2011年闘争推進集会 パネルディスカッション要旨

パネルディスカッション

全景
コーディネータ:若松事務局長

若松英幸金属労協事務局長  2008年9月に発生したリーマンショックによって、我々ものづくり産業は生産量が半減するという、かつて経験したことのない厳しい状況に見舞われた。当時、金属労協として、即座に緊急要請の対応を行った。また我々自身も、生産調整などに対して工夫をしながら受け入れ、しのいできた。その後、中国をはじめとする新興国の発展などもあり、現在では生産や輸出はリーマンショック前の8〜9割に回復、また2011年3月期の業績も大幅に改善をする予想となっており、利益水準もリーマンショック前の半分までは回復する見通しである。

 金属労協では、昨年9月から今次闘争の方針を議論する中で、まず適正な配分を求めること、そのことによって内需を拡大させ好循環を生み出すことができるのではないかとの観点のもと議論してきた。しかしながら、職場の実態として、緊急的な内需拡大策の終了にともない生産が減少していること、先行きの不透明感、急激な円高やデフレの継続など様々な外的な懸念材料が出てきていることから、一律に賃金改善を求めることは出来ないであろうという結論に達した。特に円高については、85円を切る水準が半年続くと製造業の3割が深刻な打撃を受けるといわれている。また生産・開発拠点の海外移転が進む恐れも出てくる。東証一部の製造業は814社、これを支えている中小企業45万社が雇用を維持していけるのか、ものづくりを日本に残していけるのか、非常に重要な局面にある。過度に海外調達が進むようなことになれば、日本の中小企業には大きな打撃となる。

 この危機を乗り越えるためには、ひとえに「人」の力、「人」への投資が重要である。経労委報告の前半では、「人」への投資の重要性を説いている。しかし後半では、総額人件費の抑制など正反対となっている。我々に求められている課題は、いかに魅力ある「人」への投資を実行できるかにある。

自動車総連・相原康伸事務局長

自動車総連・相原康伸事務局長
  • 2010年前半は景気刺激策もあり、何とか乗り切ることができた。その分後半は、生産台数等、かなり苦労している。年が明けてもその状況は変わっていない。また部品企業でも大変苦労している。

  • 経営者の目線は5つ。@円高ATPPB法人税減税C環境対応D使いにくい労基法、これらを何とかして欲しいと言っている。
  • 昨年の闘争では販売の組合が一人当たりの労働の負荷が大変高まっている中、頑張ってくれた。今年もその状況は変わっていないので、昨年同様の取り組みとなることを期待している。
  • 部品企業労組については、メーカーとの賃金格差が厳然と存在する中で、その解消に向けた取り組みを、このような状況だからこそ進めていって欲しいと思っている。
  • 賃金カーブ維持の取り組みについては、その前段における賃金実態把握とその分析が非常に重要な取り組みである。JC他産別に比べて取り組みが遅れているのは事実なので、労使がその重要性・価値を認識し前に進める2011年闘争にしたい。
  • 非正規の取り組みについては、性根を据えた取り組みをしなければならない。大前提としてコンプライアンス遵守に取り組み、その先までしっかりと考えていかなければいけない。


電機連合・浅沼弘一書記長

電機連合・浅沼弘一書記長
  • 深い底からやっと頭を出したような状況である。全体として増収増益を確保し、営業利益・当期純利益の回復は著しい。しかし円高の影響は大変大きい。エコポイント、地デジの駆け込み需要の先も見えている。
  • 今次闘争での産別労使交渉では、生産拠点をどう国内に継続し発展させていくのか、またどう国内の雇用を残していくのかについて、今まで以上に深い議論をしていきたいと考えている。
  • 一時金を全体で引き上げる取り組みは、その決定方式が違う現状の中で統一的に行うのは非常に難しい。しかし業績が回復傾向にある中で、業績連動決定方式の組合と交渉方式の組合がそれぞれ相乗効果を発揮して前進していけるようにしたいと思う。また一時金の取り組みのあり方について、根本的な議論をしていきたい。
  • 情報公開の重要性は非常に認識している。しかしながら現在春闘時に開示している水準は、年齢基準は副次的なもので、本来的な意味は「職能レベル4」の数字である。昨年開示した1歳一年間差の数字も、本来的な賃金構造維持分そのものの数字ではない。必要性については充分認識しているが、その対応については非常に難しいのが現状。


JAM・斉藤 常書記長

JAM・斉藤 常書記長
  • 15の産業別部会のうち、多くの産業で昨年比増収増益となっている。ただまだリーマンショック前の水準に戻っているわけではない。
  • 公共投資が中心となっている産業では、未だ厳しくかつ先行きも見えない状況である。住宅部門の非常に厳しい状況が続いている。中国、韓国、台湾等から廉価な部品が入ってくる産業についても厳しくなっている。
  • まずは上げ幅論議から水準論議へ移行しなければならない。そのためには自分たちの賃金水準の把握が非常に重要である。賃金全数調査の精度を高めるために、継続して力を投入していきたい。
  • 昨年賃金改善を獲得する結果を出せた組合は、規模の大小ではなく、自分たちの賃金水準をしっかり把握しているところであった。賃金水準の把握は交渉において大きな力を発揮する。
  • 現在、中小は事業基盤が脆弱な中、激烈なグローバル競争にさらされている。その支援策や公正取引の確立など、政策・制度の取り組みは、側面支援としてしっかりやっていく。

基幹労連・工藤智司事務局長

基幹労連・工藤智司事務局長
  • 鉄鋼生産量は急回復しており、リーマンショック前の水準に戻ってきた。
  • 非鉄についても需要が回復し、資源価格も安定している。
  • 造船受注も、高水準で推移する予測となっているが、価格低迷の懸念がある。航空宇宙については、民需は好調となっている。円高が企業業績に与える影響が大きい。
  • 2010年闘争で60歳以降の就労確保に関する労使検討の場の設置がほとんどの組合でできたものの、中小で一部まだ残っているので、これを要求していく。
  • この1年労使で様々な課題について議論してきた。それを受けて本年2月の中央委員会で「60歳以降安定雇用に向けた検討の進め方」について提起する。そのポイントは8つ。@希望者全員に対する年金支給開始年齢までの雇用の場の確保、A生計費の確保と成果に見合う処遇の両立、B働き方を重視しつつも生活環境や年齢等の配慮すべきポイントを踏まえた検討、C一貫した福利厚生等諸制度の適用と組合員籍の維持、D適切な退職金支給時期、Eクリアすべきハードル、将来の姿とそれに向けた課題を踏まえた検討、F目的は「60歳以降の安定雇用」確保G2013年度の退職者より実施可能な制度、である。


全電線・中條弘之書記長

全電線・中條弘之書記長
  • 銅電線出荷量については前年比微増だが、非常に低い水準である。住宅や公共投資が増えてこないと厳しい。光関連についても公共通信部門での激減が響き、前年比でも出荷量減少の予測になっている。総合すると、円高の影響もあり、売上高は増えているものの増収にはなかなか結びつかない状況である。
  • 労災付加補償については、JC基準に基づき死亡・1~3級3400万円を要求していくが、事前の産別労使交渉においては非常に厳しく、なかなか経営側の理解を得られない状況になっている。JC共闘の他産別の力も借りながら、取りこぼしのないように進めていきたい。

若松事務局長・まとめ

 昨年、宇宙飛行士の毛利氏にお会いしたとき、これから日本が生きる道は、地球を守る、人類を守る技術開発であり、ものづくり産業にチャレンジして欲しいと言われた。日本の社会システムの基盤を支えるのは、今後も我々ものづくり産業であることは間違いない。国内にものづくり基盤を残すことは最重要課題である。近い将来に来るであろう大きな産業構造の転換を乗り越えるため、魅力ある処遇システムによって人を呼び込み、絶えず人を育て続けることが必要である。新成長戦略も早く実現させなければならない。
 2年続けての賃金構造維持の取り組みとなる。配分については、一時金をはじめとする総合労働条件の中で求めていく。いずれにしても毎年一回労使が真摯に交渉することは、これまでもこれからも非常に重要なことである。また、我々金属労協が春闘におけるトップランナーとして、重要な役割責任を果たさなければならない。お互いに一致協力して今次闘争を進めていきたい。