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第107号インダストリオール・ウェブサイトニュース(2020年6月30日)

世界の航空宇宙産業――不時着目前か?

2020-06-16

ほんの数カ月前、世界の商業航空宇宙産業の前には、ボーイング737マックス危機を除けば青天だけが広がっていた。純粋な成長の兆しが見えていたが、COVID-19は数十年間で最悪とも言える危機をもたらした。

レポート

各国のロックダウンと旅行禁止は航空産業に途方もなく大きな影響を与えている。ここ8週間、すべての民間航空機の約80%が運航しておらず、ほとんどの航空会社の財務状態に大きな悪影響を及ぼしている

各国政府が介入しない限り、倒産は避けられない。たとえ最悪の事態は回避できるとしても、新しい航空機の注文が延期またはキャンセルされているため、航空会社や整備部門、空港だけでなく航空宇宙製造部門でも失業が発生するだろう。

深刻な人員削減が毎日のように報道されている。今のところ最も目立つのは、ロールスロイスの9,000人、GEアビエーションの約1万人(労働者総数の25%)、ボーイング商業航空機部門の1万6,000人(労働力の10%)、サフランの約5,000人である。

各社の大規模な削減を見る限り、市場はすぐには回復しそうにない。初期の予測では、航空部門がCOVID前の数字に回復するには最低でも5年ほどかかりそうである。なぜそんなにかかるのか。COVID-19関連の規制が完全に解除されたら、この部門は立ち直るのではないか。

この混乱の背後には、そのほかに何があるのか。現在の危機は、以前から存在し、いま実際に現れたいくつかの問題を明らかにしている。

組合は、この危機の解決に積極的に関与する必要がある。この部門は過去10年間にグローバル化が進んだため、持続可能で正当な将来戦略を策定するには、グローバルな組合協力と社会的対話が極めて重要である

重要な問題は何か?

高度に資本集約的

商業航空宇宙は資本集約型産業であり、限られた数の大企業しか活動していない。新しい航空機の開発には数十億ドルかかるが、利益率は2〜4%程度と低い水準にとどまっている。

主要サプライヤー、特に推進装置メーカーの利益率ははるかに高い。その理由は、エンジン生産にあるというよりも、アフターマーケットの整備・修理・オーバーホール(MRO)事業の利益率が非常に高いことである。

この非常に大きな財政的規模は航空会社の貸借対照表に反映されている。つい最近まで、一部の航空会社は多額の利益を上げていたため、毎年数十億ドルを費やして保有機を更新または拡大していた。現在、8週間のCOVID-19ストレス試験を経て、その同じ航空会社の多くが倒産の瀬戸際にある。

ボーイングとエアバスの果てしない対決

商業航空機産業は、最大のライバルであるボーイングとエアバスに支配されている。エアバスがボンバルディアの大部分を買収し、ボーイングもエンブラエル買収の寸前まで行ったときには、この複占がさらに強固なものとなるように思われた。

この対決のもう1つの重要な章は、不公正な取引方法や大型民間航空機関連の違法な国庫補助・助成が絶えず取り沙汰されていることである。2005年以降、アメリカとEU4カ国(エアバスが大規模に事業を展開しているフランス、ドイツ、スペイン、イギリス)は、世界貿易機関で関連紛争にかなりの資源を投資した。

現在、COVID-19ショックの結果、両社は新たな状況に直面している。新規の契約が次々に入って注文が満杯になるどころか、何機かの航空機を売却するために譲歩しなければならない。両社は延期とキャンセルの受け入れを余儀なくされている。そうしないと、主要取引先の破綻を引き起こすおそれがあるからだ。

両社が喧嘩すると第三者が喜ぶ

この対決の影で、間接支援のおかげもあって、第3の企業が浮上している――中国の国有企業COMACである。専門家によると、この新興メーカーが十分な国際競争力をつけるにはまだ少し時間がかかるが、今後最も力強い成長が予測される中国とアジアで、将来のビジネスを勝ち取る見込みが大いにある。

さらに、独立系メーカーとなったブラジルのエンブラエルが、市場で再び重要な存在になっていることを忘れてはならない。ロシアの航空宇宙産業には、共同CR929プロジェクト(2つの通路がある長距離ジェット)でCOMACとも協力して、今後さらに重要な役割を果たす可能性がある。そして最後に、三菱も地域ジェット市場で重要な企業になろうと強い野心を抱いている。

非現実的な成長シナリオ? 間違いなく持続不可能!

航空宇宙産業のCOVID発生前の成長シナリオは5つの仮定に基づいていた。

  • アジアを中心に全世界で中流階級が増加し、飛行機旅行への需要がさらに高まる。
  • 経済は引き続き高度にグローバル化していき、出張旅行需要は長期的に高止まりする。
  • 地域空港の数が増え続け、航空交通が増える。
  • 顧客選好に基づいてハブによる飛行機旅行がますます補完され、一部はより直接的な接続に取って代わられる。
  • ネットワーク航空会社と格安航空会社の共存は経済的に継続可能であり、持続的成長を保証する。

現在、これらの仮定のいくつかは現実味を失っている。

テレビ会議と在宅勤務が部分的に(出張)旅行に代替

在宅勤務を余儀なくされて、多くの出張旅行者はテレビ会議の長所に気づいた――技術的問題がほとんどない、時間の柔軟性がはるかに高い、コスト節約になる、などである。

持続不可能なビジネスモデル

  • ネットワーク航空会社は今、国内便の多くが赤字であり、高速列車による接続に取って代わられたほうがありがたいと認めている。
  • 格安便市場はかろうじて利益を上げている。
  • ネットワーク航空会社と格安航空会社との競争には有害な面もある。

グリーン化――航空宇宙は大きく出遅れ

カーボン・フットプリントを大幅に減らす実行可能な戦略のない産業は持続不可能であり、市場から撤退するだろう。戦略に真剣に取り組まず、顧客や政府を欺く産業は信頼を失い、改革を求める圧力をますます強く受けるようになる。

航空宇宙産業は自動車産業から学び、飛行機旅行をよりクリーンかつグリーンにする努力を強化すべきである。最新の商業航空機の炭素排出量は前の世代より40%少ないということが、希望的観測ではなく事実に基づく数字であってくれればいいのだが。今のところ、灯油なしで航空機を動かす技術的ブレークスルーはない。例えば地上走行中は電動機を使って排出量を減らすことができるだろうが、それによる改善は取るに足りない。

航空を将来の複合輸送コンセプトに完全に統合しなければならない。ハブ概念の利用を減らして直行便接続を促進する方法は、環境に優しい解決策ではない。地域空港の数をさらに増やすことを目指す政策についても同じことが言える。

COVID-19規制はいつ解除?

コロナウイルスは商業航空の未来に対する重大な脅威である。規制措置がいつ完全に解除されるか、COVID-19のさらなる波がやってくるかどうかをめぐる不確実性に加えて、最も重要な問題は、乗客は再び密着して座ることを受け入れるようになるのか、いつそうなるのかということである。

グローバルな構造の開発に着手したばかりのグローバルな産業

航空機の販売・運行・整備・修理・オーバーホールは完全にグローバル化された事業だが、製造ネットワークとサプライチェーンはさほどグローバル化されていない。低コスト国、主にメキシコとMENA地域への生産アウトソーシングは、約20年前に小規模に始まった。その後、インドの巨大な研究開発事業など、世界的な供給ネットワークが大きく成長しているが、まだまだこれだけでは終わらない。

アクション・プラン

グローバルな労使協力・対話の改善

労働組合の視点からすれば、この部門ではまだ真のグローバルな取り組みが見られない。企業レベルに本格的なグローバル労働組合ネットワーク(TUN)がなく、エアバス、サーブ、サフランの既存の3本に加えて、さらにグローバル枠組み協定が増えれば有益だろう。

例えば、迅速な情報交換や、多くの自動車TUNの重要な特色である協調的共同行動も、航空宇宙部門にとって有益であり、現在の危機下で役に立っていただろう。

各国政府に働きかけて国際運輸労連と協力

組合は政府と協力しながら、現状を安定させるうえで役立つシナリオを作成し、この部門の持続可能な産業戦略に共同で取り組まなければならない。インダストリオール・グローバルユニオンと国際運輸労連は、力を合わせてより密接に協力するつもりである。両連盟は共同作業部会を設置し、重要な研究プロジェクトで協力することにしている。

新興経済国の重視

多くの航空宇宙企業がまだ世界的事業展開を拡大しているところであり、サプライチェーンのグローバル化が進んでいるため、インダストリオール・グローバルユニオンは、新興経済国、特にMENA地域とインド、メキシコで、労働組合を構築して支援するための努力を強化していく。COVID-19次第だが、部門運営委員会は2020年末までにMENA地域で重要な会議を開催する予定である。

 

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