜南フランスの全長2万キロメートルのSMW4プロジェクトが進行している。みなと工場は、そのうちのシンガポール〜インド間の約7000qの光海底ケーブルの製造を担当している。

接続作業

光ファイバー海底ケーブルの製造は、ほとんどの工程が機械化されている。中核となる光ファイバーを海底の800気圧にも及ぶ水圧から守るため鋼線と銅皮で覆い、さらにポリエチレンを被覆する。水深の浅い所では、船の錨や岩礁や漁業活動の金具等から絶縁体を保護するために、鉄線を巻き防食塗料を塗る。1本のケーブルが工場のラインの上を走りながら、次々と完成に向かって姿を変えていく様はまるでマジックを見ているようだ。その間、工程の段階毎に担当者が条件をチェックし、出来具合を確認し、スムースに流れるように一人ひとりが細心の注意を払っている。7000qといえば、日本の東西の長さが3000qだからおおよそ2倍以上の長さとなるが、約70qごとにリピーター(増幅器)を接続して弱くなった光の信号を元の強さに戻し、その繰り返しにより長距離を確実にデータが送れるようにしている。

リピーター(増幅器)

だからケーブル1本の製造単位は約70qとなる。それらの間にリピーター(増幅器)を接続して、最終的に約7000qのケーブルシステムに組み上げる作業があり、人手による高度な技術が必要とされるのがこの接続作業だ。接続部分が1箇所でも良くないと、何万キロにも及ぶシステム全体が機能しなくなりデータを確実に送れなくなる。だから接続作業を行うには認定資格が必要である。太さがわずか直径0.125oのガラスファイバーをつなぐ作業では、微細なゴミが混じるといけないので、クリーンルームの中で白い防塵服に身を包んで、二人一組で接続作業を行う。一人が光ファイバーを保護している樹脂被覆を除去してファイバー部分を剥き出し、もう一人が融着器にセッティングしてファイバー同士をつなぐ作業を行い、顕微鏡を見ながら確認する。7000qにわたり、均一な高品質を保つことが求められているので、少しのミスも許されない。張りつめた雰囲気のクリーンルームの中で息のあった二人一組での接続作業が続いていた。グローバルなインターネット時代を支える電線産業の姿をそこに見た。(美)

<目次に戻る>