金属労協第53回協議委員会
産業・企業の健全発展の道筋を明確にし、
雇用と生活の将来展望を切り拓こう

西原浩一郎
議長 西原浩一郎
 金属労協・IMF−JC第53回協議員会にご参集の皆さん。大変ご苦労様です。
 なお本日はご来賓として大変お忙しい中、連合・南雲事務局長、国際金属労連・IMF本部より鎌田書記次長にご出席いただきました。お二人からは、後ほどご挨拶をいただきますが、全員の拍手で、感謝と歓迎の意を表したいと思います。
 なお9月の大会で報告した通り、鎌田書記次長はIMFの規定により、今月末をもってIMF本部を定年退職されることとなります。 鎌田さんは1972年にJCに入職され、1975年5月から今日に至る35年間、スイス・ジュネーブのIMF本部の役職員として、IMFの強化・発展に尽くされると共に、JCの国際活動を様々な分野でサポートしていただきました。特に1995年にはシニア・エグゼクティブ・オフィサー、2005年には書記次長に就任されるなど、全世界でのIMFの活動推進にあたり、その中心的な役割と責任を果たされました。本協議会において、後ほど、敬意と感謝の意を込めたJCの感謝状をお贈りし、皆さんとともに、ご家族共々のこれまでのご苦労を、ねぎらいたいと思います。

 国際産業別組織・GUFの組織統合について
 さて本協議委員会は金属労協の2011年闘争方針が主要議題であり、闘争方針に関して何点かにわたり議長としての認識を申し上げたと思いますが、その前に、将来的な金属労協のあり方に深く関わるIMFを含む国際産業別組織・GUFの組織統合の検討状況について触れておきたいと思います。  すなわちIMF・国際金属労連とICEM・国際化学エネルギー鉱山一般労連、およびITGLWF・国際繊維被服皮革労働組合同盟の3つの国際産業別組織・GUFの統合問題についてです。
 これは3つのGUFに加盟する主に欧米系企業労組を中心に、企業合併・買収や事業構造の変化等が複数GUFへの加盟につながっており、併せて従来のGUFの枠組みを超えた活動が要請される現実を踏まえた上で、3つの製造GUFが統合することで、グローバルレベルの活動と影響力を強化し、また効率的な財政・組織運営を目指すというものです。
本件は、3つのGUFの代表メンバーによるタスクフォース会議で検討を進めており、私もメンバーの一人として、9月のドイツでの第1回、および先週、IMF執行委員会前日にジュネーブで開催された第2回の会議に参加してまいりました。
会議の具体的内容は、本日の報告事項として、また今後の各機関会議を通じて展開し、各JC加盟産別の意見を集約していきたいと考えますが、タスクフォース会議では統合自体についての積極的な異論も無く、先週の会議では、新たな国際産業別組織として、グローバルに加盟組織全体の効果的・効率的な活動の強化につなげる方向での地域機構や部門運営のあり方を中心に論議・検討を行うと共に、持続可能な組織・財政運営を担保するための検証が行われました。  JCとしては、これまで、タスクフォース会議およびIMF執行委員会などを通して、統合に関わる様々な問題・課題を提起し、目指すべき活動および組織体制への意見反映に努めてきたところですが、概ねJCの主張は反映されつつあると考えており、また現時点において、よほどのアクシデントが無い限り統合に関する3GUFの合意の方向は既に、概ね定まったものと判断いたします。
今後、来年2月の日本での第3回タスクフォース会議で詰めの検討・論議を行うこととなりますが、JCとして、我われの主張する内容を、最終的な統合案にしっかり盛り込むべく全力を挙げてまいります。
また、この過程で、ICEM およびITGLWFの日本加盟組織とも連携して日本の対応方向を、最大限、一本化していく努力も重要と考え、既に3GUFの日本組織間の話し合いも始めたところです。
 なお今後のスケジュールは、来年2月の第3回タスクフォース会議を踏まえ、各GUFが2月から5月頃にかけて地域会議を開催し地域レベルの理解を得ていくこととなります。その際、JCとしてはIMF本部とも連携し、IMFのアジア・大洋州での会議を実質的に主導し、地域全体の対応方向を集約する役割を担う必要があると考えます。
 その後、5月21日のジュネーブでのIMF執行委員会・ICEM三役会議・ITGLWF執行委員会の3組織合同会議で統合案を確認し、以降、それぞれの組織決定を行う予定です。IMFとしては来年12月上旬に開催予定のインドネシア・ジャカルタでの中央委員会での決定を予定しており、最終的には2012年5月から6月の中で、初日に3GUFがそれぞれ臨時世界大会で組織を解散し、2日目に新組織の結成を目指すというものです。
 なおJCとして新組織へは、あくまでも現在のJC単位での加盟を前提としていますが、将来的な国際活動のあり方を中心にJC運動全般に影響する話でもあり、全体的なスケジュールを踏まえた節目節目での論議・検討を継続的に進めてまいりますので皆さんのご理解を、よろしくお願い申し上げます。

 2011年闘争の取り組み環境
 さて2011年闘争方針の具体的内容は、後ほど若松事務局長より詳細に提案いたしますが、ここで取り組み環境と、今次闘争の意義といった観点から何点か申し上げたいと思います。

●経済状況に応じ、対応を要請していく
 まず金属産業にとり、マクロ経済・雇用・産業に関わる取り組み環境が、全体として先行き不透明感が高まり、不確実性が増大する中での取り組みになるということです。
 一昨年秋の世界金融危機・世界同時不況の打撃を受けた日本経済は、2009年春以降、政府の数次にわたる経済対策や、中国・ASEANはじめ新興国を中心とする世界経済全体の回復を背景とする輸出に牽引された景気回復過程にはありますが、本年度下期以降、財政問題を抱える欧州、失業率が高止まりしデフレ懸念が高まる米国、インフレ抑制のための金融引き締めに転じた中国等の世界経済の行方、すなわち金属産業にとって海外市場の先行きが不透明感を高めており、様々なリスクを想定しておかなければならない状況にあります。
また金属産業の2010年度の企業収益は政府のエコカー補助金やエコポイント等の政策効果や輸出の拡大等により、大手企業を中心に総じて増収増益の見通しとなっていますが、下期に入り慎重な見通しが広がりつつあります。
いずれにしても日本経済は引き続きデフレ経済下にあり、日銀の見通しでも、消費者物価指数・CPIは10年度においてマイナス0.4%にとどまりますし、雇用状況も依然として厳しさが続き、来春採用予定者の現段階の内定率も深刻です。
 また7−9月期の実質GDP成長率は、エコカー補助金の終了やタバコ増税を控えての駆け込み需要、さらには猛暑の影響によるエアコンの好調等により4四半期連続のプラス成長となりましたが、10−12月期は、その反動減もありマイナス成長に陥るとの見通しとなっています。年明け以降は、新興国経済の回復などにより、一気に後退局面に陥る可能性は低いものと思われますが、取り組み環境全体が不安定で不確実との認識は払拭しきれません。  特に歴史的な円高水準で推移する現状の為替動向は、金属産業にとり、当面の企業収益への影響というよりは、この先の企業の海外生産シフト・国内空洞化、ひいては国内雇用の維持・確保への悪影響、とりわけ中小・地場企業への打撃を強く懸念せざるをえません。
為替については、各国の通貨安競争ともいえる状況に対し、「円」が翻弄されており、11月のG20・20カ国地域首脳会議において通貨の競争的な切り下げを回避することで各国の一致はみたものの、その実効性が担保されているわけではありません。
経済実態からかけ離れた現行の円高水準に対し、国内ものづくり基盤の維持・強化の観点から、政府・日銀に対して、危機感をもってその動向を注視し、状況に応じ断固たる、あらゆる対応を発動するよう強く要請したいと思います。

●政府はTPPへ参加し、農業政策の抜本改革を
 なお政府はTPP・環太平洋経済連携協定について関係国との協議を開始するとの閣議決定を行いました。明確に「参加」を表明しなかったのは残念ですが、政府として政治のリーダーシップで早期参加の道を切り開いてもらいたいと考えます。JCとして、閣議決定に先立つ11月5日に、金属産業を中心とする国内ものづくり基盤の維持・強化のための、国際競争力および雇用確保の観点から、横浜でのAPEC・アジア太平洋経済協力会議を目前に控え重大な政策課題に浮上したTPPへの早期参加表明を求める金属労協見解を組織内外に発信いたしました。
 日本は、FTA・自由貿易協定、EPA・経済連携協定の締結において立ち遅れており、金属産業をはじめ輸出型産業の国際競争力は大きく阻害されつつありますし、このままでは日本の金属産業は、国内生産拠点の海外移転、ひいては雇用喪失を加速しかねない状況にあります。我われは、世界の中で日本が目指す経済成長と国内雇用の維持・創出、国民生活向上等の観点から、TPPへの参加を強く求めます。
 なお現行のTPPでは、労働および環境に関する覚書が締結されており、労働についてはILOの中核的労働基準に一致した労働法・労働政策・労働慣行を加盟国に求めると共に、貿易と投資の奨励のための労働規制の緩和を不適切としていることを強調しておきたいと思います。併せてJCの声明では、TPPで大きな影響を受けるとされている農業について、これまでの自民党政権時代の農業政策が結果として、農業を衰退させてきた現実を直視し、むしろTPP参加を機に、農業を再活性化し、自立した強い農業へ転換する方向で農業政策の抜本改革を進めることを訴えたところです。

 2011年闘争に臨む決意
るる申し上げましたが、このよう取り組み環境を踏まえた上で、金属労協は、2011闘争にいかなる決意で臨むべきか、その考えを申し上げます。

●賃金構造維持分を確保が命題
 我われは交渉環境の厳しさは受け止めた上で、日本経済を自律的な内外需バランスのとれた成長軌道に乗せるために、何としても雇用の維持・安定と生活不安の払拭に向け、働く者への適正かつ公正な配分を求めていかなければなりません。
 雇用の維持・安定と労働条件改善をはじめとする雇用の質の向上を通して人材力の強化を図り、その人材力の向上と集積により産業・企業の健全発展・競争力強化につなげていくこと。そして産業・企業の健全発展・競争力強化で生み出した付加価値を働く者の雇用の維持・安定と雇用の質の改善に向け適正かつ公正に配分することで、この循環を回す。今次闘争をその基点としていかなければならないと考えます。併せて、いかに厳しい取り組み環境であろうとも、これ以上のデフレの進行を食い止めていかなければなりません。
 デフレの主な要因が日本経済の需給ギャップにあることは明らかです。家計のこれ以上の痛みの拡大を阻止しなければなりません。
このような観点から、金属労協は雇用確保を大前提として、働く者の生活を守り、景気の下支えを図る観点から、全ての組合で賃金構造維持分を確保することを、至上命題と位置づけます。
 なお、賃金改善については産業間・産業内の格差是正および賃金体系上のゆがみ・歪の是正の観点、さらには12月2日の連合中央委員で決定された2011春季生活闘争方針を踏まえ、低下した賃金水準の中期的な水準の復元が必要な組合を中心に、それぞれの産別方針に基づき取り組むことといたします。  連合の闘争方針は、毎月勤労統計調査での1997年と2009年の比較で、現金給与総額が5・1%減となっていることも踏まえ、取り組みにあたって「マクロ的観点から、すべての労働組合が1%を目安に賃金を含め適正な配分を求めていく。なお、産業・企業によってそれぞれおかれた環境には違いがあることについて相互に理解し合う。」としています。
 この意味は、マクロ的観点から、低下した労働条件の復元を着実に図るために、今次闘争において1%を目安に、賃金をはじめ一時金や諸手当て・企業内最低賃金等、幅広い項目への配分を求めるとの連合全体の意思と思いを示すと共に、産別の置かれた環境や現状の労働条件の実態が異なり、一律的な取り組みが困難な状況を踏まえ、それぞれの産別が主体的・自立的に、連合方針に沿って取り組みを進めるとの考えと理解します。  JC方針は、この連合方針を全面的に踏まえたものであり、強調したいのは、相場形成への波及力を踏まえれば、JCとして今次闘争では、賃金について、連合春闘全体を下支えし、継続するマクロでの賃金水準低下に歯止めをかけるために賃金構造維持分を取りきることが絶対的な責務であるということです。その上で、中小労組を中心に賃金改善に取り組む組合に対してはしっかりサポートしていくことが重要と考えます。

●企業内最低賃金協定の拡大と引き下げに取り組みます
 なお賃金水準の下支えの観点から、企業内最低賃金の取り組みの強化も重要です。金属労協は、非正規労働者の賃金を底上げするため企業内最低賃金協定の締結拡大と水準の引き上げに取り組み、さらにその成果を産業別最低賃金に連動させ、同じ産業で働く全ての働く者の賃金底上げに取り組んでいます。
 現在、企業内最低賃金協定の締結組合は1465組合であり、これはJC全体の44%となっています。締結組合は着実に拡大していますが、さらに取り組みを強化することとします。また企業内最低賃金の水準は、現状では締結組合平均で153,000円程度となっていますが、高卒初任給に準拠する水準へ着実に引き上げるため、154,000円以上、もしくは1,000円以上の引き上げに取り組みます。なお産業別最低賃金は、金属産業、すなわちJC関係が全体の8割を占めており、2010年度の金額改正では、164件全ての産業別最低賃金で引き上げを実現しました。ここで特に各都道府県で奮闘いただいた皆さんに心から感謝申し上げます。

●「すべての労働者の処遇改善」にむけ、指導・サポートをしていきます
 次に連合は今次闘争を、「すべての労働者の処遇改善」に向けた2年目の闘いと位置づけました。金属労協も、同じ職場で働く仲間との観点に立ち、労働組合の果たすべき社会的責務を認識し、引き続き、非正規労働者の公正処遇の確立に向け、まずはコンプライアンスの徹底を基点に労働組合としての関与を強め、雇用形態や労働条件・処遇等の多様性を踏まえ、より前進感ある取り組みにしていく必要があります。
 この取り組みは、いかに現状の多様な問題・課題を把握し、着実な改善を進めていくのかという現場からの視点と、産別の指導・サポート力が合わさることで、はじめて、より実効ある取り組みにつながるものと考えます。
 加えて企業業績改善を受けての一時金の取り組み強化、ワーク・ライフ・バランスの実現等、JC方針を踏まえ産別毎に要求内容を精査し、主体的に総合的な労働条件改善の取り組みを進めてもらいたいと思います。
 最後に、金属労協として、引き続き連合の「金属部門共闘連絡会議」を、より強化する方向で、具体的な共闘会議の持ち方を含め、連合との調整を進めたいと考えますし、連合「中小共闘」を重視して取り組みの前進を図りたいと思います。

 以上、金属労協として、「産業・企業の健全発展の道筋を明確にし、金属部門に働く者の雇用と生活の将来展望を切り拓く」ためにJC共闘の旗の下、全力を尽くすことを確認し、協議委員会冒頭にあたっての挨拶といたします。 ありがとうございました。