2004年闘争評価と課題・中間まとめ
2004年6月29日
金属労協/IMF−JC
第7回中央闘争委員会
◆目次◆

T.2004年闘争の経過

1.要求の策定について
2.闘争の経過と労使の主張
U.取り組み結果

1.賃 金

2.一時金
3.年間総労働時間短縮や働き方の改善に向けた取り組み
4.60歳以降の就労確保
5.その他の取り組み
V.2004年闘争の評価と課題
1.2004年闘争の全体評価
2.具体的な取り組みの評価と課題
3.今後のJC共闘の課題

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T.2004年闘争の経過


 2003年11月28日に、第46回協議委員会を開催し、2004年闘争の取り組み方針「2004年闘争の推進」を決定しました。

1.要求の策定について

(1) 情勢認識について


 2004年闘争にあたっては、日本経済は緩やかな景気回復基調となっているものの、国際競争の熾烈化によって、産業・企業ごとの業績や企業体力、今後の展望にバラツキが出ているとの基本認識のもとで、以下の情勢認識に基づいて要求立案を行いました。
・日本経済は、日銀の量的金融緩和政策の強化、中国などアジア向けを中心とする輸出の拡大、設備投資の回復傾向などにより、2002年春を底として緩やかな景気回復基調となっている。
・消費者物価指数は、2002年2月には前年比△1.6%に達していたが、2003年9月には△0.2%にまでマイナス幅が縮小している。
・企業業績は、産業・企業ごとのバラツキは大きいものの、全体としては回復傾向にある。
・ 雇用情勢は、完全失業率、有効求人倍率とも改善しつつあるが、失業期間の長期化傾向は改善していない。また、雇用形態の多様化がさらに進行することが予想される。
・金属産業にふさわしい賃金水準の実現が課題になっているが、金属産業の賃金水準は全産業平均との比較では若干上昇しているものの、依然として95%程度の低水準となっている。


(2) 2004年闘争の位置づけ

 われわれは、上記の情勢を踏まえて、右肩上がりの経済成長時代に可能であった全産業を横断的に網羅する一律的な賃金引き上げは困難であるとの認識に立ちながらも、「ものづくり産業」「金属産業」という共通の基盤に立ち、JC共闘の強化に努めつつ、2004年闘争に取り組むこととしました。
 取り組みにあたっては、これまでに確認した「JC共闘の基本的な取り組み方向」を見据えつつ、2004年闘争を日本の基幹産業である金属産業にふさわしい「総合労働条件の構築」を目指す取り組みと位置づけました。各産別はこの考え方に基づき、産業・企業の実態を踏まえた重点取り組み課題を掲げて総合労働条件の改善に取り組むこととしました。
具体的には、従来以上に個別賃金水準を重視した取り組みを進めながら、すべての組合で賃金構造維持分の確保を図り、さらに産業・企業の状況を踏まえて、賃金・一時金など総合労働条件の改善に取り組みました。また、「JCミニマム(35歳)」については、35歳の賃金を勤続年数・職務評価などにかかわらず「これ以下をなくす」ために、将来的に社会的な規範力を発揮できる仕組みづくりを強めていくこととしました。



(3) 具体的な要求と取り組み
1.賃金・労働条件
(1) 賃 金
@JCミニマム運動の推進

@.「JCミニマム(35歳)」の確立
・金属産業で働く勤労者(35歳)の賃金の最低到達基準を「JCミニマム(35歳)」として示すこととします。
・「JCミニマム(35歳)」は、210,000円とします。

A.企業内最低賃金協定締結の強化
・金属産業の18歳最低賃金の金額水準は、149,500円以上とし、全単組の締結をめざします。

B.法定産業別最低賃金の取り組み強化
・金属産業に働く勤労者全体の賃金水準の底支えを図るため、法定産業別最低賃金の金額改正、新設に取り組みます。

A賃金構造維持分の確保と賃金制度確立
・金属労協傘下のすべての組合は、同一銘柄における賃金水準の維持・確保を図るため、賃金構造維持分確保の取り組みを強力に進めます。
・定期昇給(相当)分込みで取り組む組合については、産別指導のもとで、実態を踏まえて対応することとします。なお、定期昇給(相当)分は、金属労協全体として2%・6,000 円程度とします。
・銘柄ごとの個別賃金水準を示すことができる賃金制度確立に向けて取り組みを進めます。

B金属産業にふさわしい賃金水準の実現
・賃金格差の改善については、産業・企業の状況を踏まえて、主体的に賃金水準の引き上げの取り組みを行うこととします。

C金属労協における標準労働者の目標水準
@.標準労働者の到達目標

*集計対象A組合(1,000人以上)の賃金水準に基づき、取り組み目標として設定
・高卒35歳・勤続17年・技能職を309,000円以上
・高卒30歳・勤続12年・技能職を266,000円以上

A.標準労働者の最低到達目標
*金属産業における賃金格差の圧縮を図るため、全単組の到達をめざす水準として設定
・上記、標準労働者の到達目標の8割程度


(2) 一時金水準の安定確保に向けた取り組み強化
・一時金の要求は、年間5カ月を基本とします。
・年間総賃金の安定確保に向けて、一時金に占める固定的支出を念頭に、最低でも年間4カ月を確保することとします。


(3) 年間総実労働時間短縮を通じた雇用の維持・確保の取り組みの推進
@年間総実労働時間1,800時間台達成に向けた取り組み

・これまでの基本的な考え方を堅持し、各産別
・単組の実態を踏まえ、年間総実労働時間1,800時間台実現に向けた取り組みをすすめます。
A労働時間管理の徹底
・出退勤管理の方法や労働時間の把握方法について労使協議を図るなど、労働時間管理徹底の取り組みを行います。


(4) 60歳以降の就労確保
・年金満額支給開始年齢が62歳に引き上げられることを踏まえ、これまで確認してきた3原則を基本に、強力に取り組みを展開していくこととします。
<60歳以降の就労確保の3原則>
・働くことを希望する者は、誰でも働けること。
・年金満額支給開始年齢と接続すること。
・60歳以降就労する者については、引き続き組織化を図ること。


(5) その他の取り組み
@退職給付制度の整備
・退職金、企業年金などの退職給付制度の改定を行う場合は、制度改定によって給付水準が低下することのないよう、等価転換の原則を基本とした制度改定を行うこととします。
・また、産業・企業の実態を踏まえて、退職給付水準の引き上げに取り組むこととします。

A労災ならびに通災付加補償
・金属産業に働く者の死亡ならびに障害等級1〜3級(退職)の付加補償水準として到達すべき3,200万円に未到達の組合は、当面3,200万円への引き上げをめざした取り組みをすすめます。
・通勤途上災害についても、労災に準じて取り扱うことを基本に、取り組みます。

B仕事と家庭の両立支援
・仕事と家庭の両立支援を図るため、「次世代育成支援対策推進法」に基づいて使用者に義務付けられた行動計画について、労使話し合いの場を持つなど、各産業の実情に応じて取り組みを行います。
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2.政策・制度、産業政策の取り組み
(1) 景気回復の腰折れ回避に向けた政策の実現

 景気回復傾向が拙速な金融引き締めによって腰折れすることのないよう、物価の動向を注視しつつ、当面、現行水準での量的金融緩和の継続を求めていきます。具体的には、マネタリーベースの前年比伸び率を、当面、20%程度で維持していくよう、引き続き政府に要請していきます。
 為替の急激な変動と過度な円高が、景気回復に打撃を与えることのないよう、国際協調に基づく為替の安定を図ります。あわせて、中国経済の安定と国際金融体制の安定を図るため、中国の人民元についても、完全変動相場制移行に向けて、国際的な環境整備と中国政府への働きかけを行っていくよう政府に対し求めていきます。

(2) 雇用対策3本柱の実現と若年者雇用の創出 
 景気回復のなかにあっても、雇用保険の抜本的拡充、「コミュニティ・スキルアップ・カレッジ」の全国展開、「美しい日本再生事業団」の創設という雇用対策3本柱の重要性は変わっていません。政府に対し、引き続きその実現を求めていきます。あわせて、若年者に対する長期雇用の創出に向けた政策を確立し、実現を図ります。

(3) わが国経済の本格的再生に向けた構造改革の推進 
 国内ものづくり産業の基盤強化を図るべく、ものづくり基本法の具体化に向けた取り組み強化を政府に対し働きかけていくとともに、金属産業労使会議や日本経団連との懇談などの場において、国際競争力強化の具体的な方策に関し、労使の意見交換を深め、合意形成をめざしていきます。さらに、戦略的なものづくり教育構築の一環として、小学生にものづくりや科学の楽しさを直接訴えかける活動を展開します。具体的には、ものづくりや科学分野の工作・実験などを小学生とともに行う、「ものづくり教室(仮称)」を労働組合として開催していきます。 さらに、わが国経済の本格的再生に向け、構造改革の推進を図ります。具体的には、
○郵政3事業民営化
○道路関係四公団の民営化
○公共事業改革
○公的年金改革をはじめとする社会保障制度改革
などに関し、金属労協としての発言をさらに強化していきます。
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2.闘争の経過と労使の主張

(1) 闘争の経過
@前段の取り組み

・「2004年闘争シンポジウム」(2003年11月12〜13日)を開催し、「第2次賃金・労働政策(仮称)中間報告」成案に向けた課題提起を行うとともに、2004年闘争方針立案のために金属労協および各産別の検討状況について理解を深めました。

A闘争方針決定後の取り組み
・ 「2004年闘争中央討論集会」(2004年1月13〜14日)を開催し、「2004年闘争ミニ白書」作成のための論議を行い、さらに各産別の取り組みについて相互に理解を深めました。
・「2004年闘争推進集会」(2004年3月5日)を開催し、各産別の交渉状況を報告した上で、「『人』こそ経営の根源」をテーマにパネルディスカッションを行い、「人」こそが企業の命運の鍵を握るものとして、交渉の最終局面に迎えての意思結集を図りました。

B戦術委員会の開催
・第1回戦術委員会(2003年12月15日)では、日本経団連「経営労働政策委員会報告」(12月16日発表)に対する見解を、12月17日に開催する第1回中央闘争委員会において明らかにすること、要求提出は速報対象組合を中心に2月第3週までに行うことなど、大綱日程を確認しました。
・第2回戦術委員会(2004年1月21日)では、日本経団連「経営労働政策委員会報告」に対して、「人」への投資を重視すべきことなどの主張し、またJC共闘の集中回答日を3月17日(水)とすることを確認しました。
・第3回戦術委員会(2004年2月18日)では、要求状況の把握を行うとともに、第1次交渉ゾーン(2月23日〜3月5日)に交渉に臨む基本姿勢を確認しました。
・第4回戦術委員会(2004月3月5日)では、これまでの交渉経過を踏まえて、第2次交渉ゾーン(3月8日〜3月16日)に交渉に臨む基本姿勢を下記のとおり確認しました。
○JCミニマム運動
・「JCミニマム(35歳)21万円」は、これ以下をなくす運動を強力に追求する。
・すべての組合で企業内最低賃金協定の締結をめざす。この取り組みを基礎として、法定産業別最低賃金の改正と新設の取り組みを強力に展開する。
○賃 金 
・すべての組合は賃金構造維持分を確保し、現行賃金水準の維持を果たす。
・産業間・企業間の格差是正の観点からベアに取り組む組合をJC共闘全体で支え、賃金の引き上げを実現する。
○一時金 
・業績の回復・向上に応じて、積極的に水準引き上げを実現する。また、年間総賃金安定確保の観点から、最低でも年間4カ月を確保する。
○雇用と働き方
・公的年金満額支給開始年齢引き上げを踏まえた60歳以降の就労確保のための制度構築や、次世代育成支援対策推進法への対応などに強力に取り組む。
○労働時間管理
・出退勤管理の方法や労働時間の把握方法について労使協議を図るなど、労働時間管理徹底の取り組みを推進する。
・第5回戦術委員会(2004年3月12日)では、交渉の最終局面に臨む各産別の最終方針を把握しながら、最終方針に沿った回答を引き出すべく、不退転の決意で交渉を展開していくことを確認しました。
・第6回戦術委員会(2004年3月15日)では、交渉の最終局面を迎えて、相互に情報交換を行いました。
・第7回戦術委員会(2004年3月17日)では、集中回答日12時現在の回答状況に対して、金属労協全体として一定の成果を引き出すことができたものと受け止めつつ、JC共闘体制を堅持し、交渉を継続する企業連・単組を支えていくこと等を確認しました。
・第8回戦術委員会(2004年4月2日)では、3月末段階での回答状況を踏まえて、引き続き共闘体制を維持しつつ、産別指導のもと4月月内の解決をめざして粘り強く団体交渉を展開していくこと等を確認しました。
・第9回戦術委員会(2004年4月26日)では、4月下旬段階での回答状況を踏まえて、産別指導のもとで解決の促進を図ることを確認しました。
・第10回戦術委員会(2004年6月7日)では、2004年闘争を集約し、6月29日開催の第7回中央闘争委員会をもってJC共闘の闘争諸機関を解散することを確認した。

(2) 日本経団連の主張と金属労協の対応
@日本経団連「経営労働政策委員会報告」(2003年12月16日)

・日本経団連は、2003年12月16日、「高付加価値経営と多様性人材立国への道−いまこそ求められる経営者の高い志と使命感−」をテーマに、「経労委報告」を発表しました。このなかでは、大規模事故の頻発に対して「現場力」の低下を指摘し、その原因に、「高度な技能や知的熟練を持つ現場の人材の減少、過度の成果志向による従業員への圧力」、「長期雇用慣行や雇用維持について企業の努力が乏しい」ことを挙げています。しかし、具体的に述べられた雇用、処遇政策では、雇用の流動化の促進、有期雇用・派遣労働の規制緩和と「雇用のポートフォリオ」の推進、裁量労働・労働時間規制の適用除外の拡大などの主張が展開されており、理念と具体的な政策が全く矛盾した内容となっています。また、賃金については、「賃金水準の調整が喫緊の課題」、「一律的なベースアップは論外」、「ベースダウンも労使の話し合いの対象になりうる」などの主張を続けています。

A金属労協「『現場力』を高める経営をめざせ!−日本経団連「経営労働政策委員会報告」に対する見解−」(2003年12月17日)
・金属労協は、日本経団連「経労委報告」に対して、「『現場力』を高める経営をめざせ!」と題する見解を2003年12月17日に発表しました。
・「見解」では、「『現場力』の低下は、設備投資の先送りによる設備の老朽化を背景に、過度な人員削減による一人あたりの仕事量の増大、新規雇用の抑制や非典型労働者の増加などにより、高度熟練の技術・技能、現場に蓄積する情報や知恵、ノウハウなどが継承・育成されていないことなどによるものである」ことを指摘し、「職場の実態は差し迫っており、人材育成を含めた「人」への投資を重視し、金属産業の競争力の源泉である技術・技能の継承・育成と一層の高度化を図るべく、早急な対応を図ることが必要である。」ことを提起した上で、5つの点について、見解をまとめました。(要旨)
@.賃金の国際比較について
 日本経団連が2003年版の経労委報告で、日本の賃金水準は「先進国のなかでもトップレベル」と主張したことに対して、金属労協として公開質問状を提起したが、2004年版では「世界のトップレベル」であるとの主張になっており、金属労協の主張を事実上受け入れたものである。本来、賃金水準はそれが生み出す付加価値との関係で評価すべきであり、単純にわが国の賃金が新興工業国や発展途上国よりも高いことを理由に「賃金水準の調整」を主張すべきではないことは言うまでもない。
A.賃金水準について
 日本経団連の「賃金水準の調整が喫緊の課題」、「一律的なベースアップは論外」、「ベースダウンも労使の話し合いの対象になりうる」などの主張は、企業収益が過去最高を記録するなど、大幅な改善を示す企業も多いなかで、きわめて不適切と言わざるを得ない。経営者が果たすべき役割は、雇用の維持・確保を図りながら、少なくとも賃金水準を維持し、さらに産業・企業の状況を踏まえて、賃金・一時金など総合労働条件の改善を図ることである。国際競争力の源泉である「現場力」を強化するためには、人材への投資が不可欠である。
B.賃金制度改定について
 賃金制度の改定は、通年的な労使協議の性格を持つものであり、制度内容はもとより、運用の透明性・公平性、結果に対する苦情処理など幅広い問題について、労使が慎重に話し合いを尽くした上で合意を図るものである。労働組合が現行制度に基づく賃金改定を交渉しようという時期に、交渉の基本となる制度改定を提案し、拙速な協議・合意を図ろうとすることは、労使の信頼関係を損なうものと言わざるを得ない。
C.多様な人材の活用について
 多様な働き方を推進するためには、勤労者ニーズにあった選択肢が拡大されることが前提である。そのためには社会的合意形成によって均等待遇を実現していくことが必要であり、同時に、雇用のセーフティーネットを確立しなければならない。
D.産業別最低賃金について
 産業ごとの基幹的労働者に適用される産業別最低賃金は、当該産業労使がイニシアティブを発揮しながら、その産業の実態を踏まえた適正な最低賃金を設定することにより、全産業のすべての労働者を対象とする地域別最低賃金を補完し、産業ごとのより実効性の高いセーフティーネットの構築と事業の公正競争の確保に寄与している。雇用形態の多様化が進行するもとで、賃金のセーフティーネットとしての役割も増しており、今後とも産業別最低賃金の継承・発展を図っていかなければならない。

B 金属労協「2004年闘争ミニ白書」(2004年2月2日)
・金属労協は、2004年2月2日の第17回書記長会議において、「2004年闘争ミニ白書」を確認し、発表しました。
・ミニ白書では、@.最近の人件費の動向と労働分配率、A.消費の動向と貯蓄率、B.成果主義の現状と問題点、C.賃金の国際比較、D.労働時間管理とエグゼンプト、E.多様な雇用形態、F.JCミニマムと産業別最賃、G.60歳以降の就労確保、H.仕事と家庭の両立支援、I.適正な成果配分で「現場力」の強化を、の10の視点から、日本経団連の主張に対して、詳細な反論を行いました。
・2003年闘争で行った日本経団連への公開質問状では、マクロベース(GDPベース)での労働分配率の動向や賃金の国際比較などについて見解を質しました。公開質問状に対する日本経団連の見解とその後の対応を紹介し、金属労協の考え方を解説しました。


(3) 企業別交渉における労使の主張
@ 会社側の主張

 会社側は、産業によって違いはあるものの、将来を予知し難い時代にあっては、競争の優位性確保や体質強化が最優先課題であるとして、人件費を含むコスト競争力の強化が必要であることを強く主張しました。
・激化するグローバルな競争に勝ち抜くには、高収益体質への転換が不可欠であり、諸施策の推進とあわせて、人件費を含めた固定費の圧縮・コスト削減にも継続した取り組みが必要。
・社会保障制度における負担増など、賃金以外にも総額人件費の上昇要因を抱えており、将来的に多大な影響が予想される。
・業績はいまだ回復途上にあり、不確定要因も多く、今なお楽観は許されない。
・賃金水準を維持するだけでも大変な負担であり、現行賃金水準の高さも課題と認識している。
・業績反映は一時金で配分すべきと考えるが、未だ業績回復途上であることや、企業をとりまく環境を考慮した慎重な検討が必要である。
・60歳以降の就労確保は、希望者全員の再雇用は困難である。

A 労働組合の主張
 会社側の主張に対して、金属労協傘下の各組合は、競争力の源泉である「人」への投資という観点から、今後とも国際競争力を維持・強化していくためには、組合員の生活安定とその成果の適正配分が不可欠であるとして、総合労働条件の改善の必要性を強く主張しました。
・ 「人」が持つ意欲・活力が産業・企業の発展の原動力である。
・賃金制度維持の要求は、組合員のモラールアップや、確かな業績回復、デフレ脱却に向けた個人消費の拡大などを勘案した上での、きわめて控えめなギリギリの要求である。
・ 業績の回復に向けて懸命に協力・努力している組合員に応えるためにも、業績・成果に見合う一時金水準への対応を。
・雇用の維持創出は労使の最優先すべき課題であり、「自らの職場から失業者は出さない」との決意のもと、労使協議のさらなる充実を図る必要がある。
・年金の支給開始年齢引き上げはすでに現実のものとなっており、組合員の不安を払拭する意味でも、60歳以降就労の仕組みをつくることが急務である。
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U.取り組み結果

1.賃 金

(1) JCミニマム運動(JCミニマム(35歳)、企業内最低賃金協定、法定産業別最低賃金)における最低賃金協定の締結
@集計対象A組合の締結状況

・集計対象A組合(組合員1,000人以上)では、昨年と同数の51組合が18歳最低賃金協定を締結し、このうち1組合が水準の引き上げを図ることができました。また、昨年を上回る9組合が全従業員を対象とした最低賃金協定を締結し、このうち2組合が水準を引き上げることができました。
2004年闘争 2003年闘争(最終)
A組合/65組合
(1,000人以上)
18歳最賃協定締結組合数
うち昨年水準に上積みした組合
51組合
1組合
51組合
16組合
全従業員対象最賃協定締結組合数
昨年水準に上積みした組合
9組合
2組合
7組合
1組合
* 全体集計は7月末に把握。

(2) 賃金構造維持分の確保と賃金制度確立
@集計対象組合

・集計対象A組合(組合員1,000人以上)では、65組合すべての組合で賃金構造維持分を確保し、現行の賃金水準を維持することができました。
・集計対象B組合(同300〜999人)では、68組合中67組合(昨年同時期:86組合中84組合)が回答を引き出しています。回答引き出した組合のうち、現時点で賃金構造維持分を確保していると判断できる組合は53組合・79.1%(昨年同時期:66組合・78.6%)となり、昨年と同程度の組合で賃金構造維持分が確保できました。
・集計対象C組合(同299人以下)では、59組合中53組合(昨年同時期:68組合中62組合)が回答を引き出しています。回答引き出し組合のうち、現時点で賃金構造維持分を確保していると判断できる組合は36組合・67.9%(昨年同時期:44組合・71.0%)となり、昨年を若干下回ることになりました。
2004年闘争 2003年闘争(同時期)
A組合
(1,000人以上)
組合数
回答引き出し組合
賃金構造維持分確保
65組合
65組合
65組合
66組合
66組合
66組合
B組合
(300〜999人)
組合数
回答引き出し組合
賃金構造維持分を確保していると
判断できる組合
賃金構造維持分が
確保できなかった組合
未確認組合
68組合
67組合
53組合

6組合

8組合
86組合
84組合
66組合

18組合
(未確認組合を含む)
C組合
(同299人以下)
組合数
回答引き出し組合
賃金構造維持分を確保していると
判断できる組合
賃金構造維持分が
確保できなかった組合
未確認組合
59組合
53組合
36組合

8組合

9組合
68組合
62組合
44組合

18組合
(未確認組合を含む)


A全体集計
・全体集計(構成組合3,559組合)では、要求提出を行った3,100組合のうち、2,669組合・86.1%の組合が回答を引き出しており、昨年同時期の81.1%と比較して、回答引き出し時期を若干早めることができました。
・現時点で賃金構造維持分確保の有無を判断できる1,763組合のうち、賃金構造維持分・定期昇給を確保した組合は1,428組合・81.0%となり、昨年と同程度の組合で確保することができました。一方、賃金構造維持分・定期昇給を確保できなかった組合は335組合・19.0%となり、昨年と同程度になっています。
・一方、回答引き出し時点においても賃金構造維持分が明確でない組合は、昨年の40.7%からは改善したものの、33.9%に及んでいます。
2004年闘争 2003年闘争(同時期)
構成組合
要求提出組合
回答・集約組合
3,559組合
3,100組合
2,669組合
3,620組合
3,036組合
2,461組合
賃金構造維持分確保の有無を判断できる組合
賃金構造維持分・定期昇給を確保した組合
賃金構造維持分・定期昇給を確保できなかった組合
1,763組合
1,428組合
335組合
1,459組合
1,164組合
295組合


B「賃金構造維持分・定昇制度」
・全体集計における「賃金構造維持分・定昇制度」についての調査では、「賃金構造維持分・定昇制度」が労使確認されている組合が680組合、労使確認されていないが組合にて把握・推計できる組合が1,218組合となっています。昨年と同様に、5割以上の組合で労使または労働組合で確認されています。
2004年闘争 2003年闘争(同時期)
労使確認されている組合
労使確認されていないが組合にて把握・
推計できる組合
680組合
1,218組合
557組合
1,364組合


(3) 金属産業にふさわしい賃金水準の実現
@集計対象A組合

・集計対象A組合では、自動車総連傘下の1組合が、ベアを含む満額回答を引き出しました。
2004年闘争 2003年闘争
A組合(1,000人以上) ベア獲得組合 1組合 1組合

A全体集計
・ 全体集計では、現時点で純ベア確保と判断できる組合が101組合となりました。
2004年闘争 2003年闘争(同時期)
ベア獲得組合 101組合 103組合

Bその他
・基幹労連・鉄鋼部門の中期賃金改善の取り組みは、基本賃金の引き上げが具体的に約束されてはいないものの、今後の労働条件向上に向けた経営側の意思が表明され、労使検討の場が設置されました。


(4) 中小労組の取り組み
・全体集計の定昇込み平均賃上げを規模別に集計した結果、すべての規模の組合で昨年の賃上げ額を上回ることとなり、とりわけ300人未満の組合の引き上げ額を改善することができました。
組合員規模 2004年闘争 2003年闘争(同時期) 対前年差
1,000人以上 5,143(100.0) 4,958(100.0) 185
300〜1,000人 4,435(86.2) 4,248(85.7) 187
300人未満 3,645(70.9) 3,413(68.8) 232
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2.一時金

@集計対象A組合
・集計対象A組合では、交渉で決定する45組合のうち、月数または金額で昨年実績を上回った組合が31組合、横ばいが7組合、下回った組合が7組合となりました。また、業績連動によって決定する組合が19組合へと増加しました。
2004年闘争 2003年闘争
A組合
(1,000人以上)
交渉で決定する組合
月数または金額で昨年実績を
上回った組合
横ばい
下回った組合
業績連動により決定する組合
45組合
31組合

7組合
7組合
19組合
48組合
26組合

10組合
11組合
15組合

A全体集計
・全体集計における回答・集約状況は、年間5カ月以上または半期2.5カ月以上の組合は306組合・15.7%となり、昨年同時期の215組合・11.4%から増加しました。また、金属労協の最低獲得水準である年間4カ月または半期2カ月を下回る組合は771組合・39.4%となり、昨年同時期の873組合・46.4%から改善することができました。
・全体集計で昨年実績を月数または金額で上回った組合は1,029組合、横ばいの組合が381組合、下回った組合が410組合となりました。業績のバラツキを反映して2割程度の組合が昨年実績を下回ることとなりましたが、5割以上の組合が昨年実績を上回り、全体としては一時金水準の回復・引き上げを果たすことができました。
2004年闘争 2003年闘争
(同時期)
年間5カ月以上または半期2.5カ月以上
年間4.5カ月以上5カ月未満または
半期2.25カ月以上2.5カ月未満
年間4カ月以上4.5カ月未満または
半期2カ月以上2.25カ月未満
年間4カ月未満または半期2カ月未満
306組合
288組合

451組合

771組合
215組合


640組合

873組合
昨年実績を月数または金額で上回った組合
横ばいの組合 −
下回った組合
1,029組合
381組合
410組合


・また、業績連動方式によって決定する組合は118組合となっており、昨年の69組合から増加しています。
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3.年間総実労働時間短縮や働き方の改善に向けた取り組み
・自動車総連、JAM等を中心に年間総実労働時間短縮や働き方の改善に向けた取り組みが展開されました。その結果、労働時間の現状と課題について労使の共通認識を得るとともに、長時間労働の是正や年休取得増などについて、産別・単組の実態を踏まえた前進が図られています。

4.60歳以降の就労確保
・60歳以降の就労確保については、金属労協全体として公的年金満額支給開始年齢引き上げを踏まえた取り組みを強化していますが、基幹労連では今次闘争において精力的な取り組みを推進した結果、実質的に年金満額支給開始年齢と接続した制度を導入することができました。
・金属労協全体では1,755組合が産別方針に沿った制度導入を果たしています。

5.その他の取り組み
(1) 退職給付制度の整備

・集計対象A組合では、基幹労連・非鉄部門の傘下組合が、退職金の引き上げを行いました。

(2) 仕事と家庭の両立支援
・集計対象A組合では、電機連合、JAMの傘下組合で、次世代育成支援対策推進法への対応として労使協議の場を設置することができました。
・さらに、電機連合では、配偶者出産休暇5日の実現、キャリア開発支援のための労使協議の場の設置をすることができました。
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V.2004年闘争の評価と課題


1.2004年闘争の全体評価

(1) 2004年闘争におけるJC共闘の取り組みスタンス

 2004年闘争は、日本経済が回復基調を強めつつも、依然としてデフレ状態が続く下での取り組みとなりました。金属産業の状況は、全体として業績回復傾向にあるものの、産業・企業ごとにバラツキが大きく、国際競争の更なる激化が懸念されました。
 このように、明るさの見え始めた日本経済を背景としながらも、産業・企業ごとに大きく状況が異なるなかで、業績回復の成果をいかに労働条件全体に反映するのか、また、産別の主体性を尊重しつつ、JC共闘の統一性を確保した取り組みをいかに構築するかが課題となりました。
 2004年闘争では、JC共闘の基本的な取り組み方向を踏まえつつ、「ものづくり産業」「金属産業」という共通の基盤に立ちながら、競争力の源泉である「人」への投資という観点から、日本の基幹産業である金属産業にふさわしい総合労働条件をめざすというJC共闘の考え方を共通のものとしました。これを受けて各産別は、JC共闘の考え方を踏まえながら、産別ごとの主体的な取り組みによって、産業・企業の実態を踏まえた重点課題を掲げて総合労働条件の改善に取り組むこととしました。
金属労協が共闘の考え方や取り組み方向を明確にし、各産別が実態を踏まえて主体的にその実現に最大限努力していくという共闘の姿を示したことは、産業・企業ごとの違いが拡大し、統一要求による共闘が困難になるなかで、今後のJC共闘の方向について一定の整理につなげることができたものと考えます。今後、こうした取り組みを踏まえて、JC共闘における総合労働条件改善の取り組みの位置づけや組み立て等について、さらに検討していかなければなりません。

(2) JC共闘と各産別の具体的な取り組みについて

 具体的な取り組みは、個別賃金水準重視の取り組みによる賃金構造維持分の確保、JCミニマム運動、一時金の最低獲得水準など、賃金・労働条件の下支えの取り組みをJC共闘の柱とし、各産別・単組は、賃金構造維持分の確保に加えて、それぞれの実態を踏まえて重点課題を掲げて取り組みました。
 電機連合では、次世代育成支援対策推進法への対応、配偶者出産休暇5日の確保、キャリア開発支援に重点を置きました。自動車総連では、単組ごとの実態を踏まえながら、ベア要求や一時金水準の引き上げ、労働時間や働き方の改善などに取り組みました。JAMでは、中小労組における賃金構造維持分の確保と一時金水準の引き上げに重点を置いた取り組みとしました。基幹労連では、60歳以降の就労確保を共通課題として取り組みを推進し、鉄鋼部門においては中期賃金改善を掲げて取り組みました。全電線では、賃金構造維持分の確保と一時金の年間4カ月確保に全力を挙げる取り組みとしました。
 産別ごとに重点の置き方に違いはあるもの、JC共闘の共通課題である賃金・労働条件の下支えによって生活の安定を図りながら、業績回復等の成果を適正に配分するという考え方のもとで、金属産業で働く勤労者にふさわしい条件整備をめざすという総合労働条件闘争を展開できたものと受けとめます。

(3) 闘争のすすめ方
@日程配置

今次闘争において、連合は中小・地場組合のための要求目安やヤマ場の設定によって、中小・地場共闘の強化に重点を置いた取り組みを展開しました。一方、金属労協は、連合の全体的な日程配置の中で、JC共闘として主体的に3月17日を集中回答日に設定し、共闘機能を発揮すべく、交渉状況の把握を行いつつ、取り組みを推進しました。
数年間ベア要求を見送っていることから、賃金構造維持分・定期昇給が制度上確保される場合や、一時金を業績連動によって決定する場合などにおいては、労使交渉のあり方が変化しており、JC共闘にも新たな役割が求められています。しかしながら、集中回答日を設定し、それまでに各産別・企業連・単組が、解決に向けて精一杯の交渉を推進することは、共闘の枠組みとして基本的に必要なことと考えます。今後ともこうした日程配置の枠組みを堅持した上で、変化に対応した共闘強化を図るべく、闘争戦術、各種集会の持ち方等について、効果的な配置への見直しを図っていきます。

A連合金属部門としてのJC共闘の役割と責任
 金属労協は、JC共闘の視点だけではなく、連合金属部門を実質的に担う共闘組織として取り組みを推進しました。その結果、賃金構造維持分の確保、一時金水準の改善などの成果を引き出したことは、金属部門として一定の役割を果たすことができたものと考えます。しかし、連合全体の部門共闘の推進については、未だ多くの課題を抱えているだけに、先行的な取り組み実績を持つJC共闘としても、一層の役割発揮に向けて取り組みの強化を図っていかなければなりません。

(4) 回答に対する全体的受け止め

 交渉において経営側は、経済の先行き不透明感や国際競争の激化に対応したコスト競争力強化が最優先課題であると主張し、国際競争力強化のためには「人」が重要であるという認識を示しながらも、具体的な要求項目については慎重な姿勢をとり続けました。
 このためわれわれは、金属産業が国際競争を勝ち抜くためには、「人」への投資が不可欠であり、生活の安定を図りつつ、業績回復を果たした組合においては、その成果の適正配分が必要であることを強く主張しました。
 今日までに引き出された集計結果からすると、産別ごとに取り組み内容の違いはあるものの、JC共闘全体として、賃金構造維持分を確保し、一時金水準の改善や60歳以降の就労確保など、総合労働条件改善を果たすことができたと受け止めます。
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2.具体的な取り組みの評価と課題

(1) 賃 金

@ JCミニマム運動

 JCミニマム運動は、「JCミニマム(35歳)」、最低賃金協定、法定産業別最低賃金の3つの取り組みを連動させることによって、賃金水準の低下傾向や賃金格差の拡大への対応、雇用形態の多様化に対応した均等待遇確立を図る目的で、2003年闘争からJC共闘の柱として取り組みを開始しました。
 「JCミニマム(35歳)」は、各産別が全組合員レベルで実態把握など、それぞれの取り組みによって210,000円以下をなくす運動を推進しました。しかしながら、各産別が具体的に交渉を展開している最中にあっては、その都度水準を把握し、交渉推進組合に対して適宜情報提供することは困難な状況にあります。今後、運動の実効性を確保し、中小労組を含めた金属労協全体にどのように波及していくのかについて、実態把握のあり方や提供方法などについて検討し、課題の掘り起こしを行いながら、JC共闘の重要な柱として粘り強く取り組みを継続していきます。
 18歳最低賃金協定は、水準の引き上げを要求・獲得した組合は減少したものの、昨年と同程度の組合が協定の締結を果たすことができました。しかしながら、近年、最低賃金協定の締結数は停滞しており、最低賃金協定の役割に対する理解の促進を図り、全単組締結をめざした取り組みを強化していくことが必要となっています。
公正競争を確保し、非典型労働者の均等待遇を図る観点からも、最低賃金協定の締結を法定産業別最低賃金の設定に連動させるべく、締結促進のための取り組みを推進していきます。

A賃金構造維持分の確保と賃金制度の確立の取り組み
 2004年闘争では、従来以上に個別賃金水準を重視しながら、全組合が賃金構造維持分の確保に取り組むこととしました。
 取り組みの結果、集計対象組合A組合ではすべての組合が賃金構造維持分を確保することができました。また、金属労協全体では、賃金構造維持分・定昇確保の有無を判断できる組合のうち、確保したと判断できる組合は81.0%であり、昨年と同程度の組合で確保することができました。
 経営側の現行賃金水準の維持も負担であり、賃金水準の高さも課題であるとの主張を打破し、日本経済の景気回復基調を着実なものとし、組合員の生活安定を図る取り組みとして、金属労協全体として一定の役割を遂行し得たものと考えます。
 しかしながら、回答引き出し時点に賃金構造維持もしくは定昇確保が判断できない組合は、昨年の40.7%からは改善したものの、33.9%に及んでいます。また、「賃金構造維持分・定期昇給制度」の調査においても、労使または労働組合での確認ができている組合は半数程度に留まっています。
 賃金構造維持分の確保は現行の賃金水準を維持するために重要な取り組みです。通年的な取り組みによって、賃金制度を確立した上で、賃金構造維持分・定期昇給の労使確認、個別賃金水準の把握などを行うとともに、配分交渉の重視などによって、最低でも現行の賃金水準を下回らない取り組みを強化していくことが必要です。

B金属産業にふさわしい賃金水準の実現に向けた取り組み
 金属産業の賃金水準は全産業平均の95%程度に留まっているという課題を抱えているものの、2004年闘争においては、産業・企業の環境条件の違いから、一部の組合での取り組みとなりました。
 ベアの取り組みは、要求に取り組んだ組合、獲得した組合ともに、数では昨年を下回ることとなったものの、ベアに否定的な経営側に対して、粘り強く交渉を展開した結果、企業のおかれた状況の下で一定の格差是正を図ることができたものと考えます。
 また、基幹労連鉄鋼部門が中期賃金改善に取り組み、基本賃金の引き上げが具体的に約束されていないものの、基本賃金を含めて今後の労働条件向上に向けた経営側の意思が表明され、そのあり方について労使検討の場が設置されたことは、今後の取り組みにつながるものとして評価できます。
 金属労協はこれまで、経済成長率、物価動向、雇用情勢、付加価値生産性、産業・企業の業績、賃金の社会性などを総合勘案した上で、要求を決定してきました。ここ数年来、具体的な要求基準の設定を見送っていますが、物価上昇など環境条件が整えば、統一的な取り組みとしてベア要求の検討が必要となると考えます。さらに、賃金の産業間比較、国際比較の観点も含めて、金属産業のふさわしい賃金水準を追求していくことも必要となります。今後の情勢変化を見極めつつ検討を行っていくこととします。

C中小労組の取り組み
 ここ数年、金属産業は、雇用問題への対応を迫られるなど厳しい環境におかれてきました。とりわけ中小労組では、賃金制度の整備が不十分なことも相まって、賃金構造維持分の確保が困難な取り組みが続いてきました。
 2004年闘争では、業績に明るさが見える組合が出始めたことから、すべての規模の組合で定昇込み平均賃上げ額が昨年を上回りましたが、とりわけ300人未満の組合においては昨年の引き上げ額と比較して大きく改善しました。しかしながら、大企業との平均賃金引き上げ額の格差が存在しており、賃金水準の格差拡大傾向が続いているものと考えられます。そうした事実を直視し、賃金制度整備や個別賃金水準を重視した取り組みを推進していくこととします。

(2) 一時金
 年毎に、一時金への業績反映傾向が強まっており、業績連動によって決定する組合も増加しています。業績回復に応じて、その適正な配分を行うことは当然のこととしても、業績が悪化した場合においても、大きく生活に影響を与えないために、安定的に水準を確保する必要があります。金属労協は、こうした観点から一時金水準の改善とともに、固定的支出分を念頭に、年間4カ月を最低獲得水準として取り組みを展開しました。
 この結果、企業業績の回復傾向を反映して、6割以上の組合が昨年を上回る水準を獲得し、金属労協全体として一時金水準の回復・引き上げを果たすことができました。また、年間4カ月を下回った組合は、4割程度となり、昨年の46.4%から改善することができました。
 業績回復の成果は一時金で反映するとしながらも、業績回復途上であることなど慎重な態度を崩さない経営側に対して、業績回復を支えた組合員に対する適正な配分を求めた結果、着実な成果を引き出すことにつながったものと考えます。
 また、一時金を安定確保すべく、ミニマム年間4カ月の考え方の下で粘り強く交渉を展開したことが、水準の下支えにつながったものと評価できます。業績連動方式によって決定する組合が増加し、交渉によって決定する組合においても業績反映傾向が強まっていますが、生活安定のためにも、年間総賃金の一部として安定的に確保することが不可欠であり、今後も水準の下支えの取り組みを強化していかなければなりません。

(3) 年間総実労働時間の短縮や働き方の改善に向けた取り組み
 総実労働時間の短縮や働き方の改善に向けた取り組みは、金属労協全体の取り組みとはなりませんでしたが、積極的に取り組んだ組合においては、労使交渉の俎上にあげることによって労働時間の現状と課題について労使が共通認識を得るとともに、長時間労働の是正や年休取得増について、産別・単組の実態を踏まえた具体的な前進を図ることができました。
 労働時間短縮の取り組みが停滞するなかで、今次交渉における労使の真摯な論議の成果を、今後の年間総実労働時間短縮に向けた取り組みに結び付けていかなければなりません。

(4) 60歳以降の就労確保
 年金満額支給開始年齢が2004年から62歳に引き上げられ、60歳以降の就労確保が社会的な重要課題となっているなかでの取り組みとなりました。
 集計対象A組合では、基幹労連を中心に強力に取り組んだ結果、実質的に年金満額支給開始年齢と接続した制度導入を引き出しました。また、金属労協全体では全単組の半数近い1,755組合が産別方針に沿った制度導入を果たすことができました。制度導入に向けた流れを着実に拡大することができた意義は大きく、今後、高年齢者雇用安定法改正の動向も踏まえながら、さらに金属労協全体で制度実現をめざしていきます。

(5) その他
@退職給付制度の整備
 基幹労連・非鉄部門の傘下組合が、退職金の引き上げという成果をあげることができました。

A仕事と生活の両立支援など
 電機連合、JAMの傘下組合を中心に、次世代育成支援対策推進法への対応として労使協議の場を設置することができました。仕事と家庭の両立支援の観点から、勤労者のニーズにあった行動計画策定に取り組む枠組みを確立することができたものと受けとめます。
 さらに、電機連合が実現した、配偶者出産休暇5日や、キャリア開発支援などを含めて、「新たな働き方」を支える仕組みづくりの先鞭をつけたものと評価できます。
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3.今後のJC共闘の課題

 景気回復は、ようやくその足取りを着実なものとしているものの、経済のグローバル化の加速とともに、企業間競争は熾烈を極めており、一時の危機的な状況は脱したものの、緩やかなデフレ状況も続いています。さらにこうした状況は、産業・企業ごとの収益の二極化を生み出しており、これらの環境条件の変化は、従来型の闘争の推進を困難にしており、状況変化を踏まえたJC共闘の取り組み強化を必要としています。
 春季総合生活改善闘争のあり方については、連合が産業別部門共闘の強化を打ち出すなど、連合−部門−産別の役割について一定の整理がされつつあります。そうした中、金属労協が共闘の考え方や取り組み方向を明らかにし、各産別が実態を踏まえて主体的にその実現に最大限努力していくという共闘の形を示したことは、今後のJC共闘の方向性を一定程度提示したものと考えます。しかし、中長期的なJC共闘の確立にとって未だ課題は多く、一つ一つの課題について見直し、整理をしていかなければなりません。以下、主要な課題について検討方向を示すこととします。

@総合労働条件改善に向けての重点課題
 2004年闘争では、産別の実態を踏まえながら、JC共闘の基本方向として確認した幅広い「総合労働条件の改善」に取り組みました。今後とも、金属産業にふさわしい賃金水準の追求、公正な賃金の追求がJC共闘の重要な柱となりますが、経済・社会が大きく変化する時代にあっては、労働組合が率先して組合員のニーズの多様化や社会の変化に対応した労働条件の枠組みをつくり、その結果を社会全体に波及していくことも重要な役割となっています。
 こうした時代の変化に対応したJC共闘を構築すべく、論議を深めていくことが必要となっています。そのためにはまず、今後のめざすべき金属産業勤労者の姿を描きながら、社会的に共通化すべき労働条件を整理し、JC共闘が重点を置くべき課題とその方向性を明らかにしていかなければなりません。

a.社会的に公正な賃金水準の形成
 企業間競争の激化などによって産業間・企業間の賃金格差が拡大しており、同時に能力や仕事の成果を重視した賃金制度への改定などによって個人ごとの賃金格差も拡大しています。賃金水準の格差には、年齢、勤続、学歴などの属人的な要素、地域、扶養者などの生計費要素、産業、企業規模、企業業績、職種、職務能力、成果などの仕事要素に起因する格差が考えられます。格差とは何か、公正な賃金とは何かという問題は、その時々の経済・社会を反映した価値観とともに変化するものであり、時代の変化に対応しながら公正な賃金水準を追求していくことが必要です。
 賃金が勤労者の生活を支える基礎であることからすれば、公正な賃金水準形成にとって、最低生計費の確保は前提となります。JC共闘では、これまでJCミニマム運動の推進を共闘の柱の一つとして取り組んできましたが、今後とも生計費や賃金水準の実態を踏まえた水準設定によって、賃金水準の下支えを図る取り組みを強化していく必要があります。そうした取り組みが、水準の底上げ、格差の是正につながり、ひいては非典型労働者の均等待遇に影響を与えていくものとも考えられます。
 一方では、多様な人材がやりがいを持って働くことのできる、仕事や職能をベースとした公正な賃金が求められています。大くくり職種別賃金水準の形成によって、仕事や職務能力を重視した公正な賃金水準の確立をめざす取り組みは、産業間の賃金格差を是正し、金属産業にふさわしい賃金水準とする観点だけでなく、労働市場が変化していくなかにあって、社会的に意味のあるものとなると考えます。
 個別賃金水準を重視した賃金決定は、これらの課題解決の基礎となる取り組みです。個別賃金水準を把握、公開することによって、産業間・企業間の賃金比較や、国際比較などを行い、あるべき賃金水準をめざした取り組みを進めていくことが不可欠です。
 これらの課題は、これまでもJC共闘の基本方向として確認してきましたが、それぞれの取り組みを具体化し、実効性のあるものとするために、これまで以上に踏み込んだ検討が必要となっています。

b.「新たな働き方(仮称)」につながる総合労働条件の改善
 現在、「第2次賃金・労働政策(仮称)」策定に向けた論議を進めていますが、そのなかで提起する「新たな働き方(仮称)」につながり、働き方の変化に対応した仕組みづくりを進めるべく、論議を深めていくこととします。(7月段階で、「第2次賃金・労働政策(仮称)」の論議を踏まえて加筆)

A金属労協が考え方を共通化すべき課題と明確な基準を持って取り組むべき課題
幅広い総合労働条件改善の取り組みでは、一律的な基準をめざして取り組む課題だけではなく、考え方や方向性を共通のものとしながら、産業・企業の実態を踏まえて取り組むべき課題もあります。JC共闘の基本方向を踏まえながら、経済・社会の動向を見定め、金属産業として共通化すべき基準について今後検討を深めていくこととします。

a.JC共闘として共通の考え方、運動方向を示す課題
・JCミニマム運動による賃金の下支えを図る取り組み
・基幹産業である金属産業にふさわしい総合労働条件の確立
・個別賃金水準重視の取り組み
・大くくり職種別賃金水準の形成
・非典型労働者の均等待遇確立
・仕事と生活の両立支援

b.JC共闘として基準を示す課題
・JCミニマム(35歳)
・18歳最低賃金協定
・ベア
・賃金の到達目標水準、最低到達目標水準
・一時金の要求基準、最低獲得水準
・年間総実労働時間1,800時間台
・60歳以降就労確保の3原則:希望者全員、年金に接続、組合員
・労災付加補償(死亡時)


以 上

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