金属労協第52回協議委員会
来賓挨拶
マレンタッキIMF前書記長

20年間のIMF−JCの
支援と協力に感謝



第52回協議委員会への招待と皆様の温かい歓迎に対して心から御礼を申し上げたい。また、西原IMF-JC議長と古賀連合会長から温かいお言葉をいただき大変感激している。過去30年間に何度も日本を訪れたが、これからもまた機会があれば喜んで来日したい。IMFには書記長としての20年間を含めて28年間勤務した。その中で国際労組運動の発展に多少なりとも貢献できたと考えている。

IMF書記長に就任した1989年当時、世界は今とはまったく違った様相を示していた。私たちの前の世代は戦争や植民地化等を目の当たりにしてきた。その後も冷戦によって世界が二分される状況が続いていた。1989年を境に世界は大きく様変わりした。その変化にいささかなりとも貢献できたことを大変幸せに思う。

ベルリンの壁が崩壊し、東欧の共産党政権が瓦解した当時、私たちはすべての国の人々を一体化する全世界的な連帯が作れるという大きな希望に燃えていた。それから20年が経過したが、現状を見て大変失望している。豊かな国と貧しい国の間の格差は広がるばかり、国内でも富める者と貧しい者の間の格差が広がっている。資源の乱費による気候変動、エイズ等の伝染病、止まない戦争、非合法移民・非合法労働の蔓延などの諸問題のほか、10億人が1日1ドル以下で暮らす目を覆うばかりの貧困が今なお根強く残っている。数百万人の子どもがまったく学校に通うあてすらなく、20億人以上が水道水を使えない状態にある。各国政府は、今般の金融危機に当たって、短期間のうちに5兆ドルもの資金を銀行と証券会社の救済に拠出した。そのうちの20分の1、2500億ドルもあればミレニアム目標である貧困半減が実現する。より良い世界を作るための好条件を生み出す戦略作りが必要と考える。

IMFは世界各国の加盟組織から構成されるダイナミックな組織である。ダイナミックな組織である以上、地域レベル、国内レベル、国際レベルを含めて、社会全体で起きていることをきちんと把握する必要がある。労働者・一般市民の社会生活、労働条件、生活環境がどういう変化にさらされているかを敏感に察知し、それを踏まえながら、より良い世界に向けて彼らと一緒に闘う必要がある。しかし、闘うだけでは十分でない。私たちは具体的な変化を生み出すために闘うべきであり、積極的に仕事をしていかなくてはならない。社会の不可分の一部として、技術的・社会的進歩を促進していく存在でなければならない。

古賀連合会長が述べた通り、同じ価値観を共有する組織とも協力しながら、連帯に基づいたより良い世界を生み出すために積極的に役割を果たしていく必要がある。労働組合のミッションは組合員の権利を守ることであることは間違いないが、私たちは保険会社とは違う。労働組合に加盟するということは、その組織の民主的プロセスに積極的に貢献し、その活動の重要な一部を担うことを意味する。そして、仲間と共にその長期的目標を設定し、それを実行することで社会全体を良くしていかなくてはならない。したがって、社会全体の利益を見据える取り組みでなければならない。

私たちには長期的な視野が必要である。短期的な目的のみを追求する姿勢は社会そのものを崩壊させる。現に多くの金融機関と企業が短期的な勝利を求めて投機に走った結果、私たちの先輩と進歩的な政府が150年以上にわたって築き上げてきた成果が破壊された。今こそ、私たちの掲げる価値観を守るために、全世界の人々を動員する時である。労組が変化に適応していくためにも、自らの原則ないし基本的価値観に再び立ち返る必要がある。その基本的価値観とは、「自らの選ぶ労働組合に加入する権利」、「労働協約を交渉する権利」、「児童労働と強制労働の排除」、「平等の権利(男女平等賃金原則を含む)」、「職場の安全と衛生」である。これらの価値観の実現に向けて共闘を図れば、世界をより働きやすい場所、より生きやすい場所に変えていくことができる。

 世界金融危機は近々終わるかもしれないが、その影響はこれからも長きにわたり多くの労働者や弱い立場にある者を苦しめると見られる。各国のIMF加盟組織と労組は生き残りのための資金と手立てを探している。今後も困難な状況は続くが、労働者のために何らかを成しうる唯一の組織であるとの確信のもと、産業革命以来の歴史を持つ労組の伝統を継承していく必要がある。当時、最も重視されていたのは組織化。それは今も変わっていない。一にも二にも組織化、である。

 これまでのIMF−JCの皆さんの支援と協力に対して改めて御礼を申し上げたい。今度はここにいる皆さんが将来を切り開く立場にある。ものづくりと金属産業の一層の発展に対する期待を表明して、締めくくりとしたい。